はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

キジバト誕生

2012-10-25 17:46:07 | はがき随筆









7月初旬のことだった。
キウイ棚付近で、唸るような低いキジバトの声。
確かにキジバトの声なのだが
、姿も見えず不気味な響きが気になっていた。
ある日、庭仕事中にスコップが倒れ大きな音を立てた。
すると頭の上で、バタバタとキジバトが飛び立った。
よく見るとキウイの茂みに巣があった。
驚かせたので巣を放棄するかと心配したが、
親鳥は雨の日も風のもじっと動かない。
 やがて巣立ちした雛は我が家の庭で一週間ほど過ごし、
カメラを向けても動じない。
私は動物カメラマン気どりで愛らしい姿を撮りまくった。
  鹿屋市 西尾フミ子 2012/10/19 毎日新聞鹿児島版掲載

中秋の名月

2012-10-25 17:22:42 | はがき随筆
 台風17号が通り過ぎた夜は中秋の名月。台風情報にかまけて危うく忘れるところだった。
 子供の頃、十五夜が近づくと私たちは農家からワラをもらいカズラを集め、大人が大綱をなってくれた。十五夜には吹上浜で綱引きをした後、立派な土俵の上で相撲に興じた。しこ名は当時の大相撲の力士名だった。
 桜島の方角から月が静かに昇ってきた。昨年の十五夜は母も2階から月を眺めた。その後、足を骨折したので、今回は車椅子に乗せて庭に出てみた。「今年も月が見られてよかった!」と、97歳になる母はしきりに手を合わせていた。
  鹿児島市 田中健一郎 2012/10/18 毎日新聞鹿児島版掲載

野菊

2012-10-25 16:48:51 | はがき随筆


 ヨガ教室から帰る途中、道からたんぼに下る土手に、薄紫の野菊が目に留まり、そそとした花にたたずんた。そしてふと、木造校舎の教室で窓際の柱に竹の花筒が掛けてあり、野菊が挿してある風景が浮かんだ。遠い昔のことだ。
 野菊の印象を深めたのは、文庫本「野菊の墓」を手にした学生の時。作中の二人の成り行きを一気に読んだ。あの頃を懐かしむ。
 野菊には白や黄色もあるが、私は薄紫の花が好きでひときわ、かれんに思う。手折りたいと思ったが「野の花は野に」。快い風が吹いてきた。
  出水市 年神貞子 2012/10/17 毎日新聞鹿児島版掲載

グアバがなった

2012-10-25 16:42:51 | はがき随筆
 「うそっ!」。思わず叫びました。ベランダで育てているグアバが実を結んだのです。8月27日のこの欄に掲載されたあのグアバがです。
 私はあの時「一生面倒をみるから」とグアバに約束しましたが自信はなかったのです。
 いえ、世話はしましたよ。毎日水もやりましたし、風の強い日には支えもあてがいました。
 グアバもうれしかったんでしょうね。まだ直径3㌢の若い緑色の小さな子供ですが。
 しかし今年中になるとは思いませんでしたよ。早速一回りもふた周りも大きな植木鉢を仕入れてきました。
  鹿児島市 野幸祐 2012/10/16 毎日新聞鹿児島版掲載

紺碧の空

2012-10-25 16:36:25 | はがき随筆
 球場全体が一つの生き物となって「ぐわあん」とほえる。45年ぶり。神宮球場。どうしても妻に見せたかった伝統の早慶戦は旅程が合わず……。はやる気持ちを抑えてスタンドへ。
 見方打者のホームランに間髪入れず応援歌「紺碧の空」。対戦相手の大学の校歌までまで歌った。あの頃はグランドに谷沢がいた。「谷沢ーっ、外野のアベックに当ててやれーっ!」。ヤジまで覚えている。まさに秋晴れ。大東京の真ん中なのに風が心地いい。大空を飛行船がゆったり進む。あの日の若者は今、老いのうろこを脱ぎ捨てるように、一つ大きく伸びをした。
  霧島市 久野茂樹 2012/10/14 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆9月度

2012-10-25 16:11:03 | 受賞作品
 はがき随筆9月度の入賞者は次の皆さんです。(敬称略)

