はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

はがき随筆5月度

2019-06-19 20:35:35 | 受賞作品

 はがき随筆の5月度月間賞は次の皆さんでした。(敬称略)

 【月間賞】25日「朝は山姥」永井ミツ子=宮崎県日南市

 【佳作】13日「さとうさんは何処」露木恵美子=宮崎県延岡市

  ▽8日「仰げば尊し」野崎正昭=鹿児島市

  ▽16日「境界の線」北窓和代=熊本県阿蘇市

 

月間賞に永井さん(宮崎)

佳作は露木さん(宮崎)、

野崎さん(鹿児島)、

北窓さん(熊本)

 

 「朝は山姥」は、白髪を染めることをやめた時の心境が、劇的に描かれています。まず外部からの反応を、白髪に対するものとは触れずに書き、次に白髪染めをやめ自然体に生きることの気楽さで種明し。最後に、しかししかし、寝起きの姿は孫も驚く山姥状態。能楽に序破急という三段構成がありますが、図らずも見事な三段構成の文章です。ご自分の心境に距離を置いたために、文章が成功しました。

 「さとうさんは何処」は、心温まる話題ですが、同時に不思議な話でもあります。五ヶ瀬川の堤防で、祭りの準備に係り数人で菜の花の手入れをしていたら、見知らぬ女性が2日間も手伝ってくれた。その時の写真が届いたので送ってやりたいが、どこの誰やら分からない。「風の又三郎」を連想した、という内容です。意識的なものか、あるいは無意識的なものか、読む者を想像の世界へ誘うところのある文章です。

 「仰げば尊し」は、長年教職に就いていて「仰げば尊しわが師の恩」を聞いてきたが、違和感を感じていた。先日大成した教え子の恩師と言われ、恥ずかしく、恩は撮ってくれと言った。晩年(失礼)にこういう思いに取り付かれるのはつらいですね。しかし、のほほんと生きるよりは、充実した生ではないでしょうか。

 「境界の線」は、人と自然との関係についての意見が述べられています。熊本地震のときのがけ崩れもひどかったが、それよりも人為的な自然破壊がひどいのではないか。考えると地震によるがけ崩れも、その一因は人の自然への対処の仕方にあったのではないか。自然の持つ再生力は果たして無限か。人と自然の調和の限界を人は超えてはいないか。このような問題はアポリア(同時に二つの合理的答えがあること)ですね。

 鹿児島大学名誉教授  石田忠彦

 


旅の中で

2019-06-19 19:27:45 | はがき随筆

 いつもとは違う朝の気配の中、ふと目が覚めた。そうか……ここは北海道。

 ほとんで遠出をしない私を見かねて、息子が連れて来てくれた。遠いから行くことは無理だろうと思っていた北の大地の歴史や自然の探索、食事など満喫させてもらったことに感謝しつつ亡き母のことを思った。

 「家にいるのが一番好き」と日ごろ言っていたため無理に連れ出すことをしなかった。私自身の性格も要因だったのかもしれないが、今更ながら母の気持ちは本当はどうだったのだろうか……という思いが、じわじわと湧いて来た。

 宮崎県門川町 黒木和子(66) 2019/6/19 毎日新聞鹿児島版掲載


大賞授賞式

2019-06-17 10:33:44 | はがき随筆

 はがき随筆大賞の授賞式に初めて出席した。壇上に13名の年間賞受賞者が並び、次々と各賞受賞者の名が呼ばれた。最後に大賞が発表される。「鹿児島の……」とアナウンスされ、応援席の私たち6名は小躍りした。受賞した久野さんは一瞬ぼうぜんとされ、やっと腕を上げて合図された。全員舞台に上がった。私は「祝・はがき随筆大賞」と書かれた大きなトランプがパタパタする手品をした。久野さんの大賞を信じて前日に準備したかいがあり、感激の一日となった。

 鹿児島市 田中健一郎(81) 2019/6/17 毎日新聞鹿児島版掲載


バースデー

2019-06-15 14:16:04 | はがき随筆

 ♪ハッピーバースデートゥミー。ハッピーバースデートゥミー。ハッピーバースデーディアねえちゃん。ハッピーバースデートゥミー。

 5月、体調は〝快晴〟ではないけれどやっとこ87歳。遠くに暮らす弟妹も年を重ねたけれど6人弟妹の長女の私はいくつになってもねえちゃんです。

 戦争中、母と力を合わせて生きてきた日々は、ねえちゃんより母ちゃん代理でした。

 年を追うごとに弟妹の助けを受けるねえちゃんだけど、おっとりぼんやりでまだやり残したとが山積みです。神様もうちょっとだけ時間をください。

 熊本市東区 黒田あや子(87) 2019/6/15 毎日新聞鹿児島版掲載


ゴメンナサイ

2019-06-15 14:07:32 | はがき随筆

 令和元年5月、姶良市加音ホールの加治木高校吹奏楽部定演。行進曲「春」に始まり、アンコール「桜島」まで、夢の時間。顧問指導力はもとより、生徒たちの才能と若さと努力に、ただ驚くのみである。

