怪しい中年だったテニスクラブ

いつも半分酔っ払っていながらテニスをするという不健康なテニスクラブの活動日誌

今野敏「任侠シネマ」

2023-04-26 07:16:05 | 
前回「任侠楽団」をレヴューしましたが、その時にこの今野敏の任侠シリーズのうち第5弾の「任侠シネマ」を読んでいないと書きました。
早速図書館で予約して取り寄せ読んでみました。

相変わらず一気に読めて楽しめました。
今回の任侠シネマは廃館の危機にある映画館の話。いつも通り兄弟分の永神組長から持ち込まれた話に組長の阿岐本が一肌脱ごうと言うものです。実際に動いて苦労するのは代貸しの日村なのですが、それぞれ訳アリの個性的な組員(と言っても4人しかいないのですが)も活躍し、ここに敵役としてしゃくし定規に暴力団を撲滅しようと新任の組織犯罪対策係長仙川が動き回り、間に入って部下の甘糟が苦労します。
斜陽の映画界ですが、映画館は数を減らしつつシネコンに集約されている反面、名画やマイナーな映画を上映するミニシアターはそれなりに生き残っています。今回の舞台の千住シネマも経営的には赤字と言えども不動産業を営む会社としては黒字で映画館を廃館にする積極的理由はあまりない。そこには本社ビルを売却して会社を成長させようという内部の意見とその裏にある再開発計画、対する永神組長も阿岐本に黙っていた自身の思惑があって、存続を願うファンの会とともに話が転がっていく。
阿岐本組長は映画好きで、特に高倉健の東映やくざ映画はの大ファン。ここで面白いのは代貸しの日村は映画など見たことがなくて若き頃は映画を見る奴をカツアゲした口。それでも初めて高倉健の映画を見て嵌まってしまいます。
高倉健の東映やくざ映画は、兵役なり懲役なりから帰ってきた高倉健が理不尽に大企業にいじめられ潰されようとするまっとうな小企業で我慢に我慢を重ねた挙句、最後はどすを抱いて殴り込みに行くと言うパターンなのですが、遂に高倉健が決起する時には映画館に「よし!」という掛け声があちこちから上がった。映画館から出る時にはみんな高倉健になり切っていた。
テレビで映画は無料で見ることができるようになり、録画もでき、DVDレンタルもあり、最近ではネット配信されるので、わざわざ時間を作りお金を払って映画館に行くこともないのですが、映画館で見る映画は特別な感じがありワクワク感がある。真っ暗な映画館の中で見えない観客が一体となる時があり映画館はいわば「ハレの場」。暗い館内で誰にも邪魔されず映画の世界に没入できる感覚は家では味わえない。画面の大きさはともかくとして、中々一人だけで没頭して見ることことが出来ず、見ていることお構いなしに電話がかかってくることもあるし宅配便が来たりします。横で家人が台所仕事で音を立てたり、スマホで何やら検索して音をたてたりというのも現実。コマーシャルが入るとトイレを我慢する必要がないのはいいのですけど、やっぱり専念できません。
今日のように雨は降りだし家には一人だけという時には映画に没頭出来て、BSの「お湯を沸かすように熱い愛」を思わず全部見てしまいました。この映画、ストーリーとしては突っ込みどころ満載なんですが、最初観だしたらどういう展開になるのか読めずに結局トイレも我慢して最後のクレジットまで見ていました。主役の宮沢りえは末期がんとしては顔色がよく元気よすぎるのですが、オダギリジョーのダメ男ブリは堂に入っていて、杉咲花は本当に芸達者と感心して、映画に世界に浸ってしまうと多少のちょっとちょっとは吹き飛ばしていきます。
閑話休題。水面下の再開発計画の地上げは蛇の道は蛇の阿岐本組長が乗り込んでの談判で立ち消えとなり、映画館はオーナー社長の映画愛と社員の賛同、ファンの会の後押しもあって存続が決まってめでたしめでたし。お決まりの大団円。
今回も一気読みで楽しませてもらいましたが、謎解き要素の入った任侠楽団よりもいつもの展開で安心して読めました。
コメント
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