【月間賞】3日「ミカン泥棒」清水恒(64)=伊佐市
【佳 作】24日「わっはっはっ」吉井三男(70)=肝付町
26日「同じ歌でも」馬渡浩子(64)=鹿児島市

ミカン泥棒 小学校の下校時にミカンを盗んで怒られた話です。怒るKさんの、まず親の名を言わせ、罰に歌を歌わせ、図らずもミカンに関係のある歌を歌ってしまったら、表情が和らいだという態度に、かつては確かにあった、地域全体で子供を育てるという共同体意識がほうふつとしていて、懐かしい気分にさせてくれる文章です。
 わっはっはっ 夕方を待たずにしぼむ朝顔の花に、しぼんでも確実に種子を残して行く生命の持続を感じるにつけても、古希の自分は何を残したのかと忸怩たる思いにとらわれわれながらも、ふと気がつくと、立派な子供と孫が居るではないかと、高笑いする心境が描かれています。知足といいますか、多くを望まない幸福も確かにあります。
 同じ歌でも 中学校の時は心をこめて歌えといわれても、将来の希望に燃えていた年ごろで、心のこめようがなかった「オールド・ブラック・ジョー」の歌が、六十路の半ばにさしかかった今、「若き日早や夢とすぎ、我が友皆世を去りて」の歌詞が心にしみてきたという、落ち着いた内容です。何故あの歌詞を中学生に歌わせたのでしょうか。
 以上のほかに3編を紹介します。
 中鶴裕子さんの「義父」は、97歳で亡くなられた義父は、自分が介護されている立場なのに、家庭や施設で周囲を和ませてくれる達人であった。その毎日は、周囲の人々への感謝の念に満ちていた。身近に学ぶべき手本があるのは良いことですね。若宮庸成さんの「行く末考」は、50歳ごろ、残りの人生は奥さまと自由奔放に生きようと決め、実践してきた。ところが、そろそろ往生際考(?)が必要になってきた。誰でもが通る道ですが、これが一番難しい。久野茂樹さんの「懐かしの母校」は、45年ぶりの母校再訪です。今昔の感のある高校生たちの清新な態度に、往事の思い出を抱えて帰ってきた。老いの兆しとともに、過去がよみがえってくる様子が具体的なイメージで描かれています。
  (鹿児島大学名誉教授・石田忠彦)

ハナも見た

2012-10-25 16:00:32 | はがき随筆
 2回の窓から夕日を眺めていると、愛犬ハナと夕暮れ時を楽しんだことを思い出す。
 元気なハナは階段をかけ上がってきて、私の腕の中に飛び込み外を見たいとねだる。あかね色に染まる空や咲き誇る美男カズラを見て、飛び交う赤トンボを目で追う様は人間的でいとしかった。そのハナは3年前、突然短い命を終えた。今でも彼女の体のぬくもりは私の胸や両腕に残っていて、つい「ハナ…」とつぶやく自分がおかしい。
 ホルトの木に絡む美男カズラは、初夏から秋まで朱色の花を咲かせ、5匹のペットが眠る塚を暖かく見守っている。
  出水市 清田文夫 2012/10/12 毎日新聞鹿児島版掲載

熟した柿

2012-10-16 20:22:58 | はがき随筆


 昭和20年の終戦後、私たち家族は山村に住んでいた。
 父は教師で、母は子育ての真っ最中。食糧不足の毎日。子供は9歳の姉を頭に3人いて、私は6歳、弟は4歳で食べ盛り。ある夕暮れ時、父が熟した柿を枝ごと土産に帰宅。子供たちは柿に目を向ける。父いわく「食べたいなら、早く足を洗うこと」。我先に田んぼの向こうの川辺に急いだ。先に走った姉はもう折り返して来る。
 私が足を洗う時「ピーヒョロロ」とカッパの声。怖くて弟のことも頭になく即、家の方へ。それほど柿に魅了されたか。子供の頃が懐かしい。
  肝付町 鳥取部京子 2012/10/12 毎日新聞鹿児島版掲載

命の洗濯

2012-10-16 20:17:44 | はがき随筆
 山あいの里に薄黄色に熟れた稲穂が揺れる。
 畦や土手に咲く彼岸花が鮮やかに映えている。せせらぎの音がかすかに聞こえ、時折鳥が鳴く。
 東京からの友は「目が癒されて空気がうまい」とうなった。そして「命の洗濯だね」と。山あいの里を何度も歩いた。
 「昨夜のボタン鍋も、アユの刺身も味わい深いものがあった。でも都会暮らしの僕には、あの風景が一番のごちそうだったよ。今度は妻と一緒に来るよ。命の洗濯にね」
 彼はそう言って空港行きのシャトルバスに飛び乗った。
  出水市 道田道範 2012/10/11 毎日新聞鹿児島版掲載

