熊本熊的日常

日常生活についての雑記

あのときのあじ

2013年04月29日 | Weblog

昼に八重洲地下街にある南インド料理の店で食事をした。4種類のカレーとインド米、日本米のセットをいただいた。都内にインド料理の店は数多あるけれど「南インド」を謳っている店はあまり見たことがない。ちょうどブリヂストン美術館へ向かう途中で、たまたま目に入った店だった。昼時で、同じ地下街でも駅に近い店には軒並み行列ができていたのだが、ここは空いていたので入ってみたのである。

ここのカレーの味に驚いた。学生時代にインドを旅行したときに食べたのと同じような味だった。日本でさえ地域によって味覚の違いがあるのだから、日本の8.7倍の国土と9.5倍の人口を持つインドの食が「インド料理」という一言で括ることができないのは言うまでもない。それぞれの土地の「インド」がある。私にとって最初の「インド」はマドラス(現チェンナイ)だ。コロンボから夜のフライトで入り、翌朝に中央駅の近くの食堂で食べたものが最初の「インド料理」だった。所謂「カレー」であるには違いないのだが、それまでに口にしたことのない味だった。なによりも辛くて食べるのがたいへんだった。

結局、そのときの旅行では1ヶ月ほどのインド滞在中、最後までインド料理には馴染めず、帰国したときには10キロほど体重が減っていた。それで、帰国後しばらくは都内のインド料理屋を片っ端から訪れて、インドで食べられなかった分を補おうとしたのだが、どこもインド本国で私が経験した味とは違っていて、納得できずにいた。それが、あれから28年目にしてようやく舌に覚えのある味に再会できたのである。

思い起こせば、あの頃は社会人になるという不安だけに囚われていたのが、インドを旅行することで少しだけ覚悟ができた。未だ見ぬ生活に踏み出す背中を押してくれたのがインドでのささやかな経験だった。今また別の不安のなかにある。そして、その閉塞を打破すべく新しい生活を築こうとしているところで、あの味に再会したことが、単なる偶然とは思えないのである。なんとなく、幸先が良いような気がして、嬉しい気分で食事を楽しむことができた。