はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

「はじめまして」

2012-10-02 22:18:44 | 岩国エッセイサロンより


2012年10月 2日 (火)
   岩国市  会 員   片山 清勝

帰省した中2の孫娘。あいさつが終わるや否や大きな袋から取り出しだのは、黒っぽい布で包んだ箱。出てきたのは、生まれて半年の1羽のインコだった。   

孫の手に移る。腕や肩、頭へと動き回る。動きながら孫と忙しく会話をする。新幹線での真っ暗な鳥かごのストレスを発散しているようで、ほほ笑ましい。  

何度目か差し出した私の指に移ってきた。「初めての指だ」と観察している。「お帰り」と声をかけると、タイミングよく鳴いたのが「はじめまして」と聞こえた。これからは1羽が加わる孫の帰省、楽しみが増えそうだ。

   (2012.10.02 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

写真は日々のことを徒然にブログより

「母の心情」

2012-10-02 22:16:59 | 岩国エッセイサロンより
2012年9月29日 (土)
       岩国市  会 員   中村 美奈恵

 代々受け継がれてきた田んぼを「今年からつくらんよ」と春先、実家の母が言った。16年前、父が亡くなってからも、せめて家の前だけはとつくり続けてきた。土づくり、除草や水の管理など1人で苦労もあったろう。田植えと稲刈りの時期しか手伝いに帰らない私は、反対できなかった。田は畑となり、この夏、甘いスイカやトウモロコシが味わえた。けれど、真っすぐ植えた苗がすくすく育っているか、穂は出たか、成長を見守る楽しみはなかった。

 収穫の季節。頭を垂れた黄金色の稲穂を、母はどんな気持ちで眺めているのだろう。

  (2012.09.29 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

不思議二つ

2012-10-02 21:59:14 | はがき随筆
 少年時代、新品の登山靴であちこち山歩きを始めた。高校卒業の頃には、その勲章のような立派な靴ダコの所有者だった。
 腰痛対策として温泉通いを始めた。硬直した腰の痛みに耐え、やっと脱いだパンツが温泉効果でサッとはけるのだ。
 半年後「あ!」。気が付くとあの頑固な靴ダコが見事に消えていた。「なんで…?」
 23と11は少年時代の数字ダコだ。数年間毎日、ポンプを23回ついたバケツの水を11回、歯を食いしばって風呂へ運んだ。あの日の23と11。半世紀たった今でも私の記憶の底から、不意に無意味で不思議な顔を出す。
  出水市 中島征士 2012/9/27 毎日新聞鹿児島版掲載

同じ歌でも

2012-10-02 21:52:08 | はがき随筆
 「若き日早や夢とすぎ 我が友皆世を去りて」とフォスターのオールド・ブラック・ジョーを歌うと、中学2年時の授業で「心をこめて歌いましょう」と指導されたことを思い出す。 将来の夢に向かって助走し始めたばかりの頃、老いる日は遠すぎてただぼんやりしていた。
 40代半ばで大病を患い、不自由になった体の機嫌をとりとり、叱咤激励しつつ過ごしてきて、もうすぐ65歳になる。
 同じ歌なのに年とともに自分にフィットしてきた。
 特に心をこめようと思わなくとも、しみじみと歌えるようになった。
  鹿児島市 馬渡浩子 2012/9/26 毎日新聞鹿児島版掲載