はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

大切な人と

2010-10-18 23:20:05 | ペン&ぺん
 シャガールと言えば、恋人たちが空中に浮かぶ絵だ。女の手には花束。男は身をねじり、くちづけを迫る。まるで若い子たちの心模様そのまま。キスすれば、心は舞い上がる。それでいて身もだえするほど切ない。正直な絵。手元の画集は「シャガール 幻想の交響詩」と表題を付けている。
 その画集を買って初めてシャガールの「戦争」を知った。その油彩画は1964年から66年にかけて描いた大作。横2㍍31㌢。縦は1㍍63㌢だから、華奢な女性の背丈を超す。
 取り巻く赤黒い炎。逃げ惑う人たち。荷車は満員。左下に泣く女。それを背後から支えようとする男。右上に十字架に張り付けられたキリスト。その足に、すがる人。
 画集巻末の図版解説によれば、中央に描いた白い巨大なロバは平和のイメージ。戦禍から逃れる人々に「救済の王国」を提供しようとしているという。
 シャガールは1887年、帝政ロシア生まれのユダヤ人。革命後のソ連時代を経て、フランス国籍を取得。第2次大戦中に、米国に亡命するなど、自身も戦禍に追われた人だった。
   ◇
「戦争」は焦げ茶色と赤黒い色調。自分の部屋に飾りたいとは思えない絵だ。大き過ぎるし。それにくらべて今、鹿児島市の長島美術館で開催中の版画展「ダフニスとクロエ」は色彩の魔術師シャガールらしい。捨て子の少年少女の愛を描いたカラーリトグラフ42点。例によって空を飛ぶ人。リンゴを少女に恥じらいつつ渡す男の子。淡く柔らかなタッチだ。
 詩人、谷川俊太郎は、こう表現した。
「シャガールを見つめていると、あのひととの日々がよみがえる」(詩集「シャガールと木の葉」から)
版画展は、来月28日まで。行くなら独りではなく、大切な人と、ぜひ。
毎日新聞鹿児島支局長・馬原浩
◇ ◆
補注。シャガールの絵は、検索サイトで「シャガール」「作品」などと入れて検索すると、いくつか見ることが可能です。ただし、作品「戦争」は、筆者・馬原は、探し出すことが出来ませんでした。根気が続かず……。絵は、展覧会で見るべきものですね。絵の大きさが分かります。画集で眺めるもの良いですが、大きさを思い描くのに苦労します。

「限界ですネ」から

2010-10-18 19:13:26 | はがき随筆


 過日この随筆を書き、8月7日、先生5人による人工膝関節手術をする。半身麻酔で、先生が看護師に指示する声、変な骨を削る響きも長いようで短い2時間が終わった。「終わりました」の声に肩の力が抜ける。術中は少しの痛みもなく、術後も無痛でパスしたので安堵が胸に広がった。術後の経過も良く、先生の言葉通りに成功に終わり感謝に尽きる。今は元気にリハビリのため通院している。
 退院の9月10日。すっきり秋空が広がり、帰宅すると庭に満開のネムの花、やさしいムラサキシキブ、秋バラも5部咲き。うれしい出迎えをしてくれた。
 鹿屋市 小幡晋一郎 2010/10/18 毎日新聞鹿児島版掲載
写真は
フォトライブラリより

救出に命の重み思う

2010-10-18 17:50:53 | 岩国エッセイサロンより
2010年10月17日 (日)
   岩国市  会 員  吉岡 賢一  

 チリの鉱山落盤事故で、地下に閉じ込められた作業員が、 一人また一人とカプセルで引き上げられた。 

 地獄の底て神や仏に守られ、人間の英知による救出作戦で33人全員が助け出されたことは、まさに世界中の拍手喝采を浴びる値打ちがある。 

 救出された一人は「これからまた何があってもに正面から立ち向かっていける。決して神は私を見放さないと信じていた。われわれを救うために偉業を成し遂げてくれる人たちがいると、私たちは確信していた」と述べている。

 生きることに対する執着、生への飽くなき挑職の姿勢は、いつの世も神仏はお見通しであり、必ず味方してくれる時が来る。大きな力を授けてくれると信じている。

 つらさの向こうに見えるほのかな明かりを信して、いま一度命の重みを思い起こし生き抜くことの尊さに思い至るとき、人間はひと皮むけるのだろう。

 生きていることは本当に素晴らしい。それもちょっと前向きになれたら、さらに素情らしい人生が開けるのだと思う。

  (2010.10.17 中国新聞「広場」掲載) 岩国エッセイサロンより転載