はがき随筆9月度の入選作品が決まりました。
▽鹿児島市薬師、種子田真理さん(59)の「異床同夢」(19日)
▽同市城山、竹之内美知子さん(77)の「真夜中の報告」(1日
▽屋久島町平内、山内淳子さん(53)の「涼風」(23日)
の3点です。
季節の変わり目のせいか、夏の草花を愛でたり、初秋の菜園の稔りを楽しんだり、という季節感を表した文章が、9月は多かったようです。それぞれに心なごませる文章でしたが、難を言えば、もうひとひねり欲しいという印象をもちました。
種子田真理さんの「異床同夢」は、交際中に、煙草を止めたご主人が吸いたがっている夢を見たことを話すと、ご主人も吸ってしまった夢を見たという不思議な経験が書かれています。霊の交感とまではいいませんが、夏目漱石が『漾虚集(ようきょしゅう)』でそのことを小説にしています。
竹之内美知子さんの「真夜中の報告」は、ご主人の初盆に帰省した孫娘が、プロポーズしてくれた恋人の印象を話してくれた。お祖父ちゃんにどこか似ているという報告に、思わず胸がときめいた「お盆の夜」のことでした。これも『樣虚集』ですが、恋愛感情は遺伝するという小説があります。
山岡淳子さんの「涼風」は、夏休み中の空っぽの教室で仕事をしていると、涼風が通り抜けた。これを「極楽風」というのかと感謝の気持ちがわいたという、瞬時の感覚をとらえて、それが巧みな文章になっています。こういう感覚には心を洗われるような懐かしさを感じます。
入選作のほかに3編を紹介します。
志布志市志布志町志布志、小村豊一郎さん(85)の「彼岸花」(24日)は、その時期になると固い土を割って必ず芽を出す彼岸花の不思議が描かれています。そこから、若山牧水の生家の彼岸花、それに墓参などを連想し、自然の神秘に思いを馳せた文章です。
指宿市十二町、有村好一さん(62)の「FMかのや」(2日)は、故郷から内海を隔てた指宿に暮らしていて、FMかのやから聞こえて来る大隅の方言を懐かしんでいるという内容です。何時まで経っても「ふるさとの訛りなつかし」ですね。
出水市大野原町、小村忍さん(68)の「伝説の大楠」(25日)は、恋を裂かれた二人が、それぞれの思いを楠の実に託して植え、大楠になったという伝説の紹介です。恋はかなえられないものだからこそ、このような伝説に憧れるのでしょうね。
(鹿児島大学名誉教授・石田忠彦)