はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

高隈山

2014-11-01 08:07:58 | はがき随筆
 日課となったウォーキング。高隈山をあがめながら歩いていると、寝姿山(静岡県下田市)にも酷似する、その威風堂々たる姿は何事をも包み込む大仏の寝姿にも見えて仕方ない。夜明けに空が薄紫から青に変化し、稜線が鮮明に映るかと思えば、雲隠れしたりと日々、様変わりする。全く異なる顔をのぞかせては目を楽しませてくれる。1度だけ登頂したが、山頂からの眺望は実に素晴らしく、一挙に疲労感をぬぐい去り、達成感に満ちあふれた記憶がある。幾度となく、この山に癒され、慰められた。私の心の古里になって41年。月日の流れは速い。
  鹿屋市 中鶴裕子 2014/10/31 毎日新聞鹿児島版掲載

白杖の人

2014-11-01 08:01:38 | はがき随筆
 所用の帰り、バス停に行った。盲導犬を連れた50代くらいの男性が立っていた。20分も待つがバスが来ないので、JR鹿児島中央駅に戻って別の路線で帰るという。「奥様が乗るバスが来るかもしれない」と遠慮されたが、道路向かいのバス停にお連れした。彼は静かに待っていた。盲導犬がいじらしい。15年前に失明したという。絶望のふちから現実を受容するまでの心中を思いやった。諦めて歩き出した私を2台のバスが通り過ぎた。川内原発再稼働反対の集会を後で知った。バスの遅れが、それかあらぬか。事情を知れば枯れも得心しただろう。
  鹿児島市 内山陽子 2014/10/30 毎日新聞鹿児島版掲載

月下美人再び

2014-11-01 07:37:48 | はがき随筆






 「また月下美人が今夜咲くわよ」。夕方、カミさんが大発見したような顔をして庭から戻ってきた。7月に1度咲いたのを写真に収めている。「不時現象じゃあないかしらねぇ」。どこからか仕入れてきた知識を披瀝する。ネットで検索した。〝秋に咲く花が春に咲くというような現象を指す〟とあった。不時現象ではないようだ。そこで、種子島開発総合センター(鉄砲館)の植物に詳しい先生に尋ねると、温かい地方ではよく見られる現象ということだった。「それにしても月下美人が2度咲くなんてね」。カミさんは自分の手柄のように胸を張った。
  西之表市 武田静瞭 2014/10/29 毎日新聞鹿児島版掲載

バージョンアップ

2014-11-01 07:31:14 | はがき随筆
 「生まれ変わったら、あの頃のようにもう一度巡り合いたいね」と言ってはみたものの、返事が怖く畳みかけた。「僕もぐっとバージョンアップするってことで……」。そこでその夜の夫婦の会話は終わった。
 若い頃は、明らかに私が彼女をぐいぐい引っ張っていたが、52歳でリタイアしてからの私は縮む一方……。冒頭の私の問いかけにも哀愁が漂う。
 そして、数日後。「友だちに言ってやったの。旦那がね、バージョンアップするからまた会いたいだって」。どこかうれしそうに話す弥生さんに、心底ほっとする私でした。
  霧島市 久野茂樹 2014/10/28 毎日新聞鹿児島版掲載

黒いダンゴ

2014-11-01 07:23:31 | はがき随筆
 半袖から長袖へと服を替えだすと思い出すダンゴ。十三夜の月見団子ではない。
 祖母は夏の盛りには、黒い泥の団子遊びをしていた。小さな私には、そのように見えた。近所の炭屋から頂いた木炭や石灰の粉に、つなぎようのふのりを入れて丸め、豆炭を作っていた。
 むしろに並べて天日干しに。きれいな球形の中に円盤状の物も。私の作品だ。「あの形はバアちゃんにしかできんよね」。手先の器用な母も脱帽の丸さ。
 秋から、自家製豆炭で七輪に火をおこす。独特の臭いがしたが着火は早い。少し寒くなると、この火の温かさが懐かしい。
  鹿児島市 高橋誠 2014/10/27 毎日新聞鹿児島版掲載

