はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

覚悟を決めて!

2014-11-24 14:52:46 | はがき随筆
 遠方に住む父の危篤と復活と認知症。それに伴う介護とケア。息子の大手術とリハビリ。間を置かず起こった夫の大病と手術。バッドケースの連続に涙する間もなく笑ってしまいそうになる。自分のやりたいこと全てが後回しになった。
 その同時期にママ友2人が相次いで亡くなった。突然だった。「お茶行こう」と誘われていたのに、私は断ってばかりいた。彼女達と永遠に会えなくなるとも知りもせずに。
 だから今は、覚悟を決めた。「やりたいことは即実行」。今日この日、この一瞬を悔いなく生きるのだ、と。
  鹿児島市 奥村美枝 2014/11/21 毎日新聞鹿児島版掲載

優しい微笑を

2014-11-24 14:45:05 | はがき随筆
 身体の一部に痛みを覚えると、優しい笑顔になれない。夫に体の調子を聞く。「まずまず」とうなずく。帯状疱疹の枯れた傷痕が痛々しい。入院中、厳しいリハビリに耐え、ようやく歩けるほどになり「皆のおかげで今日がある」。「感謝、感謝」。今朝は自転車をこいで海岸を一巡り。息も弾んで帰宅する。喉が渇いたので野菜ジュースを1.2杯飲み干した。ああ「生きた心地だね」。今は自転車でのリハビリが1日の日課。お昼には秋ナス、きのこ、シャケ、トマトのサラダを試みた。夫の顔が緩んだ。舌鼓を打った。凜とした空間に優しい微笑が……。
  姶良市 堀美代子 2014/11/20 毎日新聞鹿児島版掲載

恥ずかしい

2014-11-24 14:38:43 | はがき随筆
 「もうそろそろ」と、目覚め一番、新聞受けへ。「やったー! 今朝のおかずは1品増」。月初めに載ったら余裕、余裕。だが、月末まであと何日あるかな。ボツの寂しさが増す。日めくりカレンダーに「自信はなくてうぬぼればかの。ああ、恥ずかしい、恥ずかしい」と。
 選び抜かれたことばで書かれた随筆に比べ、頭に浮かんだままを並べた文だ。けれども、久々に載るとうれしくなり、また投稿したくなる。不思議な力を持つ「はがき随筆コーナー」。私にも参加できる数少ない楽しみの泉。こんな場所があるから、新聞はやめられない。
  阿久根市 的場豊子 2014/11/19 毎日新聞鹿児島版掲載

うれしい遺伝

2014-11-24 14:32:23 | はがき随筆
 東京に住む孫の「らら」は5歳の女の子。
 6月4日生まれということもあり、ママが歯には特に気を配っていて、今年は東京都の「よい子の歯のコンクール」で2位だったとのこと。「やっぱりね」と納得する私。
 というのは、私も今年の検診で「とてもきれいで丈夫な40代の歯です」と太鼓判を押された。今でも梅干しは歯で割って中の種子を食べるのが楽しみ。
 亡くなった母のように、ビール瓶の蓋を歯で開けることは怖くて出来ないが、先祖から授かった丈夫な歯は、これからも大切にしていこうと思う。
  鹿児島市 斉藤三千代 2014/11/18 毎日新聞鹿児島版掲載

鶴の初飛来

2014-11-23 22:32:51 | はがき随筆

 「クワッ」。鶴の鳴きが聞こえたようで急いで庭に出た。見上げると満天の星。空耳だったかな。「ま、いい」。星の美しさにしばらく見上げていると、「クワッ、クワ」。やはり鶴の鳴きだった。見渡すが、それらしいものは見えず、鳴きははるか高く東北の方からする。私はいつとはなし庭のホトトギスの一番咲きを見た日、鶴の初飛来を近年4回続いた記録から、花を見た日は期待した。しかし、今年はところいっぱい満開になっても飛来しなかった。観測史上2番目に遅い飛来とか。遅い分、1000羽の大群。来るべきものが来てよかった。
  出水市 年神貞子 2014/11/17 毎日新聞鹿児島版掲載

