<作> 青木 豪
<演出> いのうえひでのり
<出演> 堤真一 麻生久美子 田中哲司
時は近い未来
自然農法の畑作を行う
小杉保の母・小杉朝子が
腎臓ガンで亡くなった
ほどなくして
保のもとに
怪しげな保険外交員の刈谷がやってきた
お母様は生前
自身のクローンをお作りになりました
クローンの移植手術は行われましたが
合併症により移植のかいなく
お亡くなりになりました
母・朝子は
クローン保険に入っていたと言う
残されたクローン
処分なさいますか?
それとも
解放されますか?
え どうゆうこと?
保険で作られたクローンは
本人が亡くなると
殺されるか
普通の生活を営むか
選択をしなければならなかった
母親の遺した保険が
保を
奇妙な運命へと導いていく
近い未来
何かに汚染された世界では
衣食住にも
大きな変動が…
殆どの食物は
工場での遺伝子組み換えによる生産に移行し
人ですら
クローン技術の進歩により
病んだら
己のクローンから
臓器を移植し
生きながらえると言う
そんな世界の中で
堤真一演ずる小杉保
麻生久美子演ずる母・朝子と母のクローン・夕子
田中哲司演ずる刈谷三人が
生命の根源について
問いかける
何故自分は
生まれてきたのか
自分は
何を託されたのか
オリジナルでありながら
愛されなかった者
クローンでありながら
愛し
愛された者
DNAに刻まれた記憶と
脳裏に刻まれた記憶が
時空を超え
時にエロく
時に切なく
時に非常に交差する
タイトル「断色」とは
色恋を絶つではなく
保が
生まれながらの色盲
という設定からきています
ですが
この設定が
ストーリー全体のキーワード!
なるほど~
なのです
放送禁止用語を
無表示用に連発する
母・朝子のクローン・夕子役の
麻生久美子さんには驚きましたが
刈谷役の
田中哲司さんが
自らトランクスの中に
夕子の手を…
青山円形劇場ですよ!?
客席とステージ
1メートルもないんですけど…
目のやり場に困る
と感じつつ…
その実
エロティックな雰囲気と言うより
全体を通して
ピンと張りつめた
空気感が
常に漂っている感じなのです
笑えるシーン
切ないシーン
喜怒哀楽が程よく混在しつつも
何か不安な
不安定な空気感がありました
特に後半
保の故郷である
‘北’へ向かった三人の
時空が
歪みはじめるあたりからは
圧巻です
感情を持たなかった夕子が
保をひとりの男として愛想としながら
同時に
保の母・朝子としての愛情で
保を守ろうとする
不思議さ
クローンは劣化する
平然と口にする保を
見つめる夕子の心中は
如何ばかり…
複雑な心の機微を
麻生久美子さんは
見事に表現しておられました
最後のオリジナルとして
生きているにも関わらず
両親から愛されなかった刈谷の
孤独さ
オリジナルであるが故の
傲慢さとは裏腹に
必要とされなかった己の心情と
そんな世界に対する
憎しみと申しましょうか
排他的思念を
オーラを
振りまいていた
田中哲司さんに
汚染された…
そして保です!
有機農法に拘る保には
無意識に
‘オリジナル’に対する執着がありました
にも関わらずに
母のクローン処分に躊躇すると言う
反オリジナルに対する思いもある
徐々に不安定になっていく保
観客は
次第に保の描く夢か現か
よくわからない世界に引きずり込まれ
記憶に残る過去と
欠落した過去の存在によって引き起こされた
何度も繰り返される
フラッシュバックの果てに
突きつけられた事実!
保の正体を知った観客は
只々言葉を失うのであります
そして
その保を演じた
堤真一の
役者としての力量に
鳥肌がたつのであります
この世界には
男がいて女がいるのか
雄蕊と雌蕊があるのか
雄と雌があるのか
何故
遺伝構成の異なる性差が存在するのか
性差の持つ意味
性差が存在する意義
その機能が
失われた世界に
その未来に
未来はあるのか
この舞台の世界は
絵空事ではなく
実は
オリジナルとして
リアルに生きている
我々に対する
問題提起でもあるのでした
いやぁ~
ヨカッタデス
行って…