万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

顔認証システムの目的とは?

2021年03月07日 11時40分50秒 | 社会

近年、急速に発展したITは、顔の映像解析によって個人を特定できる顔認証システムをも生み出しています。メディアなどでは最先端の技術として持て囃され、日本国政府もまた、政府主催のイベントなどでも実際に採用しているのですが、この技術、本当のところは、何を目的としているのでしょうか。

 

 デジタルと’顔’との繋がりは、かのフェイスブックという社名の命名からも伺えるように、IT分野においては特に拘る重要な関心事なのかもしれません。顔とはその人の個性そのものですので、デジタル化された顔の情報が個人を特定する基礎的なデータとなることは理解に難くはありません。3Dの技術を加えれば、個人を正確に特定し得ることでしょう。しかしながら、その一方で、その正確性には疑問を抱かざるを得ません。

 

 その理由の一つは、顔とは常に変化するものであるからです。メークは別としても、食生活や運動によって影響を受ける筋肉や脂肪の厚みや付き方は変わりますし、加齢による自然の変化もあります。10年も経過すれば、人によっては、別人のように人相が変わってしまう場合もあります。また、今日では、先端的な整形手術を施せば、目鼻立ちのみならず顔の骨格さえ変えることができます。整形手術のケースでは、まさしく’別人’になってしまうケースも少なくありません。なお、目歯率は生涯において変わらないとされつつも、これもまた、歯並びの矯正に伴って変化する場合もありましょう。

 

 こうした自然、あるいは、人工的な顔そのものの変化に加え、デジタル情報は、容易に改変することができます。例えば、’美顔機能’が搭載されているカメラも販売されておりますし、後から画像に修正を加えることができます。顔認証システムでは、事前に自らの写真を提出する必要があるそうですが、修正、あるいは、改竄された写真が提出されれば、たとえ最先端の顔認証システムを用いたとしても、本人確認ができるはずもありません。基礎となるデータそのものが偽りなのですから。

 

 以上の諸点から、顔認証システムとは、極めて不正確な個人特定システムであることが分かります。それにも拘わらず、何故、政府機関をはじめ、至る所で顔認証システムが導入されているのでしょうか。

 

 出発点に帰って考えてみますと、個人の特定は、治安の維持や犯罪対策を根拠として行われてきました。古くより、’お尋ね者’の顔は、人相書きによって人々に知らされてきました。現在でも、街角には凶悪犯人の写真を掲載した警視庁や警察庁の写真が貼られています。顔に関する情報を取得され、それが逮捕を目的に個人識別のために公開されるのは、犯罪者に限定されていたのです。ところが、顔認証システムは、犯罪者ではない一般の人々が自らの顔情報を提供する必要があります。宣伝されているほど確実に個人を特定できる精度を誇るならば、犯罪者やテロリストの顔情報のみで十分なはずです。これらの’お尋ね者’のデータと照合して一致しない人は、自動的に’安全な人’と判断されるからです。問題があるとすれば、当局が顔情報を収集していない人物が、一般人を装って犯罪やテロを実行することなのでしょうが、犯罪や破壊行為の未然防止であるならば、持ち物検査等の方が効果的です。今日のテクノロジーを以ってすれば、非接触型のセンサー装置の開発は難しいことではないはずです。あるいは、スパイ活動や工作活動を警戒するならば、それは、顔認証以前の問題と言えましょう(本人による場合もあり得る…)。言い換えますと、現在の顔認証制度とは、あたかも一般人を犯罪者扱いしているようにも見えるのです。

 

 新型コロナウイルスの感染予防を目的に、今日、殆どの人がマスクを装着しています。欧米にあってマスク姿が嫌われるのも、それが本人特定を避けたい’犯罪者’のスタイルであったことによりますが、マスクの普及により顔認証システムの精度が低下し、治安が悪化したとする報道は今のところはありません。となりますと、中国と同様、顔認証システムの導入の真の目的は、国民管理体制の強化であるとする憶測も否定はできないように思えます(もしかしますと、’顔認証’の際に情報を収集している可能性も…)。そして、このITを用いた国民管理体制の強化の動きは、それぞれ、口実や根拠が異なるとしましても、ワクチン接種のデジタル管理など、他のあらゆる分野にも共通して見られるのではないかと思うのです。


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