はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

「平和を願って」

2012-08-23 21:20:28 | 岩国エッセイサロンより
2012年8月21日 (火)

岩国市  会 員   横山 恵子

父急死後、しばらくして原爆資料館ヘボランティアに行った時、手紙を渡された。それは、以前ガイドした大阪の小学6年生からのものだった。
「原爆の怖さを知り、帰ってから1~5年生に伝えました。これからも私たちができることに取り組んでいくつもりです……」。戦禍をくぐり抜けた父の声無き声を伝えなくては。手紙が背中を押してくれた。
 今年も被爆地広島・長崎の平和式典に参列した人、人、人。心を一つにし、世界へ向け核廃絶を訴えるために……。何としても未来ある子供たちに平和というバトンを渡したい。

  (2012.08.21 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩國エッセイサロンより転載

白鷺の集合

2012-08-21 08:16:10 | はがき随筆


 この欄で、田んぼの耕運で白鷺が少なくなったという作品や、小鳥がいなくて寂しいとの作品があった。
 私はといえば、5月にホタルを全く見なかった。鳥よいずこへと思うが、時折群れをなし飛んでいく。夫の耕運で掘り出されるカエル、ミミズを補食するため集合する白鷺。その姿は鮮やかに地面に映え美しくこっけいである。先日、20羽ぐらいが耕耘機の後ろに群がったと。もう数少ないと思っていた私が「良かったね、あんたにもそんなについて来る?」。内心おかしくて質問。その風景はあたかも部下か家来のようである。
  肝付町 鳥取部京子 2012/8/20 毎日新聞鹿児島版掲載

博多祇園山笠

2012-08-21 07:49:53 | はがき随筆
 博多祇園山笠の追い山の折り返し点は山笠発祥の地、承天寺。7月15日未明、参道に「おいさ、おいさ」の掛け声と友に先走り隊が粋な姿を見せた。観衆は大歓声で氏子を迎える。隊頭の住職への口上が終わるころ、勇壮な山笠が現れた。飾られた武者人形の表情とポーズに圧倒され、台上りのリーダーがうまく指示を出すのに感心する。観衆が舁き手に水をかけ、山笠と心を一つにして祭りを盛り上げる。興奮が続く中、七つの山笠は、772年の伝統のわざとホコリを余韻に残して走り去った。感動を共にした婿は来年、舁き手。櫛田神社で水をかけたい。
  出水市 清田文雄 2012/8/20 毎日新聞鹿児島版掲載

キジバト

2012-08-21 00:57:42 | アカショウビンのつぶやき


 夕方、庭先に蟻の大行列ができていた。
どこに行くのか見ていると、その先には卵が割れて辺り一面に殻が飛び散り、
その殻の下から一つ目小僧のような小さな雛の頭が見えている。
鶏卵にしては小さい…さては、キジバト?
見上げた上には、去年と同じ粗雑な巣があった。

去年はもっと安定した場所に巣をかけたのだが…
今年はキウイの葉の茂り具合が悪く不安定な別の場所に巣を作ったらしい。

今年も来ないかなあと、いつも気にして見上げていたのだが、気付かなかった。
いつの間に作ったのか、危なっかしい巣で抱卵していたらしい。

無残な姿を見るのは辛いが、せめて庭の隅にでも葬ってやろうと、
しばらくして現場に行ってみると…もう亡骸さえも消えていた。
いつもウロウロしている猫の仕業だろうか。

自然の厳しさを現実に見せつけられ、心が痛むアカショウビンです。


上の画像は去年我が家で産まれたキジバトです。



殻のナタ豆

2012-08-18 11:57:50 | はがき随筆



 今朝も食卓に、ナタ豆のみそ漬け。私は妻のつけたナタ豆のみその一夜漬けが好きだ。歯応えがあり、おいしくて食欲が出る。私はナタ豆の苗を買って育て、9年になる。
 今年は種を買って育てた。最初は失敗。2回目はうまくいった。10日前後でナタ豆の子葉は5㌢程に成長。驚いたことに子葉が成長する時、そばに脱ぎ捨てた殻の割れ目が三つとも、子葉を見守るように上を向いている。私には、殻になっても、母が子を見守っているように思えてならなかった。
 母の殻脱がれし後も己の子ナタ豆見守り口を開けおり
  出水市 小村忍 2012/8/18 毎日新聞鹿児島版掲載

哲学的なハエ

2012-08-17 07:03:30 | はがき随筆
 窓ガラスにハエトリグモが張り付いている。両手を伸ばしてじっと動かない。その姿で宮本武蔵を思い出した。小説には、食事中に飛んできたハエを武蔵が箸で挟む場面がある。
 「お父さんのハエが畳の上を散歩しているよ」と妻が笑い出した。「そうか、哲学的なハエだね。散歩だなんて」。とぼけた私。実は私に打たれて、くずかごに捨てられたハエがよみがえってはい出し、畳の上をゾロゾロ歩いていたのだ。「ハエの姿と自分が重なって、打つのに一瞬のためらいがあるんだよな-」。ハエの命と自分の命がもしも等価であったなら
  出水市 中島征士 2012/8/17 毎日新聞鹿児島版掲載