釣り銭

2014-11-23 22:26:02 | はがき随筆
 キャッシュレスの暮らしがすっかり定着した。釣り銭を受け取る手間が要らないので、スピーディーにことが運ぶ。だから、カード決済の買い物は便利だ。先日、外出のついでに刺し身を買おうとスーパーに寄ったらカードを持参していなかった。ポケットを探ると1000円札が1枚。刺し身だけを買い、手にした釣り銭を何気なくポケットに放り込み駐車場へ急ぐ。すると、ポケットの中がざわめいた。小銭が私の歩数をつぶやいているのだ。レジから車までの数十秒の出来事だったが、久しぶりに現金で買い物をして、釣り銭の心地よい響きを楽しんだ。
  鹿屋市 門倉キヨ子 2014/11/16 毎日新聞鹿児島版掲載

コスモス揺れて

2014-11-22 00:04:39 | 岩国エッセイサロンより
2014年11月21日 (金)

岩国市  会 員   吉岡 賢一

 秋桜とも呼ばれ、多くの人から愛されるコスモスが、ヒヨヒヨと晩秋の風に揺れる様を目にするとき、無性に母の終焉が思い出される。
 百歳7カ月を生きた母が、痛みも苦しみも訴えることなく、一人静かに定めの道へ旅立ってから丸6年が過ぎようとしている。「もっともっと生きてほしかった」と心乱したあの頃を振り返ると、随分無理な注文をしたものだと反省する。あの時の別れが、母にとって精いっぱいの生涯を全うしたのだと今にして思えるようになった。 
 ついこの間のような気がするが、はや七回忌の法要を迎えた。
 (2014.11.21 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

ティータイム

2014-11-15 17:25:57 | はがき随筆


 母の初盆が迫り、実家の草取りをした。お茶になり、弟嫁が小型パンを「どうぞ」と出してくれた。朝食もパンだったので、あまり食べたくなかった。気が進まないでいると、様子を見かねた弟が「パンが可哀そうだから僕は食べるよ」と。「では私も」。食べてみると、小豆のあんが入っていて、とてもおいしい。嫁への思いやりか、パンへの同情心か、弟の優しさを察する。以来、小型パンを好んで買うようになった。無事に初盆の大役を果たし、弟夫婦は千葉へ帰った。秋も深まって涼風が頬をなでる縁側で、繊細な心の弟を思うティータイムである。
  肝付町 鳥取部京子 2014/11/15 毎日新聞鹿児島版掲載

初恋

2014-11-15 17:16:25 | はがき随筆
 玄関にペタリと座り込む。入り口を向いてずっと待っていれば、今年2月に亡くなった夫が帰ってくるようなきがする。
 「お母ちゃん、ただ今よー」。優しい声も聞こえてくるような気がする。大きな温かい手を差し伸べて、私の手を強く握ってくれるような気がする。
 「何か食べようよ、お母ちゃん」。うれしそうにそう言ってくれる気がする。
 優しい笑顔、穏やかな人柄、私にはもったいない最高の人だった。
 そう思って座っていたら、「初恋」のように胸かドキドキしてきた。
  鹿児島市 萩原裕子 2014/11/14 毎日新聞鹿児島版掲載

一に音楽

2014-11-15 17:04:36 | はがき随筆
 1989(平成元)年に鎌倉の奇術クラブに入会した。講師は愛好者にはよく知られた方で、「マジックは一に音楽、二に衣装、三,四がなくて五に手品」と教わった。舞台ではまず、すてきな音楽を選ぶこと。次にお客さんの見た目も大切、がその理由だった。6年前に鹿児島のクラブに入り出演している。今年も子ども連れが多くてにぎわった。本番では舞台に上がると客席から拍手を頂く。緊張感も和らぎ、つい笑みがこぼれる。来秋は鹿児島で国民文化祭が開かれる。クラブで参加を申請中で実現すれば、全国の愛好者が集う大会になりそう。
  鹿児島市 田中健一郎 2014/11/13 毎日新聞鹿児島版掲載

