「キース・ジャレット SOLO2014 Special Night」
無事に終了いたしました。
開演の本当に直前、全員が席に付いてから、主催者からのアナウンス。
前回同様、キースの音楽には集中力を必要とするので、静寂を作るご協力を、といった旨に加え、今日は初めて
「キースが椅子から立ち上がるまで、音楽は続いています。」
の一文が加わっておりました(よっさ!)、そして、
「どうぞ、最後まで余韻をお楽しみください」
と締めくくられました。
それもあって、客席の集中(・・・協力)力も、5月6日同様、僕がこれまで見たソロコンサートの中では、一番素晴らしいと感じました。
ですが、・・・キースが椅子から立ち上がるまで、拍手を待てたのは、全12曲で、一曲もありませんでした。
(曲の最後を、キースが立ったまま弾き終えた1曲は除きます。あれ、超絶、素晴らしかったなあ・・・)
キース自身も、こういうアナウンスをしていることを知っていると思います。
というか、いよいよキースから、「一言頼むよ」と言った可能性もあります。
元々、「日本のファンは世界一美しい」と言ってくれていたキース。
キースのキャリアの中でも、最大のLP10枚組(CDでは6枚組)という、音楽界でも前代未聞だった1976年のライブアルバム「サンベア・コンサート」(←素晴らしいです。ソロを聴きたいけど、どれを聴こうか・・・と悩んでおられるなら、もう思い切ってこれをお勧めします。全部、素晴らしいです。)も、全て日本で録音されたものでした。
そんな彼が、日本でも「静かにしてほしい」と頼むようになったのは近年の事。
「あの、世界一辛抱強く、世界一美しかった日本人はどこへ行ったの?」とまで、言われてしまいました。
そんなこともありまして、
いえ、今を生きる僕たちだってできますよ、と、”静かにしていることができることを”(←すごく難しいことのようになってしまっておりますが・・・)見せたい気持ちがあります。
キースもそれを望んでいる。
(たとえば、先日ちょっと問題になってしまった大阪フェスティバル・ホールですが、キースは、大阪でのソロ公演は、70年代の初来日から、これまで全てフェスティバルホールで行っているくらい、大好きなホールなのです。先日のことは、だからこそだった、というような受け取りかたもできるかな、と思ったりもしております。)
なら、がんばろうではないですか。
今日は800人。
できる!
・・・と思いきや。
実は、フライングブラボーの件は、実際には、及第点ではあったと思います。
2曲ほどを除いて(この2曲のバラードがとてつもなく素晴らしかったのが残念)、あとは、キースの音が消えるまでは、じっと待てました。
ただ、音が切れて、「さあ、ここからが余韻だ。しっかり楽しもう。」と息を詰めたタイミングで、一人が(こういうのは同じ人)、待ってましたとばかりに、ぱちぱちぱち(待ててないー(笑))。
つられて、ぱちぱち、ぱちぱちぱち。あとは雪崩のよう。
僕の隣の女性が、第一部終了後に、
「・・・もったいないなあ。あと3秒、いや、1秒でもいいから、待って欲しかったなあ・・・。」と、それでも、感動の涙を拭いながら、ご家族に話しているのが聞こえました。
これには、795人くらいは、完全に同意なのではないでしょうか。
そのくらい、今夜のほとんどのファンは、観客は、素晴らしかったです。
なんと、キースのライブで、僕は初めて、ペダルがゆっくり戻り、ダンパーが、やんわりと弦の振動を止めていく音を聴くことができました。二回も。
これには、感激しました。素晴らしかったです。
と同時に、
「・・・この音、今まで一度も聴けてなかったというのは・・・。もったいないなあ。」とも思いました。
こんな音の微妙な変化まで聴いて、そしてその余韻を味わって、それから、ゆっくり拍手すればいいのになあ。
「キースが立ち上がるまで、音楽は続いています」って、ちゃんと言ったのになあ。
ラーメン食べて、丼のスープをグッと飲み干して
「いやあ、最高だった!さて、冷たい水で、一息」と思っているときに、まだ手にある器を、「それ、下げていいですか?」と、下げに来られるようなものです。
これって、無粋ですよね。
まあ、ラーメンスープを全部飲むのは、このト〇になりますと身体には毒ですが、ピアノの余韻なら、無毒です(笑)。むしろ、精神衛生上、素晴らしい薬になります。
あとね、もうこれはやや愚痴に近いんですけど(すみません)、・・・忘れないように、書いておきます。
僕の三人ほど斜め前の人(男性、60歳くらいかな)が、第二部で、こともあろうか、公演パンフレットを、自分の足の裏(膝の裏、というほうがわかりやすいでしょうか)に立てかけていたんですよ。
演奏が始まってから気づいて、
「こわっ。あれ、倒れないのかな?なんであんな・・・」
しかし、もしかしたら、その置き方が、その方にとって最善策と思ってのことなのかもしれないし、と気にしないようにしていたのです。
ちなみに、先日、僕もパンフレットを買いましたが、最初から、椅子の下に置いたバッグの下に寝かせておきました。
そして、第二部の三曲目、素晴らしいバラードの演奏になりました。
僕は、
・・・久しぶりにだったのですが、涙が止まらなくなりました。
あまりに、美しい曲でした。
その旋律の動きと、コードの色彩の動きに、
どうしてか、色々なことを思い出されてしまい、なんだか、感極まってしまったのです。
静寂に包まれいる会場。ピアノの音が、まるで隣で弾いてくれているように、近く、聞こえます。
なんと、気持ちよい・・・。
思わず、目を閉じて、聴き入っておりました。
・・・バタン!
