「お父さん、蜂!」。カミさんの声で庭に出る。すさまじい羽音でミツバチの群れが乱れ飛ぶ。庭木に止まると、たちまち乳牛のおっぱいの大きさに垂れた。
「分蜂や」。幼い頃一度見たミツバチの巣別れだ。昔、蜜蜂を飼っていた父は巣箱を襲ったスズメバチに立ち向かい、刺された腕が丸太のように腫れた。以来私は蜂が怖い。
「お父さん、これダメ?」。カミさんが出した殺虫スプレーを恐る恐るシュー。すると空高く長い帯となって飛び去った。
「あほう、蜜蜂殺してどないする気や」。懐かしい父の声が胸をチクリ。
宮崎市 柏木正樹(71) 2020/5/30 毎日新聞鹿児島版掲載