夏休みに長女が学校から借りてきて、「すごくおもしろかった!」と薦められた作品です。
長女が、感想文書くから、と購入してようやく読み終えました。
(買った本って、どうしても後回しになってしまって)
作者井坂幸太郎氏は、直木賞候補にもあがった有名な方なんですね。知りませんでした
どういう話なのか知らずに読み始め、主人公の弟「春」が、母親がレイプされ身ごもった子どもという設定にまずたじろいでしまいました。
しかし、その重たいテーマとはうらはらに、軽快な語り口でストーリーは展開していきます。
謎の連続放火事件、その現場近くに残されているグラフィティアート。
兄弟と末期ガンで入院している父親をも巻き込んで、謎解きが始まります。
あっ、ミステリなんだ。
そう思うと少し気も楽になって読み続けたのですが、犯人の見当はすぐついてしまい、やはり単なる謎解きのお気楽な小説ではなかったんだ、と気づかされてしまうのです。
そう、この作品は語り手である「泉水」と弟の「春」との兄弟の物語、あるいはすでに亡くなっている美しい母と、病床にいる父をふくむ家族の物語。
なのですが・・・。
正直言って、ストーリーはすごくおもしろかったけど、私には重いテーマを扱った家族の物語にしては現実感に乏しく、どこかおとぎ話のようで釈然としなかったのです。
重い宿命を背負いながらも、めちゃくちゃカッコイイふたりの兄弟と、それ以上に素敵な父親と母親。
本人や家族の苦悩や感情は描かれず、語られる出来事だけでその重さが感じられるのですが、家族が結束するエピソードはあまりに美しすぎて、私には信じられない。
この結末も爽やかで、とても感動的なのかもしれないけれど・・・。
しかし、それも作者の意図したところなのかもしれません。
春が言うように、本当に深刻なことは、陽気に伝えるべきなのかもしれないから。
タイトルにもなった「重力ピエロ」というのは、家族がサーカスを見に行ったときのエピソードからきているようです。
空中ブランコをするピエロが落ちてしまわないか心配する泉水と春に、母は言います。
「あんなに楽しそうなんだから。落ちるわけがないよ。かりに落ちたって、無事に決まってる」
そして父も・・・。
「楽しそうに生きていれば、地球の重力なんてなくなる」
「ふわりふわりと飛ぶピエロに、重力なんて関係ないんだから」
作品に登場する人物は、とても個性的で魅力的でした。
4人の家族だけでなく、かつてのストーカーだった「夏子さん」や探偵の黒澤さん。
特に黒澤さん、不思議な存在感がありましたね。
こういうテーマにも関わらず、とても軽快で洒落た小説でした。