空の旅

2012-08-17 06:32:01 | はがき随筆


 飛行機は、屋久島発鹿児島行き。お日様がにこにこ笑っていて風のない日が一番うれしい。
 夕暮れの早い冬は、町の明かりが宝石箱の宝石をパッとちりばめたように見えた。
 雲の多い日には、雲海がきれいだ。羊の毛のようなもこもことした雲、わた菓子のようなふわふわとした雲……。さまざまな形をした雲が遊んでいる。
 雲のない日には、海岸線と青い海がくっきり見える。
 飛行機の窓から外海をながていると、あっという間に鹿児島空港に着く。ありがたい。今日も安全な空の旅をありがとう。感謝しながら家路に着く。
  屋久島町 山岡淳子 2012/8/16 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆7月度

2012-08-15 11:17:42 | 受賞作品
 はがき随筆7月度の入賞者は次の皆さんです。(敬称略)
【月間賞】31日「祖母の悲しみ」秋峯いくよ(72)=霧島市
【佳作】3日「天然生活」清水恒(64)=伊佐市
  ▽19日「まぶしい教え子」小村忍(69)=出水市

月間賞に秋峯さん(霧島市)

佳作には清水さん(伊佐市)、小村さん(出水市)

 祖母の悲しみ 90歳を過ぎて認知症になってから、戦死した息子のことが、祖母の記憶の断片としてよみがえってきたという悲しい内容です。戦死公報に「バンザイ」を叫んでお祝いをしたほどの気丈夫な祖母も、本心はどうだったのでしょうか。戦争は国家が始め、個人の悲しみで終わるものです。
 天然生活 奥様に関してのノロケの文章です。うっかり屋は人の良い証拠という祖父の言葉に従ったわけでもないが、超のつきそうな天然自然体の妻を選んでしまった。その悲喜劇を、自分にも奥様にも距離を置いて描いたところに、味のある文章ができあがっています。
 まぶしい教え子 九州合同植物観察会で、案内役と講師を務める教え子に出会ってまぶしかった。その上、その教え子が植物を専門にしたのは、筆者に中学校の植物採集の宿題を叱られたことがきっかけだったと聞いて、うれしさも倍加したという、教師冥利に尽きる内容です。追い越される楽しみは、教師にしか分からない楽しみです。
 他に3編を紹介します。
 森孝子さんの「ミカドアゲハ」は、チョウを飼い育てる楽しみが克明に描かれています。驚くのは、育てて放ったチョウかどうか、庭に戻ってきて産卵するということです。植物も含めて、生き物を育てる楽しみは、おそらく生命の神秘への畏敬の念に支えられているのでしょう。
 下内幸一さんの「田舎の観音様」は、新しい散歩コースで、岩に彫られた「茂頭の観音様」を見つけ、この大発見に喜びと感謝を感じ、毎月お参りしようと決めたという内容です。「観音様との秘めた逢瀬を楽しみにしている」という表現がいいですね。
 内山陽子さんの「ヘビやムカデ」は、ヘビ嫌いの性分からくる生活の一面を真面目くさった文章にしていますが、ご本人には相済みませんが、読んでいるとおかしくもなってくる文章です。蛇の出ない「町のど真ん中に住みたい」希望が実現するとよいのですが。
 (鹿児島大学名誉教授・石田忠彦)

白いスニーカー

2012-08-15 10:57:39 | はがき随筆
 梅雨の晴れ間、玄関の掃除を始めた。ドアを開けると湿った空気が一気に外へ流れ出る。
 ベランダの日の当たる場所に履き物を並べた。白いスニーカーは亡き夫のもの。靴ひもを解いて、思い切り内側を広げ、洗濯ばさみで止めて日に向けた。
 生前、父の日に娘が贈ったもので、サイズが少しあわず、5㍉大きなものに交換してもらった。やがて、陽を浴びた白いスニーカーに、そっと足を入れてみた。
 ふんわりとした感触に、私はしばし立ち止まり、視力の弱かった夫が靴ひもを確かめるように履いていた姿を思い出す。
  鹿児島市 竹之内美知子 2012/8/15 毎日新聞鹿児島版掲載

守るために

2012-08-15 10:50:48 | はがき随筆
 「お母ちゃん、私はお父ちゃんの代わりに、お母ちゃんを守るために生まれてきたんだよね」と、15歳の娘が言った。夫は75歳。脳卒中で5年以上も闘病中。今はほとんど寝たきりだ。「頼むね、三希子。お母ちゃんを守って助けて生きていってね」と、そのお父ちゃんに言われたから。ナイーブだけどたくましい15歳は「うん、大丈夫。お母ちゃんのことはまかせて」と、きっぱりと答えた。15歳で父親からバトンタッチされたことは、娘には重すぎないだろうか。母親を守るためだけでなく、自分のために、自分らしく生き抜いてほしいと願う。
  鹿児島市 萩原裕子 2012/8/14 毎日新聞鹿児島版掲載

