はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

見ていてね

2019-06-25 17:53:43 | 岩国エッセイサロンより

2019年6月 7日 (金)

   岩国市  会 員   横山 恵子


 亡き父は退職後、庭の一角を耕して畑にした。「畑作りは土作りじゃ」と言って堆肥を作り、大根やトマト、つくね芋にも挑戦。亡き母の好物の文豆は毎年作った。
 しかし7年前、突然の事故で急死。畑が広く感じられた。傷心の日々の中、戸棚の隅に文豆の種を見つけた。秋にまいたら翌春、実がなった。小粒の豆がいとおしく、込み上げるものがあった。
 今年は豊作。早速豆ご飯を仏壇へ。父の後ろ姿を思い出しつつ、試行錯誤の野菜作り。空からはらはらしながら見ていた両親も「おーやっとるなー」と少しは安堵しているだろうか。
   (2019.06.07 毎日新聞「はがき随筆」掲載)


確かな歩みに

2019-06-25 17:43:00 | はがき随筆

 京都の通信制芸術大の仲間と卒業後、京都で年1回の美術展を行い5年目を迎えた。「これまでの五年、これからの五年」と題した寄稿で、私は多くの人に見てもらいたいので、公募展に挑戦し続けたいと書いた。

 仲間の中には自分の病気、家族の介護や別れ、子育て奮闘中など、さまざまな状況に置かれている。そんな中でうまれた作品たち。また、京都近隣の仲間たちの支えがあっての美術展。遠方の私は、出品することで感謝の気持ちを表したい。

 25年は続けようの思いを込めた「KIRARI25」展。20年後、生きてまだ描いていたい。

 宮崎県高鍋町 井手口あけみ(70) 2019/6/25 毎日新聞鹿児島版掲載


飛行機雲

2019-06-25 17:31:30 | はがき随筆

 夜明けの空は見事な青のグラデーション。思わず「きれい!」見とれてしまう。4本の飛行機雲に1本の線が交差する。珍しい。雲の行方を追う。

 旅の日の胸の鼓動が高鳴る感をしばらく忘れている。さまざまな人間模様を引き受けた空飛ぶ鉄の大きな機体。地上から見上げ何をか思う。今ごろ機内はリラックスタイム? 会話する人、目を閉じて音楽にききいる人。あの日の私は、うつむいてずっと涙をこぼしていた。辛い時間にようやく耐えた。

 あれからもう随分時間が過ぎた。残された飛行機雲のはるか先、飛行機はいったいどこへ。

熊本県八代市 鍬本恵子(73) 2019/6/24 毎日新聞鹿児島版掲載


ホタル舟

2019-06-23 21:56:43 | はがき随筆

 さつま町の川内川河川敷でホタル舟を運航していると知り、ぜひとも行きたくなった。

 車の運転ができないので夫に頼みたいが、あまり仲がよくないので気が引ける。高齢ドライバーの事故も多いし、日々老いていく。ためらっていたら「オレも行きたい」。心中を見透かされた感じ。でもよかった。

 3隻くっつけて安定よくした舟が10人ほど乗せて動き始めた。暗闇に目をこらすと、ほのかな光があっちにこっちに。歓声があがる。ホタルの数が増えていく。水面にも光が映えて夢心地……。まさに夫様様のおかげ。得がたい経験ができたのは。

 鹿児島市 馬渡浩子(71) 2019/6/23 毎日新聞鹿児島版掲載


牛のお産

2019-06-23 21:47:34 | はがき随筆

 朝食後つけっぱなしのテレビに目が釘付けになった。女子高生が牛のお産を手伝う場面だ。入院している98の義父がすぐ浮かんだ。義父は私たちが大阪からUターンするまで養鶏の傍ら牛を飼っていた。30年近く前の出来事にオーバーラップした。

