はがき随筆・鹿児島

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「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

「どうでもいい湯」

2012-10-10 18:09:39 | 岩国エッセイサロンより
2012年10月 9日 (火)
岩国市  会 員   山下 治子

湯張りを夫に頼んだ。「先に入るぞ」と風呂場に行った夫が「ああ、おれとしたことが」と叫んだ。浴槽が空っぽ。栓を忘れ、湯を出しっ放しにしたとしょげている。

性根のない私なら「またやっちゃった」で済むことも、完璧を好む人間には自分が許せぬ失敗らしい。「これではもう、君を叱れんな」と落ち込む夫に、してやったりとほくそ笑んだ。

その後、当月分の小遣いを渡した時、「500円差し引いてくれ」と言われた。 「何で?」「無駄に流したお湯代だ。長崎の温泉、500円だったよな、入浴料」。何も言えない。

(2012.10.09 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載