はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

いいんじゃない

2012-03-22 11:40:07 | はがき随筆
 14歳の一人娘は、私が何か発言すると、必ず「いいんじゃない」と、すぐに肯定してくれる。
 その言葉にホッとし、いつも癒されていると思う。
 「たまには美容院にいってこようかなあ」という私。
 夫が元気な時に、いつもそう言ってくれていたように、娘は「いいんじゃない。女はいつもきれいにしていなきゃね」と言ってくれる。
 娘の言葉に元気づけられながら、介護生活を乗り切っていけていると感じ、感謝の気持ちでいっぱいだ。
  鹿児島市 萩原裕子 2012/3/20 毎日新聞鹿児島版掲載

からからと

2012-03-22 11:35:13 | はがき随筆
 書き終えたばかりの随筆を娘に読んでもらう。コメントはいかに? すると唐突にきたのが「インパクトがないね。平凡だし味わいがない」と言いたい放題。さらに「ママが書きたいことが何もつたわってこない」と激辛評。思わず、ずっこけてしまった。「この批評、甘んじて受けましょう」とおどけたものの、内心がっかり。娘は新聞を読み始めた。そして、からからと笑い出す。その目線は本紙! 「うまいね!」とうなっている様子。その時、私は燃える。今度はその言葉、そっくりいただくわよ。
  鹿児島市 竹之内美知子 2012/3/19 毎日新聞鹿児島版掲載

「春の味?」

2012-03-20 22:28:25 | 岩国エッセイサロンより
2012年3月20日 (火)

岩国市  会 員   稲本 康代

 吹く風に、春が少しずつ近づいている。今朝、フキノトウを見つけた。丁寧に掘り起こして手にすると独特の香りが漂い、何だか心がウキウキしてきた。どうやって食べようかな。

 思案したが、最近知人に習った通り、まず熱湯にさっと通し、それから水に放して固く絞り、細かく刻む。しょうゆをかけ熱いご飯の上に載せて口に入れた。

 ほろ苦い味を通り越して、何と舌がしびれるような苦さである。その苦さは消えなかった。

 私の調理がまずいのか、フキノトウが腹を立てたのかは知らないが、期待はずれの春の味たった。  

  (2012.03.20 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩國エッセイサロンより転載

母の入院

2012-03-18 18:33:13 | はがき随筆
 母は1月の末に、肺炎を起こしました。
 「家で看取りますか?」と言われた時は、足がガクガク震えました。
 まだ入院中で、毎食の食事介助に通っています。
 私の左腕が急に動かなくなったのは(もしかして、父が迎えに来たのでは……)という精神的なものだったようです。
 足も痛くて、手すりにつかまっていたのに、今ではさっさと上り下りしています。
 「今日は起き上がりそうでしたよ。手に力も出てきたよね」
 94歳。
 誕生日は格別でした。
  阿久根市 別枝由井 2012/3/18 毎日新聞鹿児島版掲載

養子娘

2012-03-18 17:58:49 | はがき随筆
 15年前、一人娘に婿養子をとった。大学のクラブのご縁で奈良から来てくれた。養子娘はわがままときくが、そんなことはない。ただ遠慮がないのだ。母娘のバトルが始まる。ものの例えに「白を黒と言われてもハイ、の心が大切」「いいえ、白は白です」と切り返す。
 「うちの嫁はひとこと言えば十口くらい言い返すから」。そばでににやにやして聞いていた婿殿「嫁じゃなく娘でしょ」。「いいえ、こんな娘に育てた覚えはありません。あなたも少しは女房教育をしてください」。とんだトバッチリに「なんで僕が怒られるの」と納得いかぬ顔。
  鹿児島市 内山陽子 2012/3/17 毎日新聞鹿児島版掲載

数字の縁起担ぎ

2012-03-18 17:52:54 | はがき随筆
 私事で恐縮だが、平均して夜中に3度はトイレに起きる。前立腺肥大ではあるが、残尿がないから手術はしなくてもよいという診断である。
 そんなことより本題は起きた時間である。トイレにデジタル時計がついているのだが、1回目が1時11分、2度目が3時33分、3度目は5時55分。1.3.5と数字の並びが3回も続けば、何か予想外の幸運が舞い込んでくるような気がするではないか。だが、商店街の大売り出しでもらった抽選券は何も当たらなかった。「そんなことあるわけないでしょ」。カミさんは全く相手にしてくれない。
  西之表市 武田静瞭 2012/3/16 毎日新聞鹿児島版掲載

春のかおり

2012-03-18 17:46:11 | はがき随筆
 1日8000歩を目標に朝夕散歩している。天気がいいと買い物にも歩くので1万歩も無理ではない。一方、雨だと居間から台所を行ったり来たり。2000歩くらいにしかならない。働いていたころは歩きながら夕食の献立を考えたりで季節を感じることはなかった。カラスも井戸端会議のおばちゃんたちみたいに、何やらカラス語で話をしている。通い慣れた道だと畑仕事の方とも顔なじみになり「デコンを持っていかんな」と大きな大根をいただく。両手で抱え筋肉トレーニングして帰る。気持にゆとりができると何もかも新鮮に見えて楽しくなる。
  阿久根市 的場豊子 2012/3/14 毎日新聞鹿児島版掲載