愁い

2014-11-01 07:16:11 | はがき随筆
 「おお、来たなア」と84歳のKさん。いつも笑顔で迎えてくださり、ヘルパー冥利に尽きる。
 奥様を亡くされ、1人暮らし。折々に娘さんが好物を携え、訪ねて来ると笑みがこぼれる。経済的不安もない。
 だけど寂しい。「誰か、いない?」といつもの冗談。「いませんねぇ」と、ふざけて首を振ると「ワッハハ」と笑われる。
 1人の夜の孤独は否めず、その気持ちはよく分かる。施設にいる義母も、そして母、いとおしい家族もだんだん遠くなる。しんしんと更ける秋の夜は、母の顔やKさんの寂しげな笑顔が交錯し、愁いは尽きない。
  出水市 伊尻清子 2014/10/26 毎日新聞鹿児島版掲載

ツワブキの花

2014-11-01 06:49:59 | 女の気持ち/男の気持ち
 風にあおられた葉の陰から、拳を突き上げる形でツワブキの花芽がのぞいている。
 この花にひかれたのは亡夫の赴任地、種子島の茎永でのことだ。ロケット発射が初めて成功した年、太平洋の荒波に浸食された奇岩にしがみつくようにしながらも、輝くように咲いているのを見た。3人の子どもを連れて浜遊びを楽しんだ幸せな日々だった。
 十数年後、夫は急逝し、悲しみにくれて、かめ酢で有名な福山町を訪れた。ツワブキの町と聞いたからである。錦江湾や桜島に向かって咲き誇っていた。
 12年前、母の介護のため実家に帰ることになった。 
 よし、ツワを植えようと決め、ぼつぼつ移植していった。
 春になると「ツワをちょうだい」と友だちがやってくる。夏と冬は緑色の葉がいい。秋は待ちに待った花の時。
 「阿久根市の市花って知ってた? なんであんな花が市花かね」などとぼやいていた人も、花の様子を見に来るようになった。
 隣町の長島町は町をあげてツワ・ロードを作っている。
 「見に行こうか」
 「行こう行こう」
 「町民が優しいんだよね」
 「リーダーがいいのよ」………。
 いろいろなことを良いながら、「私たちも植えようか」と、一人また一人……。ツワブキファンが増え始めている。
  阿久根市 別枝由井 2014/10/26  毎日新聞の気持ち欄掲載

釣りと芋虫

2014-11-01 06:43:18 | はがき随筆
 夏休み、友人から孫をキス釣りに連れて行ってほしいと頼まれた。道具一式を抱え待っていると、母親と少年が現れる。釣りは初めてと言う。まずは細かく指導。幸いに一投目から釣れた。次に行こう。けれど固まって動かない。「どうした?」。すると小声で「虫が苦手なんです」。餌のゴカイが怖いらしい。これでは釣りはできない。お殿様と釣りに出かけたような半日。芋虫と遊び、カイコが桑の葉を食べる音が子守歌だった。俺らの子ども時代、弱虫は「ひっけじん」と呼ばれ、仲間はずれにされたあの頃。昔と今、どっちが幸せか。ウーン、分からん。
  指宿市 有村好一 2014/10/25 毎日新聞鹿児島版掲載

スイフヨウ

2014-11-01 06:28:44 | はがき随筆
 天狗の羽団扇をつけたようなスイフヨウは華やかな花を咲かせる。花は刻々と色を変える。日々落花しては咲きつぐが、なぜか実を結ばない。
 花の直径は湯飲み茶わんほどの、ふっくらした5弁の華麗な花だが、惜しいかな一日で落花する。だが、朝は白色、昼は桃色、夕方は紅色と、日に3度も魔法でもかけられたかのように色を変えて咲くから不思議だ。
 妻が育てた、9月から咲きつぐ、かすかに甘い香りもするこの花を枝ごと切り取り、時々、居間に飾り、2人で楽しむ。
 スイフヨウはつかの間、私たちを酔わせる魅惑的な花だ。
  出水市 小村忍 2014/10/25 毎日新聞鹿児島版掲載

太壱とガブ

2014-11-01 06:22:02 | はがき随筆
 この夏、福岡の次女が5月に生んだ太壱や座敷犬ガブと1ヶ月間、我が家で過ごした。
 娘が嫁いで4年目に生まれた太壱は、両親の愛情に包まれてすくすくと成長している。私と妻は初めての男の孫に〝デレデレ〟だ。太壱の安らかな寝顔に平和が長く続くことを願う。
 娘は結婚前からシュナウザー犬のガブを飼っている。雄で少し気が荒いので、嫉妬してかんだりしないかと案じていたが、杞憂であった。ガブは孫を守るかのように寄り添い、孫は手足をなめられても怖がらない。実にほほ笑ましい。これからも兄弟のように仲良くしてね。
  出水市 清田文雄 2014/10/23 毎日新聞鹿児島版掲載

