はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

2010-10-24 19:34:48 | はがき随筆
 碁敵の玄関を開けたらビックリ。靴の片方は沖縄。もう片方は北海道といった案配。中には裏返しの靴もある。孫たちが来ていると聞いたが、いやはやすさまじいエネルギーである。
 一局打って碁敵の肩越しに目をやる。別棟に住む年長さんの園児が、靴を整頓し始めた。台風一過のような玄関が、あっ言う間に絶景と化した。
 荒れた玄関を平気でまたぎ、碁を打っている私は顔が真っ赤になった。罪滅ぼしにその児に千円札を握らせた。「紙のお金をもらったの初めて。うれしいなぁ」八重歯がのぞく、彼の笑顔がまぶしい。
  出水市 道田道範 2010/10/24 毎日新聞鹿児島版掲載

しらがつぶり

2010-10-24 19:27:49 | はがき随筆
 清水の舞台から飛び降りる覚悟? で白髪染めをやめた。
 喜寿も過ぎ、いつやめようかと迷っていたが、美容師さんのひと言で吹っ切れた。
 「きっとお似合いですよ」
 その言葉通りになったのかは疑問だが、ある人に「エリザベス女王だね」と言われた時は、お世辞と分かっていても悪い気はしなかった。
 久しぶりに会う友人の反応を見るのも面白い。一瞬ハッとした表情で「似合うよ」「もう染めないの…」などさまざま。
 素敵な白髪頭(しらがつぶり)をイメージしているのだが、油断すると「怖い山姥(ヤマンバ)」になっちゃうかも……。
  鹿屋市 西尾フミ子 2010/10/23 毎日新聞鹿児島版掲載

アケビ

2010-10-24 19:13:45 | はがき随筆



 先日空港近くのゴルフ場に、気の合う仲間と出かけた。あの夏の暑さは、どこへやら風も心地よく、すっかり秋の気配。あちこちにカキやクリも色づいていた。天下太平、よかよか。すると近くの林の中から、カラスが1羽アケビをくわえて着地。色づいてはいるが、開いていないアケビをどう食おうかとついばんでいる。しめた。私はゴルフほったらかしで、こっそり近づきおどかした。不意をつかれた彼は、あわてて飛び去る。奇襲作戦は大成功。食べ頃のアケビをまんまと横取り。カラスの上前をはね、悪気はしたが、久しぶりに山の幸を味わった。
  指宿市 有村好一 2010/10/22 毎日新聞鹿児島版掲載

お前に恋?!

2010-10-24 19:04:39 | はがき随筆
 目のレーザー手術をすることになった。説明では費用は意外と安くホッとする。帰宅後、説明書を見直す。なんと70歳代の1割負担での計算ではないか!
 「ほれ、見てごらん。ひげはそり残しがあり、背中は曲がってるから、実際の年齢以上に見られるのよ」と妻に一喝。
 改めて鏡に見入る。妻の言う通りだ。その夜、テレビを見ながら「こいつとオレ、どっちが若い?」。すべて軍配は向こう様だ。別に若く見られる必要はないが、せめて年相応で見られたい。しゃんとし、少々おシャレに気を使うようになるには「恋」をすることなんだがなぁ。
  肝付町 吉井三男 2010/10/21 毎日新聞鹿児島版掲載

息子の進学

2010-10-24 18:57:30 | はがき随筆
 千葉県柏市に住む息子から長年勤務していた会計事務所を9月いっぱいで退職し、京都の宗門大学R大の大学院に入学することに決めたとの報告である。それも数年前から密かに計画していたと聞いて驚いた。
 経済学部を出た彼は、寺のあとを継ぐために、私の元気な時に仏教学を勉強しておきたいとのことである。あと継ぎのことを息子に言うのを躊躇していたが、本人が考えていてくれたのかと気付かされ感涙した。
 入学生を代表して宣誓を指名されたとか。親に代わって姉と妹が式にも参加し、夜は3兄弟で祝宴を挙げてもらった。
  志布志市 一木法明 2010/10/20 毎日新聞鹿児島版掲載