 朝、義父の大声に起こされ牛小屋に入ると眠気は飛んだ。母牛は逆子ため産めずにいた。子牛の足にロープをくくり引っ張り出した。無事に安堵した。

 逆子は癖になるらしく、それから2度早朝に起こされた。牛のお産に立ち会おうとは夢にも思わなかった。が、3度の帝王切開したわが身を重ねた。

 宮崎県串間市 武田ゆきえ(64) 2019/6/22 毎日新聞鹿児島版掲載


手作りのネックレス

2019-06-23 21:41:05 | はがき随筆

 関東の次女が、古いネクタイと木のビーズを使って手作りしたネックレスを送ってきた。社交ダンスをしていた数年前までは装飾品を楽しんでいたが、外出があまりない今では、引き出しに眠ったまま。

 せっかく送ってくれたので着けてみたい。そうだ、月2回のレクリエーションダンスがある。当日、早速首へ。友が「わーいいネックレス。貸して」と自分の首に。「軽くてすてき」。別の友も「私にも貸して」。2人してとてもよく似合う。

 いつもは疲れて帰宅するが気分ルンルン。ネックレスのおかげか。夜、次女に電話で報告。

 熊本市中央区 原田初枝(89) 2019/6/21 毎日新聞鹿児島版掲載


感謝状

2019-06-20 13:34:57 | はがき随筆

 「肩が痛かでシップを貼ってくれ」と、主人が服をぬいだ。色白で骨にはりついた皮はピカピカに光っている。貼りながら見たガラスに映っているのは、色黒で4人の子供を母乳で育てた立派なタレ乳。長年蓄えた体全体の肉布団はどうみても主人の体の厚さの2倍。考えてみると主人は短気で、おいしいものは少しずつ何回も食べたい、病院好き。一方の私はのんびり屋でおいしい物はいっぺんに腹いっぱい食べる。主治医もなくいたって元気。そんな2人が50年以上もなんとなく楽しく暮らしているのは不思議。これこそ感謝状(どちらに!)。

 鹿児島県阿久根市 的場豊子(73) 2019/6/20 毎日新聞鹿児島版掲載


木陰

2019-06-20 13:28:15 | はがき随筆

 市民の森を散策中、行き交った人が私の名前を呼んでいる。

 びっくりして振り返ると、20年も前に知り合った男性で、相変わらず背が高い。よく覚えていたものだ。「お元気そうですね」と言うと「おかげで何とか」との返事。「あんたも元気で」と問われて「おかげさまで」と、木陰で答えを返す。

 森には樹木の陰があり、熱い日は木陰で休むとほっとする。森は何も人間を休ませるために木陰を作っているのではない。

 無心に自分のために成長しているだけのこと。外は猛暑、気持ちよい木陰の「おかげ」で木陰に感謝の一時だった。

 宮崎市 黒木正明(86) 2019/6/20 毎日新聞鹿児島版掲載


シャッター音

2019-06-20 13:12:54 | はがき随筆

 「パシャ」。頭上には、おいしそうなフワフワ、モコモコの白い綿菓子が浮かんでいる。BGMは鳥のさえずり。<あー、お昼は何を食べようかなぁ>。とりとめない事を考えながら、いつもの道を歩くのが至福のひとときなのだ。

 毎日、パレットの色が同じ場所、同じ時間帯でも変わっていく様を見る。「あ、また色が変わっていく」。私の心情もさまざまな色をつけていく。まるで皿と私がリンクしているかのよう。「パシャ」。また私の中からシャッター音がする。レンズ越しでは伝わらない一瞬を今日も心に焼き付けた。

 熊本市北区 上野瑞姫(26) 2019/6/20 毎日新聞鹿児島版掲載


賞味期限の心配り

2019-06-20 13:05:52 | はがき随筆

 ドライブがてら立ち寄った菊池市の観光施設で、自宅用の土産に地元の銘菓を買った。包装しながらレジの女性が「賞味期限は19日になっていますけれど、よろしいでしょうか」と尋ねてくる。「今夜か明日には食べるから大丈夫」。そう答えると「ありがとうございます」と釣り銭とともに手渡してくれた。

 陳列から選び出す時、そこまで注意していなかったが「知人への手土産」とでも言ったら、取り換えてくれたのだろうか。実に細かいことまで気を配っていると感動する。帰りのハンドルも心なしか軽く、気分がよかった。

 熊本市東区 中村弘之(83) 2019/6/20 毎日新聞鹿児島版掲載


ちょっと変?

