はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

大義はどこに

2014-11-27 20:24:23 | ペン&ぺん


 任期はまだ2年もあるのに、衆院解散で世間は総選挙モード。安倍晋三首相は記者会見で「アベノミクス解散」と述べた。皆さんもさまざまな意見をお持ちだろうが、私は首相が言う解散の大義に納得できなかった。
 2年前、私たちの清き貴重な1票を投じての国の行方を託したのだから、4年間は腰を据え、みっちりやってほしかった。首相の胸一つで、いとも簡単に解散だなんて、私たちの1票がいかに軽いか、思い知らされた。 
 原発を所管する経済産業相は小渕優子氏から宮沢洋一氏に交代したが、国家最上級レベルの問題なはずなのに選挙後、経産相の人事はどうなる。東日本大震災の被災地復興よりも、なぜ衆院選が先なのか。総選挙にかかる国の経費は約7兆円という。東北の冬はとても厳しい。震災復興に700億円を充てる考えはなかったのか。
 北朝鮮による拉致事件の解決もしばらく空白期間が続くのか。私にも娘2人がいて、横田めぐみさんの母早紀江さんらをテレビで見ると、いたたまれない。「安倍政権は本当に解決する気があるのか」と疑ってしまう。鹿屋市には、拉致された市川修一さんの兄健一さんがおられる。拉致被害者の家族はいずれも高齢者。多くの方が「北朝鮮との交渉はどうなった。選挙をやっている場合か」と思っているはずだ。 
 師走の総選挙でかき入れ時の飲食業界の皆さんから、ため息が聞こえる。選挙絡みで「飲ませ、食わせしているのでは」とあらぬ疑いをかけられないようにと忘年会や宴席を自粛する業界、団体があるという。予約の入りもいま一つらしい。
 アベノミクスの地方への効果の検証や原発、拉致、憲法改正、経済再生など鹿児島の私たちにも選挙の争点と直結する課題が山積する。候補予定者の声に耳を傾けたい。
  鹿児島支局長 三嶋祐一郎 2014/11/27 鹿児島版掲載

枯れる

2014-11-27 20:18:26 | はがき随筆
 「空腹であれば、粗末な物でもおいしい」と含蓄のある言葉。102歳のMさんが畑仕事を終えて、一服のひととき。住まいは簡素で清潔。台所は背丈に合わせコンパクトな作りで炊事も全て1人で。驚いたのは台風接近の日、木の雨戸8枚の開け閉めを難なくなされること。二つに折れて、痛みもあるその体で。
 読書、手芸を趣味とされ、さの作品は刺しゅうから小物まで見事だ。仏壇には〝辞世の句〟が詠まれており、ハッとする。人生を達観されていて、その生きざまに畏敬の念を抱く。深まる秋に黄葉は枯れてなお輝き、人の心に感動を呼ぶように。
  出水市 伊尻清子 2014/11/27 毎日新聞鹿児島版掲載

うそのお返し

2014-11-27 20:11:14 | はがき随筆
 随分前から「早くあの世へ行きたい」と言う母(84)は、グループホームで生活している。
 「お母さんのように暗い人は閻魔さまも来てほしくないとおっしゃってるよ」と言うと、少しだけ笑って「そうだね」と言う。26歳の頃の私は、弱視の父と病気がちの母を一生独身でみとろうと思っていた。5歳年下の妹が恋愛中の彼氏といつまでも結婚できないから「さっさとお見合いをして結婚しなさい」といわれ、母がもってきた見合い話の相手と結婚した。あれから、もう28年になる。
 母には少しでも明るく楽しい生活を味わってもらいたい。
 鹿児島市 内田英子 2014/11/26 毎日新聞鹿児島版掲載

紅 葉

2014-11-27 19:31:33 | 岩国エッセイサロンより
2014年11月27日 (木)


岩国市  会 員   上田 孝

山口と広島の県境を流れる小瀬川を遡ってもみのき森林公園に行った。紅や黄に色づいた木々が11月の快晴に映えて期待通りの美しさであった。思えば 若い頃は紅葉には目もくれず、もっぱら桜であった。職場の仲間とのにぎやかな花見から、家族での穏やかな花見、やがて夫婦だけの静かな花見と時を経て変遷するとともに、桜よりも紅葉派になってきたように思う。このごろでは散りゆく紅葉の方が心の深いところに染みると感じるのも、人生の坂を順調に下っている証しか。そこで歌の一旬でも詠める素養でもあればもっと深いものになるのだが。

 (2014.11.27 毎日新聞「はがき随筆」掲載 岩国エッセイサロンより転載