万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

LINE問題が示唆するデジタル庁の行方-’リスク無視体質’の問題

2021年03月18日 11時28分40秒 | 日本政治

LINEは、今日、日本国内にあってSNSの利用者数においてトップの座にあります。多くの人々が、便利な日常のコミュニケーション手段として使っているのですが、今般、同社が委託していた中国企業の技術者が日本国内で収集された膨大な量の個人データを自由に閲覧できる状態にあったことから、LINEに対する不信感が広がっています。

 

 LINEを介した海外への情報流出リスクは、今に始まったことではありません。LINEが韓国のNAVER社を親会社として設立された企業であったため、韓国に日本人ユーザーの情報が渡るのではないかとする危惧は以前からありました(韓国情報院に対する情報提供の義務を負う…)。現在、LINEは、経営統合によりソフトバンク系のZホールディングスの傘下にありますが、なおもNEVER社との出資関係は継続されています(持ち株会社のZホールディングスの出資者…)。今般の事件をきっかけとして、同社のデーターセンターが韓国に設けられており、LINEユーザーが投稿した写真や動画、さらにはスマホ決済に関する個人情報が移転されていた実態も明らかとなりました。今年中には日本国内にデータを移すとしていますが、改めて同懸念を裏付ける形ともなったのです。

 

韓国は、今や日本国を’仮想敵国’と見なしておりますので、対韓関係においても安全保障上の不安要因でもあったのですが、今般の漏洩先が中国ともなりますと、そのリスクのレベルは格段に上昇します。中国では国家情報法も制定されておりますので、NAVER社経由の可能性も含め、LINEを介して収集された日本国内のあらゆるデータは、既に丸ごと中国共産党の手に渡っていることでしょう。そして、この問題は、日本人の個人情報の漏洩に留まらず、日本国政府の情報管理の杜撰さをも露呈することともなったのです。

 

最大の問題点は、日本国政府、並びに、地方自治体の多くは、LINEに纏わるリスクを十分に承知しながら、その普及と理由を後押しした点です。メッセージ・アプリとしてLINEが短期間で急速に普及し、8600万人ともされるユーザーを獲得した背景には、日本の通信大手がLINEアプリのダウンロード済み端末を販売したことにもよります。いわば、’抱き合わせ販売’なのですが、政府は、こうした行為を野放しにしていました。また、国も地方も、LINEの利用に積極的に取り組んでいます。例えば、国レベルでは、マイナンバーのオンラインサービスである「マイナポータル」とLINEを組み合わせた行政サービスを始めましたし、地方レベルに至っては、防災情報や交通・インフラ情報の提供、さらには各種の行政手続きなど、先を争うように行政サービスへのLINE導入が進められました。職員の採用試験の面接にも利用する自治体も出現しており、LINEは、公私にわたる公務員情報をも収集し得る立場になりつつあります。

 

こうした国や自治体よるLINEの導入をめぐっては、汚職が疑われると同時に、日本国憲法が定める法の前の平等に反する行為でもあります。LINEの非ユーザーは行政サービスから排除され、差別的な不利益を被るのですから。憲法違反の疑いも濃厚なのですが、国も自治体も、LINEを介した情報漏洩のリスクを知らなかったはずありません。知っていながらそれを無視し、慎重に構えるどころか積極的に推進までしたところに問題があるのです(仮に、’知らなかった’とすれば、日本国政府の情報収集能力はリスクを見抜いていた一般の国民以下ということになり、致命的に低レベルであるということに…)。

 

LINEをめぐる日本国政府、並びに、地方自治体の動きを見ますと、自らで必要な情報を徹底的に収集して丁寧に分析し、リスクを冷静に判断した上で国民のコンセンサスを得ながら政策を立案して実施する、というよりも、外部の何者かにせかされる、あるいは、何者かの命令に従うかのように事を急ぐ政府の姿がイメージされてきます。しかも、安全な自国企業を育てようともせず、日本政府が積極的に国内に呼び込んでいるのは、安全保障上の脅威ともなり得る海外企業なのです。

 

 昨年の菅政権の発足時にあってデジタル庁の新設が打ち出されましたが、日本国の統治機関に深く浸透している’リスク無視体質’を考慮しますと、デジタル庁そのものが、そのままそっくり海外への情報漏洩中継機関ともなりかねないように思えます。こうした危うさはワクチン・プロジェクトにも見受けられ、’リスク無視体質’からの脱却こそ、日本国の独立、並びに、国民の安全を護るために克服すべき課題なのではないかと思うのです。


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