はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

後に残るものは

2010-11-14 21:55:58 | 女の気持ち/男の気持ち
 「人生を終えたのちに残るのは、集めたものではなく、与えたものである」
 この言葉は、私がバスを降りて勤務先まで歩いて行く途中にあるお寺の掲示板に書かれていたものだ。
 その言葉に触発されて考えた。私がこれまでに他の人に与えたものは、何があるのだろうか、と。
 自分の人生を振り返ると、いろいろな人々との出会いがあり、人から与えてもらったことの方が、与えたものよりはるかに多いことに改めて気がつく。
 人生の分岐点では、私に必要な言葉を与えてくれた人がいた。それは友人、知人だけではなく、本の中の登場人物だったりした。
 愛の貸借対照表を作るとしたら、確実に与えた愛より、与えられた愛の方が多い。
 この借金の部分を、どう穴埋めしていくか。それが私の残りの人生の課題なのだろう。
 特別な才能も、お金もない私だが、一番大きな財産は健康である。この健康な体を元手に、お返しの人生を送りたいと思う。
 私が弱った時に元気をもらったように、私も人に元気を与えたい。希望を持てないで居る人には、「朝の来ない夜はない」と伝えたい。未来を担う子供たちには、命の尊さを語っていきたい。
 そして願わくは、人生の幕引きの時に、誰かに言いたいものである。
 「ありがとう。いい人生でした」と。
  北九州市 淺野かつえ 2010/11/14 毎日新聞の気持ち欄掲載

カラムシ

2010-11-14 21:46:31 | はがき随筆
 道路の片側の土手にカラムシが伸びている。歯の表は白い短毛が密生し、裏は白く卵形。この野草を見ると66、67年前を思い出す。戦禍激しく物資不足の折、小学生も、その波を負う。
 養蚕の盛んな地方だったので桑の樹皮、それを取れない人はラミーかカラムシの皮をむいて供出するようになった。桑畑のない私を仲良しの節ちゃんが誘い、2度ばかりお邪魔したが、後は野山でカラムシを捜した。
 供出日、友だちは大きな束。小さな自分の束に肩身の狭い思いだった。繊維にして戦地で使うと説明された。当時は何もかもお国のためだった。
  出水市 年神貞子 2010/11/14 毎日新聞鹿児島版掲載