はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

け?

2010-11-24 23:17:49 | ペン&ぺん
 「タバコけ?」
 そう言われて、頭の中をぐるぐると疑問が渦巻いた。若いころ。宮城県仙台市でのこと。
 吸い殻があふれた灰皿と飲み干した缶ビールが並んだテーブル越しに。
 言った相手は、青森県津軽出身の友だち。この場合の「け?」は「くれない?」の意味。津軽では「タバコを1本いただけませんか?」を「タバコけ?」と言うらしい。
 いや、そいつだけかもしれぬが。
  ◇
 「こけけ」も、全く理解不能でした。かごんま弁。誰に最初に言われたのだろう。「ここに来い」を鹿児島では「こけけ」と言うらしい。
 いや、鹿児島でも最近の若い子たちは、あんまし言わないかもしれん。
 会社の先輩記者で、鹿児島市内の高校の卒業生がいた。
 都会の大学に入学し、電車に乗った。電車ではなく地下鉄だったか。見知らぬ乗客の男が「け」を語尾に連発していた。
 先輩も、故郷を離れ、お里心が膨らんでいた。思い切って声をかけた。
 「失礼ですが、鹿児島の方ですよね」
 見知らぬ男は答えた。「かごすま? んでね、津軽」
   ◇
 ちなみに、鹿児島で黒板消しのことをラーフルと呼ぶ。ラーフルは黒板消し製造販売業界(そんな業界、あんのけ?)では普通に使うらしい。業界用語?
 ちなみに、ちなみに、宮城県仙台市で私が大変お世話になった恩師は、黒板に文字を書くチョークのことをハクボクと呼んでいた。白い墨で、ハクボク。
 ラーフルという言葉を教えてくれた鹿児島の若い男の子に、こう尋ねてみた。
 「黒板消しをラーフルと呼ぶならチョークは、なんて言うのけ?」
 彼の答え。「チョークはチョークだがね」
 それって何け? チョーつまんなくないのけ?
  鹿児島支局長 馬原 浩 2010/11/22 毎日新聞掲載
◇ ◆ ◇◆
 柿と、海の牡蠣(かき)。雨と飴(あめ)など、アクセントが違う話しことばを、書き言葉で表現し、伝えるのは難しいものです。イントネーション(声の上がり下がり、抑揚)もあります。「いる」の語尾を上げて「いる?」と言えば、疑問文になるが、しゃべりことばでは、疑問符は語られません。単語を話す速度、ピッチも微妙な語感を伝えます。
 方言を書き言葉で描くことは無理。無理でした。反省しています。ただし、方言の楽しさを少しでも伝えたかったというのが筆者の思いです。その思いが、わずかでも伝われば幸いです。

はがき随筆

2010-11-24 22:49:47 | はがき随筆
 小説家、池波正太郎先生は、文春文庫「鬼平犯科帳の世界」の中で、いろいろな素材をどうにでも料理できるし、随筆は作らず飾らず自分の全人格をありのままに出しきって書くものと、おっしゃる。なるほど、はがき随筆を、もう何年も読んでいると、名前に親近感がわき、会ったことのない人の顔がぼんやり浮かぶ。今は亡き志風さんには、その随筆に感動し、たまらず訪ねてお会いして文通がはじまった。かく言う私は、親しい友と飲むたびに、ジキルとハイドと悪口をたたかれる。ここは、かく乱戦法で、黒子に徹するが良かろうと心に決めている。
  指宿市 有村好一 2010/11/23 毎日新聞鹿児島版掲載

ひがんばなの里

2010-11-24 22:27:27 | はがき随筆


 花期が心配だったが、9月26日、妻と、さつま町の「ひがんぱなの里」柊野(くきの)へ向かう。
 そこは、人家の少ない山里だったが、道路脇や田の畦が、何万本もの赤く燃えるような彼岸花で埋め尽くされていた。帯状に群れる花の色は、収穫前の稲の黄金色さえも目立たないぐらいに圧倒し、目を射た。過疎の村で、よくもこれだけ花を植えたものだ、と感激した。
 花見客は写真をとり、飽かず眺め、花を楽しんでいる。
 だが、田を手入れする翁の後ろ姿はどこか寂しそうだった。私は、何年後も彼岸花が見られるか少し気になった。
  出水市 小村 忍 2010/11/22 毎日新聞鹿児島版掲載