はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

そら豆

2020-06-09 20:01:37 | はがき随筆
 そら豆を収穫した。ポツポツ1週間くらい食べた後に全部収穫したら、バケツに6杯もあった。今年は調子が良くて、豆もビックリするくらい大きい。
 2人の生活ではとても食べきれないので、あちこちに配ったら「わー大きい」と喜んでもらった。そら豆は人気がある。
 秋に、からからに完走したタネ豆をまく。おはぐろを斜め下に向けて土に押し込んでおくと、1週間もするとふっくらと水分を含み芽が出てくる。芽が出たのを見つけたときは、うれしくて「でたでた」と思わず声を出してしまう。
 熊本市北区 岡田政雄(72) 2020/6/9 毎日新聞鹿児島版掲載

四季を味わう

2020-06-09 19:53:48 | はがき随筆
 「モゼ(かわいい)とが上がったなー」と通りがかりの人が声を掛けてきた。青空に悠々と小さなこいのぼりが3匹。数年前から忘れていた四季の行事の楽しさを「味わってみよう」と始めた一つ。100円ショップのこいのぼりである。春は小川と桜、夏はぎらぎら太陽、秋は稲刈り、冬は雪景色、そして節分の豆まき、5月の節句はこいのぼりとマッ(ちまき)、初夏のホタル狩り、秋の十五夜と綱引きなど……。ふるさとの風景は心を豊かにしてくれていた。このご時世、こいのぼりを眺めていると、あの日の記憶がぐんぐん近づいてくる。
 鹿児島県南さつま市 小向井一成(72) 2020/6/8 毎日新聞鹿児島版掲載

赤信号

2020-06-09 19:46:41 | はがき随筆
 赤信号で車を停め、工事中の歩道を見た。人々は堀あげられた土やブロックを避け、注意深く歩いていた。紫色のナッパズボンをはいた作業員の若者は人が来る度に手を休め、通り過ぎるのを待っていた。
 足元のおぼつかないお年寄りが手押し車を押して来ると、若者は素早く車を受け取り、手を引いて通してあげた。丁寧にお辞儀するお年寄りに、照れ笑いする若者の顔には、まだ幼さが残っていた。
 ほんの数分の光景であったが、赤く染めた髪と白い歯が印象に残り、コロナ鬱の気持ちを少し和らげてもらった。
 宮崎県延岡市 松本由美子(79) 2020/6/7 毎日新聞鹿児島版掲載

詐欺防止策

2020-06-09 19:40:19 | はがき随筆
 3年前に流ちょうな日本語で「年金の銀行はいくつお使いですか」と聞いてきた。あ、詐欺だとひらめいて「あなたはオレオレ詐欺だ」と返せば「違う」と答えた。私はすぐに電話を切って、消費生活センターにそのことを告げた。警察からはオレオレ詐欺防止策の電話装置を頂いた。詐欺師の声が録音できる仕組みになっている。その後、電話は来なかった。
 コロナウイルが猛威を振るう今日、コロナに伴って悪い犯罪などが起こりうる。おのおの心がけたいものです。油断大敵。変だと気付いたら役所などに問い合わせましょう。
 鹿児島県姶良市 堀美代子(75) 2020/6/6 毎日新聞鹿児島版掲載

衣服の整理

2020-06-09 19:33:20 | はがき随筆
 幼児の頃、赤痢にかかり、大きな幌車に乗せられ母が付き添い、山奥の病舎に隔離された。保健所の指示で兄姉たちは学校を早退し、家は噴霧消毒。私は事の重大さが理解できず、母を独り占めできうれしかった。
 水は共同井戸の時代、母は患者を出した罪悪感と屈辱感がずっと残り、それ以来、仏壇に供えられた果物は予防のため私たちの口に入ることはなかった。
 コロナ感染者が出ると、どこのだれかと無神経なうわさが立つ。感染を抑えるためにはある程度の個人情報もやむを得ないが、広がるうわさに、当時の母の想いと重なり恐怖を感じた。
 宮崎市 川畑昭子(76) 2020/6/6 毎日新聞鹿児島版掲載