「人間の都合」

2010-10-21 13:03:34 | 岩国エッセイサロンより


岩国市  会 員   沖 義照

 早朝、庭に出ていた妻が戻ってきた。「イノシシがおりに入って捕まったそうよ。見に行かない」と誘う。私は行かなかった。間もなくすると帰ってきて「大きなイノシシがおりの中で暴れていたわ。目がとってもかわいかった」と言う。

 今年も春過ぎから、近くの畑を荒らしているという話は聞いていた。山すその畑に鉄製のおりが仕掛けられているのも、見ていた。

 そのおりの中で暴れまわっているイノシシを見に行く気にはならない。後のことを思うと、つぶらな瞳を直視できない。「これで安心ね」朝食の支度をしながら妻は明るく言うが。
  (2010.10.19 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載
写真は沖さん提供

ナナカマド

2010-10-19 13:42:32 | はがき随筆


 カエデと同じく紅葉するナナカマドの実物をぜひ見たかった。木は7度、釜で炊いても燃え残るほど堅く、小さく赤い情熱的な実がつくという。NHKのみんなの歌でも歌われたという私の好きな植物の一つ。
 「ナナカマドが色づくころ」と韓国岳登山を友にせがみ、今年9月、5人で目的地へ向かった。2合目で、やっと葉がハゼに似たナナカマドに気づいた。この木だったんだ、と感無量。紅葉には早く、実も橙色だったが、それでもうれしい。さっそく写真を3枚撮る。
 <友ありて巡り会いたる七竈夢見し我の思い果たせり>
  
出水市 小村忍2010/10/19 毎日新聞鹿児島版掲載 写真はフォトライブラリより

大切な人と

2010-10-18 23:20:05 | ペン&ぺん
 シャガールと言えば、恋人たちが空中に浮かぶ絵だ。女の手には花束。男は身をねじり、くちづけを迫る。まるで若い子たちの心模様そのまま。キスすれば、心は舞い上がる。それでいて身もだえするほど切ない。正直な絵。手元の画集は「シャガール 幻想の交響詩」と表題を付けている。
 その画集を買って初めてシャガールの「戦争」を知った。その油彩画は1964年から66年にかけて描いた大作。横2㍍31㌢。縦は1㍍63㌢だから、華奢な女性の背丈を超す。
 取り巻く赤黒い炎。逃げ惑う人たち。荷車は満員。左下に泣く女。それを背後から支えようとする男。右上に十字架に張り付けられたキリスト。その足に、すがる人。
 画集巻末の図版解説によれば、中央に描いた白い巨大なロバは平和のイメージ。戦禍から逃れる人々に「救済の王国」を提供しようとしているという。
 シャガールは1887年、帝政ロシア生まれのユダヤ人。革命後のソ連時代を経て、フランス国籍を取得。第2次大戦中に、米国に亡命するなど、自身も戦禍に追われた人だった。
   ◇
「戦争」は焦げ茶色と赤黒い色調。自分の部屋に飾りたいとは思えない絵だ。大き過ぎるし。それにくらべて今、鹿児島市の長島美術館で開催中の版画展「ダフニスとクロエ」は色彩の魔術師シャガールらしい。捨て子の少年少女の愛を描いたカラーリトグラフ42点。例によって空を飛ぶ人。リンゴを少女に恥じらいつつ渡す男の子。淡く柔らかなタッチだ。
 詩人、谷川俊太郎は、こう表現した。
「シャガールを見つめていると、あのひととの日々がよみがえる」(詩集「シャガールと木の葉」から)
版画展は、来月28日まで。行くなら独りではなく、大切な人と、ぜひ。
毎日新聞鹿児島支局長・馬原浩
◇ ◆
補注。シャガールの絵は、検索サイトで「シャガール」「作品」などと入れて検索すると、いくつか見ることが可能です。ただし、作品「戦争」は、筆者・馬原は、探し出すことが出来ませんでした。根気が続かず……。絵は、展覧会で見るべきものですね。絵の大きさが分かります。画集で眺めるもの良いですが、大きさを思い描くのに苦労します。