田の神さあ祭り

2014-11-01 06:11:26 | はがき随筆
 稲刈りが始まった。早朝から起きて、母ちゃんたちは稲刈りに行く。僕もコドイ、稲を刈っていくとドンコなどが飛び出してくる。ドンコをパッと捕まえ遊びに夢中になると「こら!、日がクルッど」と母ちゃんからガラレタ。稲刈りが終わると、集落は田の神さあ祭りをする「宿は持ち回りで、各家から米などを持ち寄って餅を作り、神さあに化粧をして背負わせた。神さあを盗むと、次の年豊作になるといわれ、他集落から盗みに来るので、宿の人は大事に次の秋まで守った。人口減少で田の神さあも野立ちとなっているが、祭りはいまだに続いている。
  さつま町 小向井一成 2014/10/22 毎日新聞鹿児島版掲載

昼下がり

2014-11-01 06:03:39 | はがき随筆
 秋の足音が忍び寄るそんな日の昼下がり、単行本を開いた。項目の一節に次のことが。
 「とうとう50歳になった。何もこんなところで公表する必要はないのだが、ちょっと書いてみた」
 読んでいて、なんと屈託のない大らかな文章だろう。その痛快さに思わず噴き出してしまう。
ますます作者の魅力を感じる。
 エッセイスト、阿川佐和子さんのあまりにも愉快なエッセーに吸い込まれ、いつしかお昼寝タイムも過ぎていた。
 さいここらで一服と、ページにしおりを挟む。
  鹿児島市 竹之内美知子 2014/10/21 毎日新聞鹿児島版掲載

映画鑑賞

2014-11-01 05:52:57 | はがき随筆
 退院してからDVDで映画鑑賞にはまっている。エリザベス・テーラーやビビアンリー、オードリー・ヘプバーンは110本分ある。
 「陽のあたる場所」のエリザベス・テーラーは恋人が殺人で死刑になる悲恋物語。映画とはいえ、切なくなるほどの演技。「風と共に去りぬ」のビビアン・リーのたくましさは、頑張って生きることへの力を与えてくれる。
 こんな私を見て、夫はからかう。そのうちに英語をしゃべりだすんじゃないの?
 まだ「刑事コロンボ」50話分もあるから。
  鹿屋市 田中京子 2014/10/20 毎日新聞鹿児島版掲載

運動会と地方創生

2014-11-01 05:29:02 | ペン&ぺん


 相次ぐ台風で、けがや家屋損壊など大丈夫でしたか。奄美大島など離島の農作物の被害が心配。まだ油断はできないが、台風一過で秋も深まってきた。予定されていた運動会が台風で延期や中止になった学校や地域もあったと思う。受験などで春に開く学校が増えたが、私にとって運動会は秋と同義語だ。
 子供の頃、今ごろは幼稚園や小中高校周辺は運動会の準備でにぎやかだった。本番当日は「教育は母任せ」だった父や親戚も集まり校庭で弁当を広げた。他の多くの家庭もそうだった。最も盛り上がったのは部活対抗や学年対抗、校区内町内会リレーだった。教師やPTA役員も化けた仮装行列も忘れられない。我々の親が当時30代後半~40代。地元の学校に通ったが、1学年8学級、6歳上の姉は9学級。少子高齢化なんて、まだ先のことだった。私の娘が通う学校の運動会は春。競技数も少なく、昼食が済むと、午後の競技はあっという間に終わり閉会。これが少子化の現実か。
 子供が減り、若者は働く場を求めて都会へ。もう何十年も続く。随分前から「地方の時代」といわれるが、53歳の私が高校や大学を卒業した時と何ら変わっていない。
 土砂災害で多くの犠牲者が出た都市部の広島市でさえ、復旧には若者らのボランティアが喜ばれた。鹿児島も県本土なら、若者が駆けつけてくれるだろうが、離島は厳しい。災害時に心強いのは地域の互助力だが、ご近所は高齢者ばかり。更に御嶽山噴火や桜島の降灰で日本が火山列島であることを多くの人が再認識しておられるだろう。
 離島で大きな土砂災害が起きたら……。防災や地域活力の面からも、人が住みたくなるような地方がいいにきまっている。安倍晋三首相が重要施策に掲げる地方創生。看板倒れにならぬよう地方創生も桜島の動きも注視していきたい。
   鹿児島支局長 三嶋祐一郎 2014/10/20 毎日新聞鹿児島版掲載