出来事

2014-11-15 16:58:19 | はがき随筆
 素顔で顔は見たくない老醜と自覚しているので、色黒で冴えない肌にせめて1日1回朝、化粧をする。化粧できる女に生まれて良かったと思いながら。午後の外出は1度化粧したのだからと、安心してそのまま出かけていた。昨日、新しい眼鏡店に出かける折、午後だったので口紅は薄く塗り直した。話の途中「退院されたばかりですか?」に一瞬戸惑ったが「いいえ」と答える。ショック! 若くて美しい店員さんから見たら、やつれていたのだろう。これからの外出時には頬紅と口紅ぐらいは、しっかりと塗り直さなくてはと思わせた出来事だった。
  霧島市 口町円子 2014/11/12 毎日新聞鹿児島版掲載

紅葉

2014-11-15 16:50:22 | はがき随筆
 紅葉を庭に植えて40年の歳月がたつ。近年、生気がなく、気になりつつも放っていたら枯れてしまった。芽吹きに早春を知り、緑の葉陰に涼夏を感じ、黄葉の落葉に晩秋を見、素肌の幹に越冬の準備をした。我が家の四季の織りなす模様をつぶさにみとった上での最期であった。切り倒したら、害虫にむしばまれた痕跡があり、駆除すればよかったと後悔した。この春、切り株の周辺に紅葉の芽が出ていることに妻が気付いた。見れば、数多く発芽している。思えば消えゆく命を感じながら、種を落として逝った。自然のことわりとはいえ感嘆した。
  出水市 宮路量温 2014/11/11 毎日新聞鹿児島版掲載

ちょっぴりか

2014-11-15 16:43:21 | はがき随筆
 年老いてくると、経験も修練も生かされ、作品も上々になると信じてきた。現実は、逆方向の私の生き方を見るようだ。期待通りに、思うようにいかぬ結果ばかりが現れてくる。応募、投稿しても選外が褒美についてくる。断絶、諦めムードの自分を作り出す。童話と健康作文に応募する。童話はいつも選外の連続である。参加費なのか、童話集が届く。立派な冊子で、他に類を見ないありがたさが伝わってくる。健康作文は今年は選外か。結果は1勝2敗。その1勝分はなんと入選だった。驚いた。今から入選の機会が生じるか、望みもちょっぴりか。
  鹿児島市 岩田昭治 2014/11/9 毎日新聞鹿児島版掲載

郵便運

2014-11-15 16:35:44 | はがき随筆
 私は「郵便運」が悪い。投函した郵便物が届かなかったのは2回目だ。
 長男(5)の通う幼稚園が、敬老の日に合わせて、長男の描いた絵と先生の一言が入ったはがきを祖父母に出してくれる企画があった。
 いつまでも着かないので、郵便局に相談。専門の機関が宛先の東京までの道筋を調査してくれることになった。
 約1ヶ月後、「発見できなかった。記録が残る郵便物ではないので、どこまで行ったかも不明」との結果が出た。はがきが、何かの厄を持って行ってくれたのたと、前向きに諦めた。
  鹿児島市 津島友子 2014/11/8 毎日新聞鹿児島版掲載

ぼくの昭和史1

2014-11-15 12:59:08 | はがき随筆
 終戦の日の2週間後が満6歳の誕生日。従って、戦争の記憶は僅かであり断片的だ。その最初は盛岡の連帯へ父との面会に行った時のこと。面会所は木造の洋館で、壁に沿って木製のベンチが設えられていた。
 窓の外に雪があったが、寒さは覚えていない。軍服姿で表れた父を見て、ぼくは母の背中に隠れた。畏怖というより見たことのない姿の、父への驚きだろう。前後の記憶はないが、そのことは消えない。
 その後、母と妹の3人、空襲警報の度に伝統を黒い布で隠し、防空頭巾をかぶり逃げ惑ったことも、ぼくの昭和史である。
  志布志市 若宮庸成 2014/11/7 毎日新聞鹿児島版掲載