「限界ですネ」から

2010-10-18 19:13:26 | はがき随筆


 過日この随筆を書き、8月7日、先生5人による人工膝関節手術をする。半身麻酔で、先生が看護師に指示する声、変な骨を削る響きも長いようで短い2時間が終わった。「終わりました」の声に肩の力が抜ける。術中は少しの痛みもなく、術後も無痛でパスしたので安堵が胸に広がった。術後の経過も良く、先生の言葉通りに成功に終わり感謝に尽きる。今は元気にリハビリのため通院している。
 退院の9月10日。すっきり秋空が広がり、帰宅すると庭に満開のネムの花、やさしいムラサキシキブ、秋バラも5部咲き。うれしい出迎えをしてくれた。
 鹿屋市 小幡晋一郎 2010/10/18 毎日新聞鹿児島版掲載
写真は
フォトライブラリより

救出に命の重み思う

2010-10-18 17:50:53 | 岩国エッセイサロンより
2010年10月17日 (日)
   岩国市  会 員  吉岡 賢一  

 チリの鉱山落盤事故で、地下に閉じ込められた作業員が、 一人また一人とカプセルで引き上げられた。 

 地獄の底て神や仏に守られ、人間の英知による救出作戦で33人全員が助け出されたことは、まさに世界中の拍手喝采を浴びる値打ちがある。 

 救出された一人は「これからまた何があってもに正面から立ち向かっていける。決して神は私を見放さないと信じていた。われわれを救うために偉業を成し遂げてくれる人たちがいると、私たちは確信していた」と述べている。

 生きることに対する執着、生への飽くなき挑職の姿勢は、いつの世も神仏はお見通しであり、必ず味方してくれる時が来る。大きな力を授けてくれると信じている。

 つらさの向こうに見えるほのかな明かりを信して、いま一度命の重みを思い起こし生き抜くことの尊さに思い至るとき、人間はひと皮むけるのだろう。

 生きていることは本当に素晴らしい。それもちょっと前向きになれたら、さらに素情らしい人生が開けるのだと思う。

  (2010.10.17 中国新聞「広場」掲載) 岩国エッセイサロンより転載


勉強会やりましたぁ

2010-10-17 22:16:59 | アカショウビンのつぶやき


今年度最後の大隅地区勉強会。
10人の会員が参加し、和やかに、賑やかに、けれど忌憚のない意見が熱くかわされ、5時間があっと言う間に過ぎてしまいました。

鹿児島市から駆けつけてくださった、M支局長ありがとうございました。

会場は鹿屋市の文化ゾーン、城山城址近くのレストランを貸し切り状態で使わせていただきました。
11時に開会、まず自己紹介を兼ねて作品朗読。一巡したらまず腹ごしらえです。

いつも会ってる仲間ですが話は尽きず、食事中も賑やかです。
89歳のMさんは、博学で壮大な宇宙の話もして下さいました。
0さんはいつも奥様同伴、仲良しカップルです。

そしていよいよ合評会です。気心の知れた仲間ですから遠慮はありません。作品が更に磨かれたものとなるよう、ああでもないこうでもないと…。
このやりとりを聞いてるだけで、勉強になります。元中学校国語教師のIさんの意見には学ぶところ大でした。
最後に支局長の講評で締めくくりました。