2019-06-20 12:58:19 | はがき随筆

 「お母さんは変わっている」娘から言われた数日後――。

 我が家の水槽にとうとう一匹だけになってしまったメダカ。「メダシゲンチャン」。呼びかけると彼(雄だと決めつけている)は向きを変えた。硝子越しの小さな黒眼と見つめ合う。つと、肴が口を開いた。あっ、笑った。すぐに夫と娘に告げたが、2人は信じない。今度は夫が「お前は変わっている」と。

 13歳の孫娘に聞いた。「好きな男の子いら?」すかさず、「うちは刀剣乱舞の加州清光」アニメの登場人物だった。

羽生結弦と妄想恋愛中の私の孫らしい。

 宮崎県延岡市 佐藤桂子(71) 2019/6/20 毎日新聞鹿児島版掲載


巣立ち

2019-06-20 12:52:10 | はがき随筆

 今年もツバメがヒナをかえした。巣立ちの頃にはヒナの食欲も旺盛で親ツバメはひっきりなしに餌を運ぶ。ある朝、玄関先が騒がしいので出てみると、巣から飛び出した4羽のヒナが外灯の笠の上にいて、しきりにないている。巣の方を見ると、なんと1羽が残っている。早くおいでよと誘っているふうだが動かない。飛べないのかと心配したが、やっと4日目に飛ぶこととができて一安心。巣立つと言ってもしばらくはすぐ巣に戻って来て親ツバメから餌をもらっていたが、そのうち長く跳べるようになり、今は夜だけ巣に戻ってきて重なって寝ている。

 鹿児島県霧島市 秋峯いくよ(78) 2019/6/20 毎日新聞鹿児島版掲載


薬指のつぶやき

2019-06-20 12:43:31 | はがき随筆

 一服しようとカップを持つと左薬指のあたりがひりひりして痛い。浅漬けの唐辛子のせい?

 指輪を抜くと赤くなっている。消毒して様子をみることに。

 結婚して53年、しわしわの手をかざしてみる。太っていた頃、意見の相違から、こんなはずじゃなかったと、抜けない指輪をぐるぐる回した夜のことも今は懐かしく、くびれた薬指がいとおしい。痛みがやわらぎ、指が寂しいとつぶやいている。結婚指輪を戻し、子供からのプレゼントと旅先で求めた指輪も一緒にはめると三つのハートが余生のお守りになった。指も心も輝き、暮らしが潤っている。

 鹿児島県薩摩川内市 田中由利子(77) 2019/6/20 毎日新聞鹿児島版掲載


平成最後の満月

2019-06-19 21:13:47 | はがき随筆

 夕げを終え、久しぶりにベランダへ出た。

 心地よい川風に当たりながら店を仰ぐと、星空が月明かりに消されていた。この日の月が、平成最後の満月だというのを耳にしていた。丸い、きれいなお月さまをイメージしながら、幾度となく見直したが、5年前に「黄斑変性症」が再発し、上弦、下弦の様に歪んで見える。

 目は心の窓、盆のような月を思い浮かべ心が痛む。この日の満月を、忘れな草の1㌻書き止めておこう。

 川面に揺らぐ、星くずのような光に慰められ、再び、空を見上げた。

 宮崎県延岡市 島田葉子(86) 2019/6/19 毎日新聞鹿児島版掲載


巣立ち

2019-06-19 21:04:00 | はがき随筆

 珍しい。地面に降り、とっとと歩く2羽の鳥。よくみると1匹は極小の綿毛。まん丸愛らしい巣立ちの雛。一昨年も落ちていた雛はあれも親鳥が近くにいたのだろう。親鳥が飛び立つと万年青の葉陰にさっと隠れた。

 家の軒に巣はあるのだが不思議に見つけられない。きっと生きる場所は厳重の守秘。今もカラスの影が地面を横切っていった。営巣は難しいことなのだ。

 生き物の織りなす綾は美しくもあるが厳密・厳酷。人間の興味津々なんて迷惑なだけだろうなぁ。でも時々、その可愛い姿を見たくなる。