「何事!?」
と思って、思わず目を開けましたら、先ほどのパンフレットが、床に、
倒れておりました。
その男性の方、どうやら寝てしまったようで、足が緩んだのでしょうね。
曲が終わると、拾って、膝の上に置いておりました。
・・・最初から、そこがよかったのでは・・・。
キースにも、勿論聞こえていたはずですが、演奏は続けられました。
でもね。
その後、わりとすぐにその曲は、しぼむように終わってしまったのです。
そして、本来なら40分~50分くらいはあるはずの第二部、その時、三曲目ですから、まだ25分~30分くらいだったと思うのですが、
もう一曲弾こうと、ピアノに向かったキース、5~6秒ほど、じっと頭を下げた格好で沈黙して、
思い直したように立ち上がって、
「Thank You」
と、弾かずに、袖に引っ込んでしまったんです。
やはり、何かが途切れたのでしょうね。
今日も、調子は良かったように思います。
手さぐりで始めたと思われる1曲目が、最終的に素晴らしいモチーフを見つけて、
とてもよい感じで終わったあたりから、なんだかやけにご機嫌だったのが、近い分、よくわかりました。
ただ、あそこでは、気持ちに仕切り直しが必要だったのだと思います。
(そんな神経質なー、などと思われるかもしれませんが、キースのコンサートは、そういうものです。また、今回は、大阪でのことがあって、どうしても、そのことにより神経質になっていた可能性は高いです。)
でもね、その分、すぐにアンコールにこたえてくれて、アンコールはどれも、実に素晴らしかったです。
まあ、ブルースのかっこいい事(ブルースは第一部の最後にもやってくれたので、計3曲、どれも変型ブルースでしたが)。
ソロコンサートでは、アンコールにはリラックスしたスタンダードを演奏することもよくあるキースですが、
今回の公演では、6日に、アンコール1曲目で、ガーシュウィンの「Summertime」を演奏してくれたのを除き、全てインプロヴィゼーション(鯉沼ミュージックのHPに曲目が出ています。)。
なんとなく・・・そういった意味では「オッケー!あとはスタンダードでもやって、皆でリラックスしようじゃないか」という風にはならないようでした。
なんだか、まだ不完全燃焼だったようにも、見えました。
「もっと素晴らしい演奏が、もっと沢山できたはず。」
そう思っているのではないかな、と。
6日や、今日のように、観客席が静かですと、本当に僅かな物音や一つの咳が、逆に、すごい破壊力を持つんですね。
やたらと、目立ってしまうんです。
これは、これまで数年のソロコンサートや、30日の初日では、僕も思わなかったことでした。
これは難しい問題だなー、というのが正直なところです。
人間が何百人、時には、二千人以上集まって、物音を立てず、人に聞こえるような咳も無し、フライングブラボーも無し、か・・・。
でも、できたら、凄いでしょうね。
でも、・・・変な話ですが、僕は、この三回の公演で、咳を一度もしませんでしたし、物音を立てた覚えも、早い拍手もしていません。
ほとんどの方はそうだったでしょう。
なら、それを全員がやれば、できることなんですよね。
ただ、難しいとは思います。
(観客の高齢化、会場の乾燥、緊張、また、それだけの人がいて、一人も風邪をひいていないというのも、現実的には・・・ですよね。)
でも、できたら、凄いでしょうね。
有名なケルンコンサートで、僕が一番好きな「Part 2b」。
このエンディング、ピアノの音が消えてからの、最初の一人の拍手までの間・・・。
実はこれだって、よく聴けば、ほとんど空白はないんですよね。
でも、この最後のピアノの音が消えるのを、観客全員が、固唾を飲んで待っている、・・・ゾクゾク感。
たまりません。
(忙しくて全部はお聴きになれないという方は、こちらからどうぞ。終わりのところだけでも。)
さて。
次はいつ来てくれるでしょうか。
楽しみに、待ちたいと思います。
本当に沢山のことを考えさせてもらい、また、素晴らしい音楽を沢山聴かせてもらえました。
キースは、やっぱり最高です。
ではー。