はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

ティータイム

2014-11-15 17:25:57 | はがき随筆


 母の初盆が迫り、実家の草取りをした。お茶になり、弟嫁が小型パンを「どうぞ」と出してくれた。朝食もパンだったので、あまり食べたくなかった。気が進まないでいると、様子を見かねた弟が「パンが可哀そうだから僕は食べるよ」と。「では私も」。食べてみると、小豆のあんが入っていて、とてもおいしい。嫁への思いやりか、パンへの同情心か、弟の優しさを察する。以来、小型パンを好んで買うようになった。無事に初盆の大役を果たし、弟夫婦は千葉へ帰った。秋も深まって涼風が頬をなでる縁側で、繊細な心の弟を思うティータイムである。
  肝付町 鳥取部京子 2014/11/15 毎日新聞鹿児島版掲載

初恋

2014-11-15 17:16:25 | はがき随筆
 玄関にペタリと座り込む。入り口を向いてずっと待っていれば、今年2月に亡くなった夫が帰ってくるようなきがする。
 「お母ちゃん、ただ今よー」。優しい声も聞こえてくるような気がする。大きな温かい手を差し伸べて、私の手を強く握ってくれるような気がする。
 「何か食べようよ、お母ちゃん」。うれしそうにそう言ってくれる気がする。
 優しい笑顔、穏やかな人柄、私にはもったいない最高の人だった。
 そう思って座っていたら、「初恋」のように胸かドキドキしてきた。
  鹿児島市 萩原裕子 2014/11/14 毎日新聞鹿児島版掲載

一に音楽

2014-11-15 17:04:36 | はがき随筆
 1989(平成元)年に鎌倉の奇術クラブに入会した。講師は愛好者にはよく知られた方で、「マジックは一に音楽、二に衣装、三,四がなくて五に手品」と教わった。舞台ではまず、すてきな音楽を選ぶこと。次にお客さんの見た目も大切、がその理由だった。6年前に鹿児島のクラブに入り出演している。今年も子ども連れが多くてにぎわった。本番では舞台に上がると客席から拍手を頂く。緊張感も和らぎ、つい笑みがこぼれる。来秋は鹿児島で国民文化祭が開かれる。クラブで参加を申請中で実現すれば、全国の愛好者が集う大会になりそう。
  鹿児島市 田中健一郎 2014/11/13 毎日新聞鹿児島版掲載

出来事

2014-11-15 16:58:19 | はがき随筆
 素顔で顔は見たくない老醜と自覚しているので、色黒で冴えない肌にせめて1日1回朝、化粧をする。化粧できる女に生まれて良かったと思いながら。午後の外出は1度化粧したのだからと、安心してそのまま出かけていた。昨日、新しい眼鏡店に出かける折、午後だったので口紅は薄く塗り直した。話の途中「退院されたばかりですか?」に一瞬戸惑ったが「いいえ」と答える。ショック! 若くて美しい店員さんから見たら、やつれていたのだろう。これからの外出時には頬紅と口紅ぐらいは、しっかりと塗り直さなくてはと思わせた出来事だった。
  霧島市 口町円子 2014/11/12 毎日新聞鹿児島版掲載

紅葉

2014-11-15 16:50:22 | はがき随筆
 紅葉を庭に植えて40年の歳月がたつ。近年、生気がなく、気になりつつも放っていたら枯れてしまった。芽吹きに早春を知り、緑の葉陰に涼夏を感じ、黄葉の落葉に晩秋を見、素肌の幹に越冬の準備をした。我が家の四季の織りなす模様をつぶさにみとった上での最期であった。切り倒したら、害虫にむしばまれた痕跡があり、駆除すればよかったと後悔した。この春、切り株の周辺に紅葉の芽が出ていることに妻が気付いた。見れば、数多く発芽している。思えば消えゆく命を感じながら、種を落として逝った。自然のことわりとはいえ感嘆した。
  出水市 宮路量温 2014/11/11 毎日新聞鹿児島版掲載

ちょっぴりか

2014-11-15 16:43:21 | はがき随筆
 年老いてくると、経験も修練も生かされ、作品も上々になると信じてきた。現実は、逆方向の私の生き方を見るようだ。期待通りに、思うようにいかぬ結果ばかりが現れてくる。応募、投稿しても選外が褒美についてくる。断絶、諦めムードの自分を作り出す。童話と健康作文に応募する。童話はいつも選外の連続である。参加費なのか、童話集が届く。立派な冊子で、他に類を見ないありがたさが伝わってくる。健康作文は今年は選外か。結果は1勝2敗。その1勝分はなんと入選だった。驚いた。今から入選の機会が生じるか、望みもちょっぴりか。
  鹿児島市 岩田昭治 2014/11/9 毎日新聞鹿児島版掲載