強気の願い

2012-03-15 14:45:12 | はがき随筆
 ピンポン。誰か玄関に。60代ぐらい? 会話の不自由な見知らぬ男性。驚いて何ごとかと案じたが、それほどでもない。遠方から敷物じゅうたんの販売。必死で強気の願い。だが、ぜいたくはできない。1万8000円、1万5000円と値下げ。その懸命さにまけそうだ。「奥さんは」とうかがう。「大腸がんで腹に袋を」と即答。人ごとでもない。私とてなる場合も。同情心が芽吹く。「1万なら買います」。納得。「どうも」と言葉を残し車の方へ。後を追って、お茶の粗品を差し上げ「お元気で」と激励。満面に笑みを浮かべ再びお礼され発車。
  肝付町 新富 永瀬悦子 2012/3/15 毎日新聞鹿児島版掲載

「定位置」

2012-03-15 14:43:28 | 岩国エッセイサロンより
2012年3月15日 (木)

岩国市  会 員   貝 良枝

壁掛け時計が遅れているのを忘れ、リズムが狂った。電池を替えようと時計を外した。時計はその位置にないのだが、つい見てしまう。「外したんだった」。代わりに目覚まし時計を出してみるが、視線はやはり壁に行く。

 父が元気だったころ「誰が使ったんか」とハサミや金づちなどが定位置にないことを怒られた。確かに、あるべき場所に物がなかったら、仕事の流れを切られたようでイラッとする。

 心の健康のためにすぐに電池を買いに行った。時計は元の位置で何事もなかったように静かに動きだした。

(2012.03.15 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩國エッセイサロンより転載



「梅一輪一輪ほどの・・・」

2012-03-14 11:54:47 | アカショウビンのつぶやき




2012年03月11日 | 趣味・・エッセイ 
   友の二階から眺める親水公園の梅の花        自画自賛

3月11日、14時46分。10回連続で吹鳴されるサイレンに合わせて黙祷。
改めて、自然の猛威と恐怖に思いを致し、心から哀悼の意を捧げた。
永遠に忘れることはない東日本大震災。一年たった今もなお、大きく開いた傷口は閉じるどころか、大きな大きな後遺症として多くの人を悩まし続けている。
梅一輪、一輪ほどの暖かさと言われるように、今年も遅咲きではあったが一輪ずつほころぶことで春を招き寄せてはいる。しかし、被災地東北地方では、梅は咲いてもまだまだ本当の春到来など思いもよらないことなのだろう。
今までも、これから先も、自分に出来る支援の手を差し伸べることを忘れはしない。

ここにも一輪ずつ開いて、小さな春を見つけた気分に浴している男がいる。
自分で勝手に始めた趣味の世界での出来ごとなので、別に自慢するほどのことでもなく、他の人から賞賛を浴びようとも思わないが、思わず笑みがこぼれる嬉しさはある。
人前で名前を呼ばれ、賞状を押し頂くなどはもう忘れた感覚である。
これまでに他の人のそういった晴れがましい席に拍手要因として欠かさず出席してきた。その都度「いずれは自分もあの席に・・・」という程度の感覚は持っていたと思う。それが、図らずも今回その晴れがましい席に座らせて頂いた。
たとえその出来栄えが大した事はなくても、こちらは精一杯書くだけ。選ぶのは向こう任せ。一旦投稿したからにはこちらはまな板の鯉。言ってみれば、嫁に行った晩の娘の心境、好きなようにして・・・かな。

何はともあれワンステップ踏んだことに違いはない。
しかしまだまだ上がある。到底手が届きはしないだろう領域がある。そうは言ってもやってみなけりゃ分らない。ヒョウタンから駒が出ることだってないわけではない。
ただその時には、自分自身はもとより、誰からも認められる納得のいく内容になるよう切磋琢磨していくことかな。
でも考えてみれば、誰からも認められることを求めること自体思い上がりなのかもしれないね。所詮人それぞれに見方がある。となると、やはり最終的には自分自身が如何に納得できるか、そこが問題だ。やはりややこしい世界ではある。
もっともっと広い世界にも目を向けて行かなくっちゃね・・・。

このページは、山口県岩国市の随友、yattaro-さんのブログからお借りしました。
yattaro-さま、年間賞受賞おめでとうございまーす。山口は年間賞が3名なんだそうです。