「妻に勝てること」

2012-08-14 21:12:20 | アカショウビンのつぶやき
2012年8月14日 (火)

岩国市  会 員   山本 一

毎晩寝る前に、妻とお互いのパソコンに向かう。2人でチビチビと飲む。コップになみなみと酒を入れて2階に持って上がるのは私の役目だ。妻はなぜかこれができない。イベント会場などでカップコーヒーを買った時も、持ち運ぶのは私の役目だ。妻がやると階段はもちろん、平地でもこぼす。こんな簡単なことがなぜできないか、不思議である。泳ぎも全く駄目だ。私は考えなくても水に浮く。

こんなことをあげつらうと、必ず逆襲される。悔しいが、個々に比べると妻の優勢勝ちなのだ。ゴールも見えてきた。お互い助け合っていこう。

(2012.08.14 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩國エッセイサロンより転載

聞きなし

2012-08-13 16:06:59 | はがき随筆


 朝風のよく通る庭で干し梅を裏返していると、近くでコジュケイの声がした。この鳥の聞きなしを、長い間「ちょっと来い、ちょっと来い」だと思っていた。中国原産で、日本に住み着いた昔から、人々はこのように聞いていたと……。
 最近「ちっと食え、ちっと食え」と鳴くのだと言うのを聞いて、胸がつまりそうだった。為政者や地主による貧困や、凶作による飢えを背景として生まれた言葉かと思ったからだ。これらの由来はともかく、糖尿病の今の私には「ちっと食え、ちっと食え」は、戒めとも慰めとも聞こえてありがたい。
  薩摩川内市 森孝子 2012/8/13 毎日新聞鹿児島版掲載

お目目拭いて

2012-08-13 15:58:45 | はがき随筆
 投稿歌集を読んでいて、次の短歌を一読するや、私はどうにも形容しがたい気持に襲われ、歌集を閉じた。
 <死に近く視力薄れし子が言えり「お母さんの顔が見えない、お目目を拭いて」>
 私は小心者である。小児病棟に小児がん、3歳ほどの男の子、若いお母さん……。それらのものが一気にあふれ、いたたまれなく、やるせない。14年前の投稿歌である。男の子はもうこの世にいないだろうか。そして男の子のお母さんは、どんなふうに今を生きているであろうか……。何もできない。ただただ私は無力感にどっぷりつかる。
  霧島市 久野茂樹 2012/8/12 毎日新聞鹿児島版掲載

大金に驚く息子たち

2012-08-13 15:57:00 | 岩国エッセイサロンより
2012年8月13日 (月)

    岩国市 会 員   山下 治子

夫の定年を機に住宅ローンを完済しようと決めていたが、通帳上の数字の移動だけでは何か空しい。

返済し続けて18年。息子たちに学費がかかる時期など、正直しんどい局面もあった。よくやり繰りしたというより、何とかなるもんだと振り返る。

この先、完済に充てるような大金を手にすることもないだろうと思い、現金化して一晩、二晩眺めようと夫との話がまとまった。

息子3人を呼び寄せ、それぞれの前に引き出した現金を均等に並べた。表情をこわばらせる息子たち。そこで夫の名演技。「これは退職金だ。生前贈与としてお前たちにやる」

「えっ、ほんまに?」「車のローン、助かるなあ」「おとんたちが使えばええやん」と、三者三様の反応。

次の瞬間、私たちのたくらみを見抜いた息子たちが「だって、住宅ローンを返すって言ってたじゃないか」と□をそろえた。がっかりさせたようでちょっぴり気が引けたが、全員で大爆笑して幕に。

「美田」を残そうにも残せないが、家族全員元気に暮らせている。息子たちはきっと、夫に感謝しているに違いない。



(2012.08.11 朝日新聞「ひととき」掲載)岩國エッセイサロンより転載

痛み緩和に

2012-08-11 23:50:27 | はがき随筆
 その季節でもないのに、私は毛布を身辺に置く。そして日差しがあるごとに日に当てる。なーんでか。それはね、イタイ、イタイ神経痛を和らげてくれるから。綿も、薄い羽毛も重さを感じるからだ。
 冷房を長く入れていると痛いし、あまりの暑さは苦痛である。しまっておいたカシミヤ入りの毛布を身辺に置いて足をくるんだり、畳んで足を乗せたり。痛みを和らげることに一役買ってくれる。にわか雨で幸い明け方が涼しい時などに、なくてはらない一品だ。
 柔らかさと、歩の暖かさに柔らかさと、歩の暖かさに包まれる季節外れの日々。

  鹿児島市 東郷久子  2012/8/11 毎日新聞鹿児島版掲載