はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

「もう一度」

2010-10-27 20:40:19 | 岩国エッセイサロンより
2010年10月26日 (火)

岩国市  会 員   安西 詩代

40代のある日、新宿駅の雑踏の中で「もしもし」と肩をたたかれた。見知らぬ男性に声をかけられるのは、独身時代以来のこと。一瞬、胸がときめいた。

「お茶をご一緒にいかがですか」「いえ、私には夫がいますのでお断りします」と光の速さで会話が頭の中を駆け巡った。笑顔で振り向くと彼は小声で「スカートの後ろのファスナーが開いてますよ」。

あの妄想の時の頭の回転の良さ。今のさび付いた頭にも刺激を与えると、少しは回転するのだろうか。テレビでの認知症のテストで、机の上の物4個が、3個しか思い出せない。

 (2010.10.26 毎日新聞「はがき随筆」)
岩国エッセイサロンより転載

道つくり

2010-10-27 20:21:52 | 女の気持ち/男の気持ち
 毎年秋に行う「道つくり」が、予定時間をオーバーしてやっと終わった。作業後の飲み会で、町内会長が「遅くなりました」とお詫びのあいさつをした。詫びることはない。彼が一番激しく働いたのだから。
 一昔前までの「道つくり」は楽だった。行事が近づいたら道辺りの田畑や山の所有者たちは草を刈り、木の枝を払い、道を直して待っていた。会員たちは釜や鍬を担いで歩くだけ。景色のいい所では座って雑談を楽しんだ。
 今はやぶになって通れない所がある。この10年の間に働き手の先輩たちの多くが亡くなった。順繰りだから仕方ないが、後継者が育たないのが寂しい。若者たちは米や野菜作りでは生活ができないから、農地を離れて町で働く。親たちも同じような暮らしだったが、休日には田畑を耕し道を整えた。今の若者たちにはその余力がないのが残念だ。休日には眠るか遊ぶかしている。誰も責められない。
 今年は町内会長など数名が刈払い機で作業したから、農道も山道も通れるようになった。鎌だけの手作業だったら、「年内いっぱいかかっても終わらん」と誰かが冗談交じりに本音を言う。もっともだ。
 我が町内の良き習慣はこうして継続されている。10年先もと願うが、それにはみんなの協力が要る。そのころまで私は働けるかなあ。たぶん無理だろう。せめてみんなの迷惑にならないように暮らしたい。
  山口県光市 岩城勝彦 毎日新聞の気持ち欄掲載

みんな76歳

2010-10-27 20:14:49 | はがき随筆
 3年目を迎えた市近郊一泊の学年旅行。宮崎と福岡からの参加者2人で総勢7人。昨年の十数人に比べて、この半減は。原因は「夫を1人置いては不安だから」という。
 そうなのだ。みんな76歳。個人差は少々あるものの、ほとんど、ご主人は年上とのこと。さもありなんと欠席者の近況を伝える。宿に着いて一休みすると栗拾いに出かける。きれいに刈り込んだ斜面に転々とイガらしきものがみえる。あった! 艶のある栗が点々と。
 部屋に戻って1人7個ずつ分けた。76歳の栗拾いつき一泊の旅が始まった。
  鹿児島市 東郷久子 2010/10/27 毎日新聞鹿児島版掲載