万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

中国への情報漏洩はLINEだけの問題ではないのでは?

2021年03月24日 15時18分48秒 | 国際政治

 日本国内にあって8600万人ともされる膨大なユーザーを獲得してきたLINE。飛ぶ鳥を落とす勢いであったのですが、ここに来まして、日本人ユーザーの個人情報のみならず、政府及び自治体の行政情報の中国、並びに、韓国への漏洩という重大な問題が持ち上がることとなりました。現在、政府や自治体レベルでは使用停止の措置が採られていますが、公人でありながら、私的利用の継続を宣言している平井卓也デジタル相のように政治家も見受けられ、国家情報漏洩の危機は去ったとは言えない状況にあります。そして、もう一つ、懸念すべきは、中国や韓国への情報漏洩は、LINE社だけの問題ではないのではないか、というものです。

 

 情報漏洩の経路は、複数存在していたようです。対中漏洩については、LINE社が、(1)北京、並びに、大連に開設予定の開発拠点の準備として、上海の関連会社にシステム開発を委託したところ、同社の中国人技術者が日本国内のサーバーにアクセスできる状態となったこと、(2)不適切内容の監視業務を国内企業に委託したところ、同社が大連の現地法人に再委託したこと、によるものです。韓国への漏洩は、韓国国内にLINE社のサーバーが設置されているところに起因しています。

 

 以上の状況からしますと、日本国の情報の海外流出のリスクとして想定されるのは、(1)業務の委託、あるいは、再委託先企業が外国企業のケース、(2)サーバーが海外に設置されているケース、(3)外国人技術者を雇用したケース(4)子会社や合併会社を海外に開設したケース、(5)海外企業と共同開発を行うケース、(6)開発拠点を海外に設置するケース…などです。いわば、デジタル化と一体化して進展してきたグローバリズムに付随するリスクとも言え、様々なルートにおいて漏洩のリスクが認められるのです。しかも、中国のように法律によって民間企業や個人に至るまで、入手し得た情報の政府への提供を義務付けている国であれば、情報の漏洩先は相手国政府ということになります。

 

 同問題を受けて、LINE社は、中国からの閲覧経路を遮断すると共に、韓国に設置されていたサーバーを年内に日本国内に移転する意向を示しています。その一方で、中国国内おいて準備されている開発拠点については計画の変更は表明しておらず、漏洩のリスクが完全に払拭されたわけではありません。

 

 第一に、データの収集やその解析こそ、イノベーションや新たなビジネス・モデルの源泉であるならば、技術者によるデータアクセスなくして開発を行うのは無理ではないか、という点です。海外において外国人技術者を雇用する場合、これらの人々のみデータを対象に遮断措置を採るとしますと、開発のレベルの低下要因となりましょう。そもそも、海外の開発拠点において日本人技術者を雇用するとも思えず、現地技術者の全員がデータにアクセスできない状況となることも想定されます。あるいは、匿名化や暗号化といった方法もありましょうが、作業プロセスが一つ増える上に、そのプロセスを通してむしろ情報が漏洩するかもしれませんので、海外に開発拠点を設けるメリットも低下します。

 

 第二に、戦争と同様に、ITの世界においても、盾と矛との関係があります。攻撃手段と防御手段との性能を比較して前者が優る場合には、後者による防御は最早不可能となります。それでは、中国の攻撃的なサイバー・テクノロジーと日本国のサイバー・セキュリティー技術とでは、どちらが優っているのでしょうか。人民解放軍が積極的にサイバー攻撃を仕掛けてきた現状からしますと、中国の攻撃能力の方が日本国の防御能力を上回っていることは容易に推測されます。つまり、たとえ日本企業が、社内的な措置としてアクセス経路を遮断したとしても、常に情報漏洩のリスクに晒されていることとなりましょう。中国国内における日本企業の全ての活動は中国政府に筒抜けとなるのです。

 

 以上に主要な問題点を挙げてみましたが、セキュリティー技術が確立していない段階における中国や韓国等への日本企業の進出は、丸腰で敵地に乗り込むようなものです。ソ連邦であれ、中国であれ、共産主義国は、敵を自国深くに誘き入れて殲滅する作戦を得意としましたが、経済におきましても同様の作戦を展開しているのかもしれないのです。もっとも、LINEにつきましては、親会社であるZホールディングスも含めて韓国色の強い企業ですので、意図的に中国への漏洩を許した、あるいは、黙認した可能性も否定できないのですが、日本企業は、中国の巨大市場の魅力に惑わされ、気がついて見たら自国そのものを失っていたということは、あってはならないと思うのです。


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