熊本熊的日常

日常生活についての雑記

一期一会

2013年03月02日 | Weblog

パルテノン多摩に柳家さん喬の独演会を聴きに出かける。

なんということのない言葉でも、それを耳にしたときの精神状況によっては、深く心に響くことがあるものだ。「大仏餅」のなかで、大店を構えているらしい河内屋金兵衛が、落ちぶれて乞食になってしまったかつての商売仲間らしき神谷幸右衛門を励ます場面がある。それを聴いていて涙がこぼれそうになった。そのくだりを文章に起こして読んでも、そこに引っ掛かることはないかもしれない。生身の人間が、それなりの工夫の上で感情を込めて語ることで、聴く側の感情と響き合うのだろう。語り手、聴き手、全体を包む雰囲気、その他諸々がそれぞれに作用しあってひとつの世界が出来上がる。一期一会とはこういうことなのではないか。今日の落語会のテーマが「茶」であったが、そんなことを考えた。

もしも、神谷幸右衛門を励ます台詞に何かを感じ、私が何事かを起こしたとしたら、そうした噺や噺の場との出会いが何事かを創造したということにもなる。そしてまかりまちがって、その何事かが世の中を動かすようなことにでもなったら、出会うことが価値を創造したことになる。そんな大袈裟なことではなしに、そもそも価値とは異質のものどうしが出会って足して二になる以上のものを創り上げることで生まれるものだ。日常のなかには意識するとしないとにかかわらず無数の出会いがあるのだが、そこに「何事」を見出そうとしないことには何事も生まれない。無数の一期一会を、たとえ限られた数でもよいから、意識することで何かが生まれるものなのかもしれない。

本日の演目
「錦明竹」 さん坊
「だくだく」 小太郎
「茶の湯」 さん喬
(仲入り)
「大仏餅」 さん喬
「茶金」  さん喬
場所:パルテノン多摩 小ホール
開演:19時00分
終演:21時30分