はがき随筆の5月度月間賞は次の皆さんでした。(敬称略)
【月間賞】25日「朝は山姥」永井ミツ子=宮崎県日南市
【佳作】13日「さとうさんは何処」露木恵美子=宮崎県延岡市
▽8日「仰げば尊し」野崎正昭=鹿児島市
▽16日「境界の線」北窓和代=熊本県阿蘇市
月間賞に永井さん(宮崎)
佳作は露木さん(宮崎)、
野崎さん(鹿児島)、
北窓さん(熊本)
「朝は山姥」は、白髪を染めることをやめた時の心境が、劇的に描かれています。まず外部からの反応を、白髪に対するものとは触れずに書き、次に白髪染めをやめ自然体に生きることの気楽さで種明し。最後に、しかししかし、寝起きの姿は孫も驚く山姥状態。能楽に序破急という三段構成がありますが、図らずも見事な三段構成の文章です。ご自分の心境に距離を置いたために、文章が成功しました。
「さとうさんは何処」は、心温まる話題ですが、同時に不思議な話でもあります。五ヶ瀬川の堤防で、祭りの準備に係り数人で菜の花の手入れをしていたら、見知らぬ女性が2日間も手伝ってくれた。その時の写真が届いたので送ってやりたいが、どこの誰やら分からない。「風の又三郎」を連想した、という内容です。意識的なものか、あるいは無意識的なものか、読む者を想像の世界へ誘うところのある文章です。
「仰げば尊し」は、長年教職に就いていて「仰げば尊しわが師の恩」を聞いてきたが、違和感を感じていた。先日大成した教え子の恩師と言われ、恥ずかしく、恩は撮ってくれと言った。晩年(失礼)にこういう思いに取り付かれるのはつらいですね。しかし、のほほんと生きるよりは、充実した生ではないでしょうか。
「境界の線」は、人と自然との関係についての意見が述べられています。熊本地震のときのがけ崩れもひどかったが、それよりも人為的な自然破壊がひどいのではないか。考えると地震によるがけ崩れも、その一因は人の自然への対処の仕方にあったのではないか。自然の持つ再生力は果たして無限か。人と自然の調和の限界を人は超えてはいないか。このような問題はアポリア(同時に二つの合理的答えがあること)ですね。
鹿児島大学名誉教授 石田忠彦