はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

朗報

2020-06-27 15:06:06 | はがき随筆
 生来の無精者の私は71歳を間近に控えた頃、何をすべきか思案が続いた。そんなとき妻の叔母から書道の先生を紹介してもらった。習字は習ったこともなく、毛筆に躊躇するも妻の後押しが励みになり、71歳で未知の扉を開いた。
 今では先生の熱血指導により楷書、草書が有段になった。この4月、先生から電話があった。行書が初段になり教材に私の作品が写真掲載されていると教えてくださり、次はかなの練習との目標をくださった。社会はコロナ禍で暗雲の中、念願の有段の連絡は私にとって宵の明星であった。
 鹿児島県出水市 宮路量温(73) 2020/6/27 毎日新聞鹿児島版掲載

コサンダケ

2020-06-27 14:47:24 | はがき随筆


 タケノコといえば通常孟宗竹であり、食べ方は煮付け、酢みそあえなどであり、人気の一品である。しかし小生はコサンダケの方が一層好きである。地上20㌢ほどに伸びたものを手で折り、ポキンという音も軽快である。取ってくれと言わんばかりで、あく抜きなしで食べられるのである。なぜコサンダケにこれほどまでに親しみを持つのだろう。やはり、中学生時代からおやじの所有する山林の片隅に遠慮がちに育っていたコサンダケの竹林を今でも大事に育成しているからか。懐かしの味を孫たちにも食べさせたく、皮のまま持って行こう。
 鹿児島市 下内幸一(70) 2020/6/27 毎日新聞鹿児島版掲載

画像は鹿児島自然と食さんよりお借りしました。

5月の庭から

2020-06-27 14:34:55 | はがき随筆
 「毎日何してます?」「草取り」。ご近所の答えは皆同じ。「そうよねー」とマスク越しに笑い合う。一日の終わり、庭を見渡し快い疲労感に満たされる。
 都会のアパート暮らしの友人はどうしているだろう。彼岸に帰省する予定が帰らなかった。
 主のいない友の実家を訪ねると、草が茂り始めた庭に甘い香りが漂っていた。日向夏の白い小花が咲き乱れ、樹上近く黄色い実が残る。1人でははばかられる。仲間を誘い2人で、鋭い枝が交差する中へ脚立を立て、大小約70個を収穫し尽くした。
 花香る5月の庭から、故郷の味を都会へ送り届けた。
 宮崎県日南市 矢野博子(70) 2020/6/27 毎日新聞鹿児島版掲載

紫陽花と残月

2020-06-27 14:26:35 | はがき随筆
 「晴後曇り、夕には雨」の予報を耳にして、朝6時ウオーキングに出かける。青い空、冷めたい空気が気持ちよい。まもなく小学校近くの花壇にさしかかる。花壇をのぞき込むようにして歩を緩める。と、大きな紫陽花の株が目に留まる。青草色の卵形、大きな葉群の上に、蛇の目模様、群青色の花(本当は萼か)が幾重にも重なり合い、しっとりとした美しさに魅了される。はっとして頭上を観ると差しかかる樹枝の合間に白い大きな残月が見え隠れする。梅雨入りを前に紫陽花と残月、まさに最高、水墨日本画を観る心地でした。
 熊本市中央区 木村壽昭(87) 2020/6/27 毎日新聞鹿児島版掲載

ぼくの生き方

2020-06-27 14:19:58 | はがき随筆
 バブルの片棒を担いだ。銀行は融資に奔走し、ぼくもその融資を利用して株を買ったりして尻馬に乗った。そんな中で燃えさかる生活とは逆に、田舎暮らしを夢見ていた。都会を離れて「晴耕雨読、たまに旅」などと考えていた。したがって定年延長などもってのほかで、早期退職のチャンスを狙っていた。思いはかなうもので、遠く鹿児島にたどり着き、夢の生活をスタートさせることができた。東京有明埠頭から一昼夜かけて志布志港に着いたのは6月。その年は空梅雨で、心ゆくまで土いじりができた。煩うことなく夜が明け、日は暮れていく。
 鹿児島県志布志市 若宮庸成(80) 2020/6/27 毎日新聞鹿児島版掲載

2020-06-27 14:13:21 | はがき随筆
 一緒に暮らしている姉は4月で75歳、後期高齢者の仲間入りをした。ひたすら真面目、健やかに生きてきたその姉が退職後、宮崎に戻ってきてまもなく難病にかかった。告げられた当時、本人は戸惑い、落ち込み、動揺ぶりは痛々しいものだった。
 病と向き合う日々は今年で10年目を迎える。症状は穏やかだが確実に進行し歩行器なしでは動きもままならぬほどだ。だが同じ病の「友の会」の手伝いをしたり、交流を深めたり……。何よりうれしいのはよく笑ってくれることだ。両親が逝った歳はまだずっと先だよ。これからの時間を大事にしていこうね。
 宮崎市 藤田悦子(72) 2020/6/27 毎日新聞鹿児島版掲載

半分ずつ思い出す

2020-06-27 14:04:23 | はがき随筆
 ドライブの途中、「昭和を代表した三人娘の歌手のうち、ひばり、チエミともう一人誰だったかどうしても出てこない」と助手席のかみさん。当方もとっさには浮かぶべくもない。5分ほど走ったら「あっ、いづみだった」と大声を発する。「でも、苗字は何だったっけ」。「ひばり、チエミ、いづみ」とお経のようにつぶやきながら赤信号で停車。とたんに浮かんで、大声でお返し。「雪村だっ」
 加齢に伴い人名や地名を忘れるのは日常茶飯事。「半世紀前の歌手など忘れて当たり前。2人で半分ずつ思い出せたのが救い」と軽口をたたき帰宅した。
 熊本市東区 中村弘之(84) 2020/6/27 毎日新聞鹿児島版掲載

在宅勤務

2020-06-27 13:55:58 | はがき随筆
 新型コロナの影響で、4月中旬から突然在宅勤務になった。
 18年勤めてきたけれど、初めての経験だ。え? 出勤しないけどやっぱり着替えるの? 当初は休みと混同した。
 朝、夕の報告は必須。普段は外回りの仕事だが、家にいてお客様に電話したり、設計書を作ったり。家にいても常に上司に見られているような緊張感がある。しかし休憩といっては冷蔵庫をのぞく。同僚と「LINE」で息抜きする。
 自粛解除が解けても、すぐには元の態勢に戻れないようた。解除後の働き方もまた新しい体験となることだろう。
 宮崎県延岡市 渡邉比呂美(63) 2020/6/26 毎日新聞鹿児島版掲載