鹿児島はまだ年間賞の発表がありませんが、待ち遠しいですね。
と言っても投稿なしの私とは無関係なんですが…

記念日

2012-03-14 10:58:41 | アカショウビンのつぶやき


2012年03月10日 | エッセイサロン           

今日はひとつの記念日となった。

定年から数年目、エッセイ同好会に仲間入りさせてもらった。エッセイを創作し自己研鑚をはかろうというこじんまりした会。創作した作品は月例会で自らが読む。会員は聞いた感想や評をのべる。それを参考とし次の創作へ生かす。外部からの先生や講師は不在、それでもピシャリと決まるのはリーダーの人格と思っている。

作品は新聞へ投稿する。投稿は勇気がいる。勇気はいるが採用され掲載されたときはいい気持ちで一日が過ごせる。掲載にはそのくらい力がある。その作品は同人誌へ掲載される。年100編あまりが同人誌を飾る。

そんな投稿先のひとつに毎日新聞(西部)の最高252文字で纏める「はがき随筆」という欄がある。毎月50編余りが掲載され、そのなかから月間賞3作品が決まる。月間賞の中から年間賞が選定される。昨年6月の入選作が年間賞の末端に入り、今日、その授賞式へ出席した。投稿を初めて6年目のことだ。

正面だけを見てさっさと歩いていたような自分の歩みが、エッセイ同好会へ入って、少し変わったかなと思うことがある。なにげなく見て通り過ぎていたことに足を止めたり、小さな張り紙におっ、と感じたり、道べりの雑草の中の小さな花に目が行ったりと。少しだがこうした自分の変化を感じる。

こうした変化がいつの日か、掲載される作品のように心をうつ、心にしみるような内容につながっていけたら、と改めて思い直した今日だった。

山口県岩国市の随友tatu_no_koさんのブログからお借りしました。

tatu_no_koさま、年間賞受賞! おめでとうございます。鹿児島も頑張ります。

生きるってこと

2012-03-13 21:27:34 | はがき随筆
 映画「ALWAYS」の踊り子がヌードショー等の看板にも、どきどきする年ごろのことを思い起こさせた。すねかじりながら何事も社会勉強とこじつけ、ショー小屋の前の小さな食堂に入った。踊り子らしき2人が、ラーメンの丼を抱え一心に汁をすすっていた。
 踊り子が腰を振り体をくねらせる見せ場にも、ラーメンをすする格好が目に浮かび、なんの感興もわかない。生きるために食うたけに、体を資本に精いっぱいな彼女らを劣情の対象としてしか見ていなかった自分を恥じ罪悪感を覚え、以来、そんな小屋に足は向かなくなった。
  肝付町 吉井三男 2012/3/13 毎日新聞鹿児島版掲載

もう、すぐ

2012-03-13 21:06:57 | はがき随筆


 「おっ、ウグイスが鳴いているぞ」
 「どれどれ」。窓の外へ耳を傾けるが、もう聞こえない。
 「どんなふうに鳴いていた?」。「ホーホケキョと。もう1羽、ホーだけのがいたぞ」と主人。
 そう言えば昨日、父と歩いた道端にちらほらと白梅が咲きはじめ、紅梅は意外とたくさんの花ををつけていた。
 寒い日々の合間を縫って着実に春の歩みは進んでいた。菜の花の黄色い花もしっかりと咲いていた。
 大好きな花の季節はもうすぐ、そこに。
  肝付町 永瀬悦子 2012/3/12 毎日新聞鹿児島版掲載

海辺の町

2012-03-13 17:39:32 | はがき随筆
 昔から雪道が好きで、危険がない限りよく山へ行った。雪が降ると、今でも血が騒ぐ。ロープウエーに乗り、大雪の西穂高登山口駅で下り、誰もいない恐ろしく白い雪道を歩いたのは昨年の冬のことだった。
 今年、網走の雪原で遊んだ。気が付くと海は海岸線から凍り始めている。水玉の模様に浮かぶ氷の向こうには、流氷群が白く輝いている。氷点下11度、寒風の中で荒涼としたオホーツク海と鉄道の行く手に見える海辺の町に私は見入った。糠のようにさらさらとした雪に覆われた美しい世界を、防寒着の暗い内側からいつまでも眺めていた。
  出水市 中島征士 2012/3/11 毎日新聞鹿児島版掲載

感謝祭

2012-03-13 17:31:31 | はがき随筆
 会場の一画では、農家のお父さんが、間に合わせの使い古しの鍋で豆腐を手作り中。その横ではこれまたお父さんが2人、大鍋でミソ仕立てのしし鍋と格闘中。「栗ぜんざいをどうぞ」「ゆで卵も食べて」。村の小さな産直館は賑やかである。「年越しそばでも買って帰ろうか」。ほどなく餅つきが始まった。またまた農作業で鍛えたがっしり体型のお父さんが、慣れた手つきで杵をふるう。「順番に並んで」。先頭の妻、2番目の私の順で初めての餅つき。ご褒美につきたての餅をご馳走になり、わずか出費100円で笑顔のうちに帰路についた。
  霧島市 久野茂樹 2012/3/10 毎日新聞鹿児島版掲載