あしたはきっといい日

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歌舞伎『平家女護島』

2018-10-10 06:20:09 | 芝居に魅せられる
興味が無かった訳ではないものの、これまで歌舞伎には縁がなかったけれども、先日吉田修一さんの『国宝』を読み、一度観てみたいと思った。そうなるとすぐにというのがいい意味でも悪い意味でも僕の癖なので、直近の演目や空き具合などを検索し始め、国立劇場でこの『平家女護島』という演目が掛かるというのを知った。そして、この演目が「鹿ケ谷の陰謀」に関するものだと知り、迷わず観に行くことを決めた。



さて、出演される役者さんで僕が知っていたのは、平清盛と俊寛を演じられた中村芝翫さんのみだ。そして、その芝翫さんも橋之助さんのイメージが強い。そんな感じで舞台でも彼を中心に観ていた。ところが、二幕目の鬼界ヶ島で海女の千鳥が登場した途端、その姿に目を奪われた。衣装によるところもあったと思うけど、舞台にパッと花が咲いたような印象を受けた。そして、その所作を観ながら『国宝』で描かれた女形の美しさについて考えていた。

千鳥を演じるのは坂東新悟さん。注目の若手女形だそうで、機会があればまたどこかの舞台で拝見したいという消極的な言い方以上に、観たいと思う。

そして、この場面の終盤での情感溢れる俊寛の姿に、思わず涙が溢れてくると共に、その涙に戸惑いを感じていた。それは、伝統芸能は形式美を堪能するものだという固定観念を崩されることへの戸惑いだったのだろうか。

第三幕はその思いを抱えたまま、最後まで観続けた。ただ、観る前にプログラムであらすじを確認してしまったのが悔やまれる。

大河ドラマで平清盛について知った僕には清盛を悪役に描くという善悪の捉え方に抵抗がなくはなかったものの、舞台上の世界に引き込まれていた。そして、ほんの少しではあるけど歌舞伎の魅力に触れられたのかなと思えた。

そう、幕間に食べる幕の内弁当も、終演後に乗った劇場バスもどこか特別な感じがして、それもまた観劇の楽しみに感じられた。





また近いうちに観に行きたいと思う。その際は、傾斜のついた2階席でもいいんじゃないか、いや、そこから一度観てみたいと思った。そんな、大人の楽しみに似合う大人に、まだまだなれていないなあと思いながら、思う。