怪しい中年だったテニスクラブ

いつも半分酔っ払っていながらテニスをするという不健康なテニスクラブの活動日誌

池井戸潤「半沢直樹 アルルカンと道化師」

2022-10-14 08:04:13 | 
ご存じ、東京中央銀行勤務の半沢直樹が活躍するシリーズ最新刊(と言っても2020年9月初版ですけど)
今回は少し過去にさかのぼって、半沢が大阪西支店の融資課長時代の話。

ところで「アルルカンと道化師」という題ですけど、美術に疎い私には何のことか分かりませんでした。
アルルカンとはピエロとともに伝統的なイタリア喜劇に登場する人気キャラクターで、ずるがしこいアルルカンと純粋なピエロとの対比が画家たちから好んで取り上げられるテーマだとか。
コンテンポラリー・アートの画壇の話が謎解きの鍵になるというのですが、知識がない私にはこんなもんなのか、さもありなんと言うことばかり。仕事一筋の半沢直樹にもあまり知識があると思えませんけどそこそこ話が理解できる程度の知識は一般教養なのでしょうか。
小説だけではなくテレビドラマも人気で、半沢直樹は堺雅人、妻の花は上戸彩、社内情報通で半沢を陰で支える渡真利は及川光博と俳優の顔が自然に浮かんできます。ここでは息子も出てくるのですがテレビドラマで出てきたことあったかな。
因みに今なにかと話題の香川照之が演じる敵役大和田常務はここでは出てきません。中野渡は将来頭取候補の国内担当役員で、まだ頭取ではない。
今回の敵役は業務統括部長の宝田に大阪西支店長の浅野。
舞台は赤字続きの老舗美術出版社の仙波工藝社。そこへの融資話とМ&Aを仕掛けるネット関連新進企業の「ジャッカル」
最初は本店の上の方ばかり見て支店長などは腰かけと思っている浅野が、地元の有力者たちの会合をすっぽかして、銀行取引を切る逆選別という手痛いしっぺ返しを食らう話なのですが、融資課長の半沢に責任を押し付けようとする。ここで例によって半沢が逆襲。支店長の代わりに会合に出席して地元企業の会長と懇意にしていたことから手に入れた情報で倍返し。査問委員会の委員長を務めた宝田部長のとりなしによって子分格の浅野は何とか地位を保ったのだが、浅野は半沢にはぐうの音も出ないようになってしまう。
そこからがМ&Aの話が本番になってくるのですが、仙波工藝社は老舗と言っても売り上げ50億円程度の美術系出版社で本業の出版は赤字、イベント企画などの企画部門でかろうじて赤字を穴埋めしているのが現状。そこをどうして畑違いのジャッカルがМ&Aを仕掛けるのか。ここにジャッカル社長の田沼のコンテンポラリー・アーツに対する趣味と言うか思惑があるのだが、その真相が分かるのは半沢の奔走と謎解きが必要です。これ以上書くと小説の謎解きの面白さを損なうので、あとは読んでみてください。どうもミステリー的要素があるものはレヴューしにくい。
半沢直樹シリーズがこれだけテレビドラマが評判になっていると作者の池井戸さんもドラマ的に盛り上がることを意識せざるをえなくなるのでは。映像的に盛り上がるように関係者が一堂に会する会議が設定されて、絶体絶命の窮地に追い込まれたようにみえて、そこでとっておきの情報なりが飛び出して倍返しの大逆転。読んでいて胸がすくという展開は読みだしたら途中でやめられなくなるという副作用を伴っています。実際、私は最近11時前には床についているのですけど、この本を読んでいて途中でやめられなくなってしまい読了したのが12時過ぎに。横になっても興奮が残り、おかげで寝不足で朝いつも図る血圧が高くなってしまいました。
まあ、一同会した会議の場で根回しもなくいきなり逆転できる重要情報を暴露してしまうのは如何なものか。たとえ倍返ししたとしても敵役はますます恨みを募らせてしまうでしょうし、上司の顔をつぶすことにもなる。まずは根回しで上手く行くように裏からコントロールしたい。組織の端くれにいた身の経験としてはそういう表舞台の場で発言の機会があるかどうかも怪しいし、発言の機会があってちゃんと受け入れられかどうかはギャンブルです。私なら発言するというだけで頭に血が上って何を話したらいいか分からなくなるのですが、だからこそ冷静に逆転・倍返しする半沢がもてはやされるのでしょう。
敵役にしても半沢的には評価できることは何もない自己中心で自分の業績アップと出世しか考えていない輩になっていますが、組織で一方の親分となる人は、それなりの人間的な魅力はあるし打算だけではなく、この人ならと子分が慕って寄って来る何かがある。まあ、私的に何ともならない何でこの人が出世するのかという人は少数はいるにはいたけど、それなりのポストに就いた長は私とは相性が悪い人は多々あってもやっぱり評価すべきそれなりの理由があったと今でも思っています。敵役に評価すべき点があるとなるとドラマにはならないのですけどね。保身と阿諛追従でそれなりの地位に立つ人もいたけど、その阿諛追従は芸術的で私にはとても出来そうもなく、阿諛追従もそこまで行くと才能と思わせるものでした。
そんなこんなで、この本を読む時は一気に読めるように時間的に余裕を持って読みだしてください。
コメント
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