おちついて

2020-06-09 19:26:07 | はがき随筆
 朝9時、燃えるごみ出しに外へ出る。こないだ除草して乾いた草を拾い集め始めると「あ、台所の屑を忘れていた」と取りに戻る。と、きれいに取り去ってある。夕方来た娘が持ち帰っていた。ありがとう。だんだん生活でお世話になることが多くなった。自分で出来ることは自分でしようと思っているけれど、このところぼやぼやしているので。このところ太陽を浴びに午前中約1時間、午後2時間くらい門の辺りへ出る。輝く楠の山、レモンの花の香り、羽衣ジャスミンの香りと、世はまさに馥郁たる光景。はやくコロナ終息して……。
 鹿児島市 東郷久子(85) 2020/6/6 毎日新聞鹿児島版掲載

閉校

2020-06-09 19:19:12 | はがき随筆
 この春、父が初めて校長として赴任した椎葉村立小崎小学校が統合されて閉校になった。
 最後の1年を記録しておこうと春の入学式、秋の運動会に出向き、7人の子供と集落の人たちを写真に撮った。
 私も妹もここで父から卒業証書をもらった。3月に予定されていた閉校式に2人で出席を申し込んだが、コロナ騒ぎで自粛を余儀なくされた。式は関係者だけで行われたと後に聞いた。
 学校のウェブを開いた。閉校のお知らせの下には、子どもたちの作った「ありがとう小崎小学校」の歌。クリックすると子供たちの歌声が流れた。
 宮崎県串間市 岩下龍吉(68) 2020/6/6 毎日新聞鹿児島版掲載

ストレス

2020-06-09 19:12:21 | はがき随筆
 「俺はストレスが全くない」「側のもんがストレスたい」「そぎゃんかい」。能天気である。
B型人間はいい気なものだ。時々ボケたふりか本気か怪しい時がある。負けるものかと目を光らせる。趣味の会を辞め、これからは自由気ままにやるとのたまう。ま、いいでしょう。私は私。夫婦円満の秘訣になれば幸いと思う事にした。洗濯、夕方の戸締り、風呂の栓抜きはお願い。昼は同じものばかり食べてはいけません。夜はちゃんと布団で寝て下さい。寝ないと布団を始末しますと言ったが効き目なし。さてどうするか?
 熊本県八代市 鍬本恵子(74) 2020/6/6 毎日新聞鹿児島版掲載

筍の生命力

2020-06-09 19:04:24 | はがき随筆
 今年も友人から掘りたての筍をいただき、料理をしていた時のこと。ふと昔の出来事を思い出し笑いがこみ上げた。20代で結婚し、田舎住まいだった借家。少し離れた所に竹藪があり、家主さんの所有で筍もよく伸び、いただくこともあった。ある日、畳が少し上がっているような感じがしたが、主人と「何だろうね」とそのままに。1週間位後、いよいよ変だ。主人が畳をめくると見事な筍が。こんな離れた所まで、驚きと笑いと。掘り出した薄白い筍、どう処分したか思い出せないが閉じこもりの日々の今、筍の生命力に感激し、あやかりたいものだ。
 熊本市中央区 原田初枝(90) 2020/6/6 毎日新聞鹿児島版掲載

猪とサツマイモ

2020-06-09 16:42:01 | はがき随筆
 20年ほど前のこと。山里で、藷焼酎用のサツマイモを栽培していた老夫婦がいた。見渡す限り黒ビニールが整然と張られた畑。不思議なことに一部の畑は外周に沿って2列の畝がある。なんとなく違和感があり、そのことを聞いてみた。すると、「外の2列は猪のためだよ」
 私は、その一言で世界が変わって見えた。くったくのない老爺の笑顔。猪の多い地域で、畑の被害は大きかったはず。家庭菜園で、虫やカラスの被害に心休まるときがない。そんなとき老夫婦の言葉を思い出す。
 猪と藷  分ければやさし山里の暮らしそのまま生きてゆきたし
 鹿児島県霧島市 秋野三歩(63) 2020/6/5 毎日新聞鹿児島版掲載