はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

「そのうちね」

2012-10-03 21:46:35 | 岩国エッセイサロンより
2012年10月 3日 (水)
岩国市  会 員   安西 詩代

「もしもし、アンザイさんですか」と電話がかかると警戒する。安西を「ヤスニシ」となかなか読んでもらえない。それゆえ「アンザイ」と言われると初めての方だとすぐ分かる。

しかし、近所の小2の友人は「アンザイさ~ん」と遠くから可愛い声で私を呼ぶ。彼は幼稚園の時から、そう思い込んでいる。ある日、表札を指して「おばちゃんの名前はヤスニシと読むのよ」と言った。彼は何の事かなという顔をして「フーン、そうなん」と答えた。次の日、私を見つけた彼が「アンザイさ~ん」と。まあいいか。気が付く日を楽しみにしよう。

 (2012.10.03 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載

「農を生きた友の苦境に」

2012-10-03 21:44:41 | 女の気持ち/男の気持ち
岩国市  会 員   吉岡 賢一

田地田畑のある農家の婿養子となった同級生のもとへ、半ば親切の押し売りみたいな形で稲刈りの手伝いに行ったのは去年の秋。

「今年も行こうか」と電話すると、「去年手伝ってもらった広いところは米作りをやめた。今年は家の前と後ろの小さな田んぼだけにしたから、手伝いは要らないよ」と言う。昨年までは2㌧ばかりの新米をJAに出荷してきたが、もう限界らしい。

老体にむち打って精出しても、先行投資した1000万円超の農機具の維持管理が難しい。しかも年々の必要経費高騰によって、米を作れば作るほど赤宇なのだというではないか。その上八十八の手間暇かける労力が要る。同級生の中では彼が一番痩せていて、苦労の跡が目に見える。

田や畑は作らなくても放っておくわけにはいかない。隣接する耕作中の田んぼに害を及ぼすので、草刈りや維持はしなくてはならない。しかも、一旦荒らすと復旧にまた大きな労力と資金が要る。苦労を数えりゃきりがない。大きな農家の婿養子になった彼を羨ましく思ったのも今や昔の物語。米作りこそ縮小したが農作業には追われる彼を、せいぜいカラオケに誘い出すくらいしか能がない。

それにしても食料自給率40%を割り込んだわが国の農業政策。外国からの兵糧攻めにあったらひとたまりもないのではないかと心配する。食糧他力本願からの脱却、急務である。

  (2012.10.03 毎日新聞「男の気持ち」掲載)

村祭り

2012-10-03 06:33:40 | はがき随筆
 中学生の時、仲間と遠く離れた村の神社の秋祭りに出かけることになった。約束の場所に全員集まらず、私たちは先に出発した。自転車と歩き。お互いの連絡方法はない。公衆電話も道路標識もない田舎のデコボコ道。後からくる友人は道も知らない。私たちは分かれ道に木の枝や小石を使って道しるべをした。目的地の神社はにぎやかだった。そこで全員集合して喜び合って祭りを楽しんだ。子供だけの大冒険。50年前、どんな時も工夫をして知恵を出し合い、毎日を過ごしていた。物はないが、平和な時代。時間はたっぷりあったような気がする。
  指宿市 有村好一 2012/10/2 毎日新聞鹿児島版掲載

孫の授業参観

2012-10-03 06:20:45 | はがき随筆
 授業参観に行ってくれないかと働いている娘から電話。こんな役も回ってくるのかと昔を思い出しながら門をくぐった。
 若いお母さんたちに気後れしていると手を振る孫娘にほっとして教室に入る。図画や習字に見入っているうちに3年生の国語の勉強が始まった。音読み訓読みで、訓読みには送り仮名が付くと丁寧に教える女の先生。黒板の漢字の読みを発表することになった。手が耳のと止まり振り向く。私が首をかしげるとハイと手を伸ばした。親を探すしぐさは今も変わらない。肩に手を置き、よくできたねとささやき教室を後にした。
  薩摩川内市 田中由利子 2012/10/1 毎日新聞鹿児島版掲載

山の恵み

2012-10-03 06:13:18 | はがき随筆
 車で1時間ほど走ると、山の中腹にこんこんとわき出る清水がある。澄み切ったきれいな水だ。時々父母と3人でくみに出かける。車の両側はハギの花。クリの実ももう少しではじける頃だ。トンネルを過ぎると、かすかに赤みを帯びた紅葉街道。車窓の風は、秋の気配を運んでくれている。到着すると2番目であった。前の車の方もタンクやペットボトルをたくさん積んでおられた。私たちも70本はくんだろうか。あふれ出る水は冷たく、ペットボトルはたちまち結露する。緑の山々と清い水、澄んだ空気。この尊い自然に感謝しつつ家路についた。
  肝付町 永瀬悦子 2012/9/30 毎日新聞鹿児島版掲載

神聖な地

2012-10-03 06:04:59 | はがき随筆
 鹿児島空港から4㌔北の森に入った。200段を超える急な石段。周りの杉木立からはセミの大合唱が聞こえ、木陰に流れる風は心地いい。初秋の空間を一段一段踏みしめ登った。
 古事記編さん1300年ということで「高千穂山の西」と記された山幸彦の高屋山上陵を、女房と「現場検証」に出かけた。
 ふとSF的発想が。現在文明が消えた数千年後。「神聖な地だから誰も入れない」と言い伝えられた場所。そこは、樹木がうっそうと茂り丘のようになった、核のゴミの最終処分場だ。
  鹿児島市 高橋誠 2012/9/29 毎日新聞鹿児島版掲載

吹っ飛んだ笑顔

2012-10-03 05:55:06 | はがき随筆
 台風16号で敬老祝賀会が吹っ飛んだ。今年は老人会だけで計画していた。栄養満点で豪華な弁当も、人生大学の三味線クラブの演奏も頼んでいた。
 重い足を引きずって参加したいと、多くの方が楽しみにしていた。踊り、カラオケ、おしゃべりで公民館いっぱいの笑顔が見られる予定だった。あの方もこの方も満面の笑みが期待できたのに。台風16号はそんな老人の笑顔を吹き飛ばした。
 みなんで笑って、楽しい一日を過ごしたい思いが吹っ飛んだ。台風には老人パワーも通じなかった。
 残念だった。
  出水市 畠中大喜 2012/9/28 毎日新聞鹿児島版掲載