万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

匿名ネット発言禁止法案―意見表明と情報提供のリスク度の違い

2012年05月24日 15時37分58秒 | 社会
匿名のネット発言を禁止する法案:ニューヨーク州(WIRED) - goo ニュース
 アメリカのニューヨーク州では、匿名のネット発言を禁止する法案の提出が検討されているそうです。匿名投稿による”サイバーいじめ”への対策なのですが、しばし、考えてみる必要もありそうです。

 ネット空間とは、意見表明の場であると共に、情報提供の場でもあり、また、見知らぬ者同士、あるいは、知人や友達同士のコミュニケーションの場でもあります。つまり、ネットとは、多機能ツールなのですが、これらの手段には、本人が負うリスクに、開きがあるのではないかと思うのです。パブリックな問題に対する意見表明や、公表された意見に対するコメントについては、発言者は説明責任を問われることがありますので、本名を名乗ることにも一理はあります。”サイバーいじめ”とは、自分は匿名のままで、反対意見を表明した相手を一方的に攻撃する行為であり、この法案は、こうした自分だけはリスクを負わない卑劣な行為を対象としています。その一方で、公益に資するようなネット上の情報提供となりますと、匿名でなければ、公表者の身に危険が迫ることもあります。一律に匿名禁止となりますと、ネットを通して事実を知らせようとする正義感に駆られた行為をも、葬り去ってしまうことになりかねないのです。また、先の意見表明も、政治的な弾圧の可能性がある場合には、本人に降りかかるリスクが高まりますので、匿名の投稿は、身の安全を守る手段ともなります。

 このように考えますと、一律に匿名を禁じるのではなく、公益とリスクとの関係を考えた細かな対応が必要なのではないでしょうか。”サイバーいじめ”は、腹立たしいものですが、正義の告発や勇気ある発言の道を閉ざしてはならないと思うのです。

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