はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

開花

2012-10-15 20:50:09 | はがき随筆


 コスモスの開花を、今日か明日かと心待ちしていた。
 そして新聞を取りに出た時、2輪咲いている。「おはよう、かわいいね」と声をかけた。
 確かピンクだと思うが、その時、定かではなかった。ラジオ体操に出た時、淡い色のピンクであることを確認した。
 昨年、種をまき、コスモスは3月ごろ、芽を出した。私が体調を崩した6月半ばからは、水掛に注意を払い、しなびている「合図」を見ては、特に心がけた。
 今日の秋空の深さを背景にコスモスを見ると、深秋の思いにあふれてしまう。
  鹿児島市 東郷久子 2012/10/9 毎日新聞鹿児島版掲載

秋の魚の味

2012-10-15 20:36:22 | はがき随筆


 七輪に網を置き半分に切ったサンマを並べる。脂が滴り始めると燃え上がり渋うちわで消す。熱々にしょうゆをかけ口に運ぶ。子供の頃の光景で、味を楽しむというより栄養源である。今はロースターで炎も煙も出ない。かすかな音と匂いが七輪の時を思い出させる。すでに大根おろしが添えられた皿には櫛形に切ったカボスも。目の前に置かれるのももどかしく箸はまずはらわたにいく。その苦みと酸味、辛みが口いっぱいに広がるのを楽しむ。子供の味覚では知ることのできない大人の味が醸し出される。酒は熱かん。そして被災地の秋を思うのである。
  志布志市 若宮庸成 2012/10/8 毎日新聞鹿児島版掲載

運動会

2012-10-15 15:14:23 | はがき随筆
 妻の祖母たねさんは、どこかで運動会があると、早朝、おにぎりを作り出かけて言ったという。その話を聞いた時、なんという「運動会女子」と私は思った。それから後、一族の飲み方の席で、たねさんには戦死した子と病死した子の2人がいることを知った。2人とも足が速く、1人は100㍍走の県記録を持っていたとのことだった。
 たねさんは、在りし日の2人の子を重ねて、100㍍走の先頭を駆けていく少年に声援を送っていたのかもしれない。運動会は、亡くなった2人の子が、たねさんのもとへ帰ってくる場所だったのだ、きっと。
  伊佐市 清水恒 2012/10/7 毎日新聞鹿児島版掲載  

カミさん流

2012-10-15 14:58:47 | はがき随筆






 中種子にピザのおいしい店があるからと、いとこに誘われたカミさん。「洗濯機は回しておいたから、あとはお願いね」と言い残し、出かけてしまった。
 洗濯物を干し終わってから庭を眺める。パキスタキスの横にニラが花を咲かせている。隅のほうにはナツスミレが咲き、隣にはセンナリホオズキが枝を伸ばしている。小さい花だがアップにしたらきれいかもと、カメラを持ち出した。そんなところへカミさんが帰ってきた。ピザは注文しておかなくてはだめだったそうだ。
 庭造りも買い物も出たとこ勝負。これかカミさん流だ。
  西之表市 武田静瞭 2012/10/6 毎日新聞鹿児島版掲載

トランペッター

2012-10-15 14:52:45 | はがき随筆
 夕刻になると決まって響き渡るトランペットの音色。最初は「プー」と擦れた音階だけがどれほど続いただろうか。伸び悩む技量を人ごとながら心配する。庭の草を取りながら、吹奏楽部に入部したばかりの小学生か、中学生かと一人思い巡らす日々。最近は聞き覚えのあるメロディーも1小節は吹ける。
 この夏休みには午前中にも聞けたので、学生さんであることには間違いないが、音の主の幻のトランペッターを拝見したい気もする。イメージとかけ離れていたら、がっかりするのではと、今日もちょっぴり上達した演奏を楽しみにしている。
  鹿屋市 中鶴裕子 2012/10/5 毎日新聞鹿児島版掲載