はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

ワックスがけ妻と汗

2012-10-07 23:48:15 | 岩国エッセイサロンより
2012年10月 6日 (土)
    岩国市  会 員    片山 清勝

 ようやく涼しくなったので、延び延びになっていた床のワックスがけをした。家具は妻と二人で移動。何年もやっているので呼吸は合う。

 ワックス容器の注意書きに「拭くのではなく塗るように」とある。最近は品質が良くなり、取り扱いやすくなった。乾燥も10分ほどで助かる。

 布にしみ込ませたワックスを腰を落として塗る。新築から続けて17年になる作業だが、塗りむらが発生しないようにゆっくり細心の気を配る。

 昨年、入院したこともあり無理しないようにと言う妻の意見も入れ、これまでは半日で済ませていた仕事を、ことしは2日にした。それでもいい汗をかいた。

 乾燥して生き返ったように光る床を見ながら冷たいお茶を飲む。ことしは家具を戻す時、少し位置を変えた。見慣れた部屋だが少し広く感じる。

 疲れを癒やしてくれる心地よい風に、夏の間しっかり日差しを遮ったカーテンが揺れる。「次はカーテンを洗濯」と妻は立ち上がった。

    (2012.10.06 中国新聞「広場」掲載) 岩国エッセイサロンより転載

「うれしい誤算」

2012-10-07 23:45:08 | 岩国エッセイサロンより
2012年10月 5日 (金)

山陽小野田市  会 員   河村 仁美

「けんかしてむしゃくしゃしたので鉄道模型をいっぱい買った夢を見た」と言いながら主人が起きてきた。40年も我慢していれば夢にも出てくるだろう。聞き流していたら本を買って研究を始めた。本くらいならいいかと油断していたら、販売店をネット検索。

叔母の葬儀で愛媛の実家に帰省した。戻ると、退屈だったからと買い込んだ箱の山が私を出迎えてくれた。数日後、「何も文句言わないし、応援してくれるから不思義」とポツリ。「だって、これからはエッセーの集いに心置きなく出かけられるもん」とニンマリほほ笑みながら答えた。

   (2012.10.05 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載



「老」の経験や知恵生かそう

2012-10-07 23:43:07 | 岩国エッセイサロンより
2012年10月 4日 (木)
    岩国市  会 員    片山 清勝

 「老」の字について問うと大方の人が「年をとった人」と答えるという。超高齢化社会と称されるいま、そうかと納得もする。しかし大老や家老、老熟に老練、老舗などいくつもの老を含む味わいある日本語がある。

 「老」は多くのことに経験を積み巧みな技や知恵を持っていることを表している。そこには「敬う」という意味を感じる。かって家庭では、家事や育児などは父母から教わり、そこから和が生まれた。地域の伝統や行事は年長者から伝えられ、引き継がれた。そこに自然と絆が芽生え、育っていた。

 どうしてそれが薄くなったのか。核家族化が進み、情報はネットや書籍中心となり、経験者から学ぶ機会が失われた。情報化の進歩や多様化への対応困難さなども老の出番を減らした。老は増えたが、その蓄えた力の使い場が不足している。

 孤独死や老人介護など高齢者を取り巻く環境は厳しい。民間活動も合めこうした問題へ取り組みがされているが、改善策は容易には進まない。

 東日本大震災を機に大きなうねりとなった絆の復活。そこに高齢者の経験と知恵を引き出し活用し、「老」を単に「年をとった人」という単純なイメージから脱却できないか。

   (2012.10.04 朝日新聞「声」掲載)岩国エッセイサロンより転載