 何故か、素晴らしいメロディーは追憶の世界へと誘う。時は昭和20年夏。米軍空襲による母校焼失に遭遇(旧姓加中1年)し命からがらの帰宅。と、思いはスイカ泥夜警へ――。青年団と共にパトロール中、ちょいと失敬した一玉の甘いしたたり。13歳少年の胸はスリルと背徳の念に少々揺れた。夜の星は無言。86歳の今、ゴメンナサイ。

 鹿児島県姶良市 宇都晃一(86) 2019/6/14 毎日新聞鹿児島版掲載


アマリリス赤く

2019-06-15 12:21:27 | はがき随筆

 

  

  鉢植え、直植えのアマリリスが赤く咲いている。あまりの堂々たる咲きっぷりに、生涯学習でかじった俳句でもひねってみようかという気になった。まずはお手本をと、ネットで検索。

 「向きむきの何れ正面アマリリス」稲畑汀子

 「アマリリス四方に向くも素っ気なし」石田嘉江

 私と同じ思いを持った俳人のいることをうれしく思った。

 アマリリスは2輪で咲いていれば違いに背を向けているし、4~5輪咲いていれば、それぞれ思い思いの方を向いている。おこがましくも一句。「脇見せず振り向きもせずアマリリス」

 鹿児島県西之表市 武田静瞭(82) 2019/6/13 毎日新聞鹿児島版掲載


着信にドキッ

2019-06-15 12:11:59 | はがき随筆

 入所の義母や実家の母からの着信音に「何か?」とドキッとする。

 膝を骨折し2ヶ月入院した義母は、認知症がひどくなり退院後施設に入所した。幻覚が特徴の認知症で、義母は夕方になるとソワソワしだす。「男の人が襲ってくる」と言い施設の職員では対応しきれず、落ち着くまで夫が付き添う事になった。

 同時に実家の母は物忘れが多くなり、電話してもすぐ「声が聞きたかった」と同じ話をして心配が募る。

 先の自分を考えてしまう。こうして書く事が脳トレと思い、できる限り続けたい。

 宮崎県串間市 林和江(62) 2019/6/13 毎日新聞鹿児島版掲載


目覚まし

2019-06-15 11:28:49 | はがき随筆

 ドスッ。腹に重みを感じて目を開ける。目が開いたのを確認すると、腹から飛び降り部屋から出て行く。時計は6時半を指している。

 「まだ早いよ」と再び目を閉じる。するとペタペタと足音が近づいてきて、私の頭にパンチ。しばらく知らんぷりを決め込んでみるが肉球パンチは続く。

 「分かった。分かった」。体を起こすと、満足そうに私を見て一声「ワン」。「おはよう」と頭をなでると、早く行くぞと言わんばかりに部屋から出て行く。ベッドから立ち上がったところで、やっと目覚まし時計の電子音が響いた。

 熊本市南区 井之上亜友美(26) 2019/6/13 毎日新聞鹿児島版掲載


柴犬ゲンちゃん

2019-06-15 11:21:41 | はがき随筆

 「おはよ」「やめ」「またね」。朝昼晩決まって声を掛ける私を、がんぜないつぶらな瞳の彼(彼女)が見つめる。形のよい三角形の耳と顔の真ん中の真っ黒いだんご鼻。胸のあたりには柔らかそうな毛がふわふわと生え「お座り」の正しきポーズ。そう、昨年のカレンダーから切り取った柴犬のゲンちゃん、子犬である。大のおとながトイレに貼ったワンちゃんの写真に話しかけるのかって、自分でもびっくり! これって高齢のご婦人がイケメン歌手の氷川きよしさんにする行為といっしょかも……。幼児返りする70歳である。