開催の準備や連絡など大隅地区運営委員のTさんやIさんにお世話になりました。お疲れ様でした。
来月は鹿児島市で秋の研修会です、またお会いしましょうね。

生き甲斐

2010-10-17 21:52:31 | はがき随筆
 中秋の空に1打を目で追い悲喜こもごもの老いたちは今日も元気。あと半転びのホールインワンに悔やむ男。集中し軽く打つが球は枠の外。「マタヒンデタ」。「アイヤ」。顔を見合わせ高笑い。地言葉の飛び交う中「ヤッタ、ヤッタ」。隣チームのホールインワン。「今日は下手ん人が入る日」とトンチ者。
 ゴルフ仲間60から90歳代まで約80人の集まり。2ゲームのあと、しばし休憩。持ち寄りで買った茶菓で水分補給。思い思いの話題に笑いの花が咲く。これまた楽しい。和気あいあい老いたちの秋。「笑いの仲間」に生き甲斐を感ずる。
  鹿屋市 森園愛吉 2010/10/17 毎日新聞鹿児島県版掲載

毎日ペンクラブ鹿児島・大隅地区勉強会

2010-10-16 11:51:51 | アカショウビンのつぶやき


 いよいよ、明日10月17日日曜、毎日ペンクラブ鹿児島・大隅地区勉強会が開催される。今年2回目の勉強会だが、内容は同じく作品持ち寄りの合評会。

4月に赴任された、新支局長が鹿児島から参加し講師を務めてくださる。
今回は10名が参加する予定。最高齢は80ウン歳のM氏。
「これが最後でしょうから」とおっしゃるが、いやいやお元気なMさんにはこれからも活躍していただきたい。

一方わたくし、時間的には十分余裕があったのに、いつものように、直前になった今ごろまで作品の推敲を続けている。

読む度に気になる箇所がみつかり、ああでもないこうでもないと…あまり代わり映えのしない作業を延々と。

むかし、夫と2人で投稿していたころ、この世界だけは後輩の夫が「読んでみてくれ」と原稿を持ってきた。文章を書くレベルは彼の方が上なのだが、私は重箱の隅をほじくるような指摘をした。

そのうちに「お前に見せると、原形をとどめない文章になるが…」と腹を立て見せてくれなくなった。あんなに競うことはなかったのに…と申し訳ない思い。
初投稿で月間賞を取った夫が羨ましかったのだろうなあ。
   by アカショウビン




ネコ語通訳

2010-10-16 08:45:13 | はがき随筆


 忙しく動き回る私の足をちょっと噛んで振り向きながら逃げるネコ。遠くから私の反応を見ている。すかさず娘のネコ語通訳が始まる。「お母さん! おなかすいてるのに、ご飯くれないし噛んでやる!」。窓のすき間から、そっと脱走。振り返るネコ。「あ~脱走した!」と私が慌てると「エヘヘ、脱走成功!」。ソファーに座ると私の膝に乗ってきて顔を見あげてニャーゴ…。「やっと座ってくれた~。寒くなったから、お母さんの膝に座りたかったよ~」。ネコは本当にそう言っているようだ。娘が帰ってくると私と娘とネコの楽しい会話が始まる。
  垂水市 宮下康 2010/10/16 毎日新聞鹿児島版掲載
写真はフォトライブラリより

さびしい主婦

2010-10-15 23:26:23 | はがき随筆
 今夏の野菜の高騰ぶりには参った。毎日夕食の準備は安価な太モヤシのひげ取りから始まった。今はやりのタジン鍋に、モヤシとシメジを1袋分、次に玉ネギとニンジンを半個分盛り、薄切り豚肉かベーコンでおおいフタをかぶせて弱火にかける。10分ほどで蒸し煮のでき上がり。ポン酢で食べるとおいしい。時には同じ材料で炒めものに。それに市販の野菜ジュースを飲んで耐えてきた。
 それなのに秋がきたというのに、やっぱり私は毎日モヤシのひげ根を取っている。野菜に加え果物までも今年は高くて、私はさびしくなるばかり。
  出水市 清水昌子 2010/10/15 毎日新聞鹿児島版掲載