はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

言い訳しない

2010-07-28 20:53:12 | ペン&ぺん
負けた時に言い訳なぞしない。大切なことだ。
  ◇
2002年10月20日。京都の最高気温は22.2度。湿度85%で雨が降っていた。雨は競馬場にも降り注ぐ。
 メーンレースは第63回菊花賞。1番人気は、その年の皐月(さつき)賞馬ノーリーズン。天才ジョッキー武豊が騎乗する。
 ゲートが開いた直後、ノーリーズンはバランスを失う。鞍上(あんじょう)の武は、前のめりの姿勢になり、落馬した。わずか2秒ほどの出来事だった。
レース後、武はノーリーズン(理由不要)の馬名そのままに「自分で(落ちた)。理由はない」と語った。毎日新聞大阪本社版の運動面は「開始2秒、理由なき落馬」の見出しで報じている。
   ◇
 2010年7月19日、鹿児島市の最高気温は32.6度。湿度63%で快晴。ピッチに降り注ぐ太陽光が肌を突き刺す。
 天皇杯サッカー県予選準決勝。今季誕生したばかりのFCカゴシマは、連覇を狙う鹿屋体大に挑んだ。
 前半13分、先制ゴールを許したFCカゴシマは後半に入っても同点ゴールを奪えない。何度か訪れた好機は相手の好守に阻まれた。
 ロスタイムをのぞき残り5分。鹿屋体大のゴール前にボールが落ちる。前に出てGKが、ゆっくり処理しようとした。試合終了のホイッスルを待つ時間帯。一瞬のことだ。FCカゴシマのDF田上裕(たのうえゆたか)がボールをさらい、同点ゴールを決めた。
 試合は延長戦に入り、延長前半6分、FCカゴシマは決勝ゴールを奪われる。残り時間は前がかりに成らざるを得ず、延長戦後半も2失点し、1-4で敗戦した。点差以上の善戦だった。
   ◇
人生に勝ち負けは付き物。天才騎手ですら落馬する。ましてや、発足間もないクラブチームに、言い訳は必要ない。ただ、前進あるのみ。
                              (文中敬称略)
鹿児島支局長 馬原浩  2010/7/27 毎日新聞掲載