「比佐子さんあなたの古い半衿頂戴」
「ウン?」
「御義母さんの体を洗うときに使うの」
「そういっぱいあるから持っていこうか?」
「これから伺うわ」
F子は90歳の姑の看護をもう5年
お元気だったが自宅の玄関の階段を踏み外して
足と手を骨折
その骨折は治ったものの筋肉が弱って
寝たきりになってしまった
美人で話題豊富、闊達な姑さんだったので
わたしたち同級生はよく説教もされたしご馳走にもなった
彼女のお洒落談義はいつも面白かった
一ヶ月に一度は
特級純米酒を一升お風呂にジャーと流し込んで半身浴
毎日の風呂上りは
顔だけでなく体中を裸体のまま百叩き
その後寝化粧をする
ご主人には一生素顔を見せたことがない
こちらの姑さんに限らず昭和のはじめまでに生まれた女性は
「寝化粧」と言うのは当たり前のようだった
それにしてもいつも身奇麗なお姑さんであった
肌はツルツルしみ一つない
それは紅絹の袋に糠を入れて
その紅絹袋で毎日顔や体を磨いていたからだ
お米も農薬をたくさん使うようになって
糠も農薬が強いからと糠袋はおやめになった
しかし
そこで紅絹の代わりに登場したのが絹の半衿
お風呂では顔からだ全部半衿がたわし代わり
「チャコさんはご存知よね絹にはセリシンというたんぱく質が残っているから」
といって黄変した半衿や胴裏を使っていらした
「チャコさん最近の絹は質が悪くなったわね」
「はあ苛性ソーダーでセリシンを取っているから」
「そうでしょうね柔らかさと張りがなくなっているわ」
まだお元気な頃こんな話もしていたが
「チャコさんの半衿ならきっといいものだろうから戴いていらっしゃい」
と言われたんだそうだ
チャコちゃん先生は半衿分限者で捨てられなくて
半衿つづらに500枚くらいは或る
24節気の半衿を揃えて使っていたが
黄変していて現役が勤まらないのも多い
「半衿も喜ぶわ」
と織り方の参考になるものだけ外して全部持っていってもらった
それと愛用のセリシン化粧水を手渡した
「私も欲しい」
「それはお金戴く」
「しっかりしているう」
「あたりまえでしょう?」
暫くしてーー
「チャコさんありがとうさすがいい半衿ねえ」
とお姑さんから電話を頂いた
昔の女性はお洒落の作法を知っていらっしゃると思った
身だしなみを整えることで
自分自身の精神をしゃんとさせていたのだと思う
見習わなければーーー
「ウン?」
「御義母さんの体を洗うときに使うの」
「そういっぱいあるから持っていこうか?」
「これから伺うわ」
F子は90歳の姑の看護をもう5年
お元気だったが自宅の玄関の階段を踏み外して
足と手を骨折
その骨折は治ったものの筋肉が弱って
寝たきりになってしまった
美人で話題豊富、闊達な姑さんだったので
わたしたち同級生はよく説教もされたしご馳走にもなった
彼女のお洒落談義はいつも面白かった
一ヶ月に一度は
特級純米酒を一升お風呂にジャーと流し込んで半身浴
毎日の風呂上りは
顔だけでなく体中を裸体のまま百叩き
その後寝化粧をする
ご主人には一生素顔を見せたことがない
こちらの姑さんに限らず昭和のはじめまでに生まれた女性は
「寝化粧」と言うのは当たり前のようだった
それにしてもいつも身奇麗なお姑さんであった
肌はツルツルしみ一つない
それは紅絹の袋に糠を入れて
その紅絹袋で毎日顔や体を磨いていたからだ
お米も農薬をたくさん使うようになって
糠も農薬が強いからと糠袋はおやめになった
しかし
そこで紅絹の代わりに登場したのが絹の半衿
お風呂では顔からだ全部半衿がたわし代わり
「チャコさんはご存知よね絹にはセリシンというたんぱく質が残っているから」
といって黄変した半衿や胴裏を使っていらした
「チャコさん最近の絹は質が悪くなったわね」
「はあ苛性ソーダーでセリシンを取っているから」
「そうでしょうね柔らかさと張りがなくなっているわ」
まだお元気な頃こんな話もしていたが
「チャコさんの半衿ならきっといいものだろうから戴いていらっしゃい」
と言われたんだそうだ
チャコちゃん先生は半衿分限者で捨てられなくて
半衿つづらに500枚くらいは或る
24節気の半衿を揃えて使っていたが
黄変していて現役が勤まらないのも多い
「半衿も喜ぶわ」
と織り方の参考になるものだけ外して全部持っていってもらった
それと愛用のセリシン化粧水を手渡した
「私も欲しい」
「それはお金戴く」
「しっかりしているう」
「あたりまえでしょう?」
暫くしてーー
「チャコさんありがとうさすがいい半衿ねえ」
とお姑さんから電話を頂いた
昔の女性はお洒落の作法を知っていらっしゃると思った
身だしなみを整えることで
自分自身の精神をしゃんとさせていたのだと思う
見習わなければーーー