 鹿児島県霧島市 久野茂樹(69) 2019/6/13 毎日新聞鹿児島版掲載


思い出

2019-06-15 11:11:53 | はがき随筆

 川沿いの道を歩く。今時、野バラ、アザミ、クローバーなどの可憐な花たちが心を和ませてくれる。ある日雑木の中に「サルカケの葉」を見つけた。淡い思い出に顔がゆるんだ。

 遠い昔、幼稚園児の頃の息子が、興奮気味に「お母さん! 団子の葉っぱ見つけたよ」とカバン一杯に詰めたサルカケの葉を満面の笑みで見せた。

 前日、隣人たちと一緒に柏団子を作ったそれを覚えていたのだろう。後、また作ったかどうかは定かではないが、その時の息子の顔と声が忘れられない。

 葉を摘み、やさしくなでた。

 宮崎県西都市 河野満子(68) 2019/6/13 毎日新聞鹿児島版掲載


元気な歌声

2019-06-15 11:06:38 | はがき随筆

 介護施設に勤めて5年目になる。毎朝元気よく歌っている認知症の方がいる。歌が聞こえてくると一日が始まったと実感する。

 ある朝。いつもの歌声が聞こえてこない。様子を見に行くと、あまり体調が良くないようだ。

「体調悪いですか?」と声をかけるが反応がない。熱もあるようだ。病院へ連れて行くと肺炎と診断されて、入院となった。

 1週間後、出勤すると大きく元気な歌声が聞こえてきた。退院されたのだ。よかった。この方の歌声に元気づけられている自分がいる。

 熊本市南区 佐藤広和(22) 2019/6/13 毎日新聞鹿児島版掲載


五輪チケット

2019-06-15 10:54:44 | はがき随筆

 締め切りが迫ってきた。混み合って時間がかかるのは覚悟でパソコンに向かう。

 価格表を見て驚いた。どの競技もメダルがかかる試合はとても高い。開会式のA席なんて言うに及ばず。夢に描いた熱い臨場感がどんどん遠のいていく。

 抽選の確率は高いと予想されている。ダメ元でと5種目も申し込んだ。合計金額に目がくらむ。ふと、年金暮らしの我が身が頭をよぎった。安い席でも我慢せねば。全部外れたら沿道でマラソンを応援して五輪の空気だけでも吸おうか。

 申し込み完了! あゝ、どうか全部は当たりませんように。

 宮崎県延岡市 楠田美穂子(62) 2019/6/13 毎日新聞鹿児島版掲載


そら豆のクッション

2019-06-12 15:02:13 | はがき随筆

 令和になり心新たにスタートしたつもりなのに行きつもどりつです。あまりにも暗いニュースに心身ともにつぶれそうです。早く心の整理をしてシャキッとと自分に言い聞かせていますが、思うようになりません。

 日曜クラブの新・心のサプリ、海原純子先生のそら豆のクッションを読み返しているうちに大事なことを忘れている自分に気づきました。先生は、自然が育てたエネルギーを感じて感謝して食べると更においしく感じられ、さまざまな気づきを運んでくれる、と結んでいます。心が豆のようにみずみずしくなりました。明日から再出発です。

 熊本県八代市 相場和子(92) 2019/6/12 毎日新聞鹿児島版掲載


ノートルダム大聖堂

2019-06-11 19:18:30 | はがき随筆

 ラジオの深夜放送を聴いていて、ノートルダム大聖堂が火災に見舞われたとのニュースに耳を疑った。翌朝の新聞はトップニュースで報じた。尖塔などが焼け崩れる映像ゃ近隣の人々の驚嘆の表情を見て、悲哀な心境に。約850年の歴史を刻むヨーロッパゴシック建築はユネスコの世界文化遺産に登録された。革命や世界大戦の歴史をつなぎ、シンボルとして市民や観光客に愛されている。大聖堂は美的鑑賞に耐えうる宝の装飾建造物で、文化の融合の再建に期待したい。娘むこは出張の際に大聖堂を訪問したという。何にも代え難い感謝。

 鹿児島県姶良市 堀美代子(74) 2019/6/11 毎日新聞鹿児島版掲載


白いハンバーガー

2019-06-09 17:06:31 | はがき随筆

 上下のパンに挟まれてレタスとトマトとチーズ、ハンバーグもかなりのボリュームだ。

 大口を開けてもこの厚みには敵わない。上から順に食べる事も考えたが、やまりすべて一緒にほおばりたい。

 中身がずれないよう慎重に両手で持ち、指に力を入れて入念に押し潰した。「今だ」。パンが弾力で戻らないうちにかぶりつく。「あれ?」。柔らかいが食いちぎれない。なぜか目をつむっていたので急いで目を開けてみると視界は真っ白。

 「えーっ」。私はベッドに居て、すっぽりかぶった掛け布団の中ほどにかみついていた。

 宮崎県日南市 小野小百合(61) 2019/6/9 毎日新聞鹿児島版掲載