郵便運

2014-11-15 16:35:44 | はがき随筆
 私は「郵便運」が悪い。投函した郵便物が届かなかったのは2回目だ。
 長男(5)の通う幼稚園が、敬老の日に合わせて、長男の描いた絵と先生の一言が入ったはがきを祖父母に出してくれる企画があった。
 いつまでも着かないので、郵便局に相談。専門の機関が宛先の東京までの道筋を調査してくれることになった。
 約1ヶ月後、「発見できなかった。記録が残る郵便物ではないので、どこまで行ったかも不明」との結果が出た。はがきが、何かの厄を持って行ってくれたのたと、前向きに諦めた。
  鹿児島市 津島友子 2014/11/8 毎日新聞鹿児島版掲載

ぼくの昭和史1

2014-11-15 12:59:08 | はがき随筆
 終戦の日の2週間後が満6歳の誕生日。従って、戦争の記憶は僅かであり断片的だ。その最初は盛岡の連帯へ父との面会に行った時のこと。面会所は木造の洋館で、壁に沿って木製のベンチが設えられていた。
 窓の外に雪があったが、寒さは覚えていない。軍服姿で表れた父を見て、ぼくは母の背中に隠れた。畏怖というより見たことのない姿の、父への驚きだろう。前後の記憶はないが、そのことは消えない。
 その後、母と妹の3人、空襲警報の度に伝統を黒い布で隠し、防空頭巾をかぶり逃げ惑ったことも、ぼくの昭和史である。
  志布志市 若宮庸成 2014/11/7 毎日新聞鹿児島版掲載

義兄の十八番(おはこ)

2014-11-15 12:50:47 | はがき随筆
 夫が亡くなってから一晩中、ラジオをつけっぱなしで深夜放送を聴いている。昨夜も一眠りして、朝に目が覚めるとフランク永井の特集をやっていた。「そばにいてくれるだけでいい」と甘い低音が心に染み入る。
 夫の兄を思う。義兄は面倒見のいい人だった。両親にも良く尽くし、私たちにまで優しかった。
 大阪時代、我が家でカラオケをしたことがあった。夫の家族は皆、歌がうまいが義兄は特に歌い慣れていて、その夜、歌ったのが「おまえに」だった。仲の良かった夫と義兄の笑顔を思い浮かべながら歌を聞いた。
  霧島市 秋峯いくよ 2014/11/6 毎日新聞鹿児島版掲載

30日秋の研修会

2014-11-15 12:35:49 | 毎日ペンクラブ鹿児島
 「毎日ペンクラブ鹿児島」主催の秋の研修会が開催されます。
本社編集局長が助言


日時 11月30日(日) 午後1時版開会
場所 鹿児島市中央町、キャンセビル7階の市勤労者交流センター
参加費 無料
問い合わせ先 ペンクラブ事務局の本山さん(090-4519-3647) 

 今回は、毎日新聞西部本社の、野沢俊司編集局長が文章上達のこつなどをアドバイスします。はがき随筆以外に、毎日新聞への質疑応答の時間も設けます。
 また、2013年10月1日~14年9月30日に載った鹿児島版はがき随筆の中から「ペンクラブ賞」を選考・発表し表彰します。会員や投稿経験者でなくても、誰でも参加できます。ペンクラブへの入会もかんげいします。お気軽にお越しください。
 研修会後、懇親会(2時間程度、実費)を予定しています。

80歳同窓会

2014-11-15 12:28:37 | はがき随筆
 昭和25年中学校卒業以来、同窓会は50代から毎年のごとく開かれ、70代からは「これが最後」式になった。しかし「80歳を」の発起の声が上がり、このほど80人の出会いを得て開会。妙なもので、分からない人がいないのは、日参した学校のおかげだろう。だって3年間同居した面々を忘れたり、分からなくなるはずがない。64年たっているので、すぐ分かる人と一見して分からない人は当然いた。当時は8組もあった。生きて出席できたことに感謝、感謝。来し方より余生を語った。そして「また会いましょう」という切ない願望が声に出ての別れだった。
  鹿児島市 東郷久子 2014/11/5 毎日新聞鹿児島版掲載