更地とチョウ

2012-10-16 20:11:19 | はがき随筆
 重機の音がガツン、ガツンと響く時、私の胸は締め付けられるようだった。とうとう、亡き父母の、気になっていた廃屋を解体した。両親には申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
 父にしかられたり、家族皆で談笑したりした懐かしい居間。妹や弟と背比べをし、鉛筆で線を引いた跡の残る柱。思い出の詰まった廃屋はわずか4日で解体されて更地に。私の胸は、ぽっかり穴が開いたようで寂しい。
 数日後、更地に、つがいのアゲハチョウがもつれながら飛んできた。私は、何となく亡き父母がチョウに生まれ変わり、家の跡を見に着たのだと思った。
  出水市 小村忍 2012/10/10 毎日新聞鹿児島版掲載

開花

2012-10-15 20:50:09 | はがき随筆


 コスモスの開花を、今日か明日かと心待ちしていた。
 そして新聞を取りに出た時、2輪咲いている。「おはよう、かわいいね」と声をかけた。
 確かピンクだと思うが、その時、定かではなかった。ラジオ体操に出た時、淡い色のピンクであることを確認した。
 昨年、種をまき、コスモスは3月ごろ、芽を出した。私が体調を崩した6月半ばからは、水掛に注意を払い、しなびている「合図」を見ては、特に心がけた。
 今日の秋空の深さを背景にコスモスを見ると、深秋の思いにあふれてしまう。
  鹿児島市 東郷久子 2012/10/9 毎日新聞鹿児島版掲載

秋の魚の味

2012-10-15 20:36:22 | はがき随筆


 七輪に網を置き半分に切ったサンマを並べる。脂が滴り始めると燃え上がり渋うちわで消す。熱々にしょうゆをかけ口に運ぶ。子供の頃の光景で、味を楽しむというより栄養源である。今はロースターで炎も煙も出ない。かすかな音と匂いが七輪の時を思い出させる。すでに大根おろしが添えられた皿には櫛形に切ったカボスも。目の前に置かれるのももどかしく箸はまずはらわたにいく。その苦みと酸味、辛みが口いっぱいに広がるのを楽しむ。子供の味覚では知ることのできない大人の味が醸し出される。酒は熱かん。そして被災地の秋を思うのである。
  志布志市 若宮庸成 2012/10/8 毎日新聞鹿児島版掲載

運動会

2012-10-15 15:14:23 | はがき随筆
 妻の祖母たねさんは、どこかで運動会があると、早朝、おにぎりを作り出かけて言ったという。その話を聞いた時、なんという「運動会女子」と私は思った。それから後、一族の飲み方の席で、たねさんには戦死した子と病死した子の2人がいることを知った。2人とも足が速く、1人は100㍍走の県記録を持っていたとのことだった。
 たねさんは、在りし日の2人の子を重ねて、100㍍走の先頭を駆けていく少年に声援を送っていたのかもしれない。運動会は、亡くなった2人の子が、たねさんのもとへ帰ってくる場所だったのだ、きっと。
  伊佐市 清水恒 2012/10/7 毎日新聞鹿児島版掲載  

カミさん流

2012-10-15 14:58:47 | はがき随筆






 中種子にピザのおいしい店があるからと、いとこに誘われたカミさん。「洗濯機は回しておいたから、あとはお願いね」と言い残し、出かけてしまった。
 洗濯物を干し終わってから庭を眺める。パキスタキスの横にニラが花を咲かせている。隅のほうにはナツスミレが咲き、隣にはセンナリホオズキが枝を伸ばしている。小さい花だがアップにしたらきれいかもと、カメラを持ち出した。そんなところへカミさんが帰ってきた。ピザは注文しておかなくてはだめだったそうだ。
 庭造りも買い物も出たとこ勝負。これかカミさん流だ。
  西之表市 武田静瞭 2012/10/6 毎日新聞鹿児島版掲載

トランペッター

2012-10-15 14:52:45 | はがき随筆
 夕刻になると決まって響き渡るトランペットの音色。最初は「プー」と擦れた音階だけがどれほど続いただろうか。伸び悩む技量を人ごとながら心配する。庭の草を取りながら、吹奏楽部に入部したばかりの小学生か、中学生かと一人思い巡らす日々。最近は聞き覚えのあるメロディーも1小節は吹ける。
 この夏休みには午前中にも聞けたので、学生さんであることには間違いないが、音の主の幻のトランペッターを拝見したい気もする。イメージとかけ離れていたら、がっかりするのではと、今日もちょっぴり上達した演奏を楽しみにしている。
  鹿屋市 中鶴裕子 2012/10/5 毎日新聞鹿児島版掲載