韓国雑記帳~韓国草の根塾&日韓環境情報センター&ジャパンフィルムプロジェクトブログ

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スンチョン湾保全運動の歩み~その3

2013-04-25 00:39:24 | 環境問題&有機農業

 先週の週末からスンチョン市で始まった「庭園博覧会」は、なかなか好調なスタートを切ったようです。先週の土日だけで8万人以上が訪れ、予想以上の入場者数だったそうです。ただ、休憩施設などが少ない、ベビーカーや車椅子用のスロープが一部の施設で整備されていないなどの問題点があるとニュースで指摘しておりましたね。でも、一番の問題は、スンチョン湾までの新しい交通手段として鳴り物入りで宣伝していた無人小型モノレール(と勝手に命名しました)の完成が間に合わなかったことなんですが、マスコミではほとんど報道しませんね。こんどスンチョンに行ったら、この点を調べて見ます。

 さて、スンチョン湾の保全運動ですが、98年の9月に河口での砂利の浚渫計画が中止になり芦原は守られましたが、河川の直線化という問題が残ってしまいました。河川の直線化は、国家予算がつく、川の浚渫で砂利が手に入る、元の川の河川敷を農地に使えるなど、地方自治体にとっては<おいしい>土木工事ですし、雨期の洪水や堤防の決壊などにおびえる流域の住民にとっては宿願とも言える工事といえます。スンチョンでも例外ではなく、河川の直線化という問題は市民運動と流域住民の間に厳しい葛藤と対立を呼び起こしてしまいます。

そのうえ、国立公園管理公団がスンチョン湾の国立公園化を検討し、また環境部はラムサール湿地登録を検討するなどのスンチョン湾の保護区域化の報道が流れたため、保護区域の対象になりそうな地域の住民から財産権(土地や建物)の制約を受けるのはいやだという反発が巻き起こりました。そのため、葦原に火をつけるなどの妨害行動が何度か発生し、スンチョン湾の保護のための方法を合意するまでに、まだまだ時間がかかりました。

 市民団体はスンチョン湾の制度的・法的な保全プランを確立するためには地域の住民たちとの協力が不可欠であると判断し、また行政の側も住民や市民団体との合意が必要だということを認識し始めました。1999年5月、市民団体は一歩譲歩して河川直線化工事を認め、スンチョン市は規模を縮小し生態系の保全と連携する形で工事をすることにしました。そして、その次の年から、スンチョン市と住民、市民団体が参加する対話の窓口として「スンチョン湾協議会」を組織するための模索を始めました。

 2000年代になると、スンチョン湾は生態学習の名所として定着します。広大な葦原の景観、ナベヅルなど冬の渡り鳥を観察しに来る人々が切れることなく続きました。2000年2月には「ツル保護国際シンポジウム」がスンチョン市役所の会議室で開催され、住民・市民段代・市関係者が合同で日本の鹿児島の出水や香港のマイポ湿地を訪問し、海外の先進事例の視察も行いました。このようにしてスンチョン湾は保護しなければならないという認識が、地域の共同体全体で持たれるようになりました。

 スンチョン市はスンチョン湾に自然生態公園を作るというプランを提案しますが、市民団体との葛藤は続きました。官民共同の調査を行ったりして河川整備工事をできるだけ最小限にし、また自然生態公園も観光目的に偏りすぎていると批判をしました。また、スンチョン湾一帯でえびの養殖場、シルバータウン、海水サウナ施設などの建造物の建設計画に対し、スンチョン市の態度があいまいだと批判をしました。とくに、ハクサン里という地域で進められた太陽熱発電施設については、雇用効果がなく、地域産業との連関も弱く、将来のスンチョン湾の効率的な利用に障害になるとして市の誘致計画を批判しました。その結果、最低限の太陽光発電の施設だけが建設されました。

 2003年の春、スンチョン湾に接するトンチョンという川の堤防に野菊を植えるイベントが行われます。市民団体が主催し、一部の地域住民も参加し、市関係者も同席しました。そして、4月に住民、市民団体、スンチョン市が参加してスンチョン湾の関連事項を討論する場として「スンチョン湾協議会」が、ようやく始まります。スンチョン湾にむけられて視線が、開発と対立から保全の話し合いへと完全に転換したわけです。その年の秋、湿地保全地域指定のための住民公聴会が終わり、12月にスンチョン湾一帯が湿地保全地域に指定されました。翌年の2004年11月にスンチョン湾生態公園がオープンし、その年の第7回スンチョン湾葦原フェスティバルはスンチョン市が主催し、地域住民と市民団体が共同で主管し、プログラムを分けて行いました。このようにして、スンチョン湾を保全する主体である地域住民、市民団体、行政が、おたがいに行こうとする方向は少しずつ違いますが、ついに同じ船に乗りました。(続く)

スンチョン湾で作っている無農薬のお米。もちろん、渡り鳥のえさにもなっています。