万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

中国のワクチン政策の不可思議

2021年03月21日 11時50分48秒 | 国際政治

新型コロナウイルス感染症の発祥が最初に報告されたのは中国の武漢であり、公式には華南海鮮卸売市場で売買されていた野生動物からの感染とされながらも、同地に設置されていたレベル4のウイルス研究所からの漏洩も疑われてきました。親中派のテドロス氏を事務局長として戴くWHOによる現地での調査結果も怪しく、真相は藪の中にあります。人工ウイルス、あるいは、生物化学兵器として人工的に造られた可能性を認める研究者も少なくないため、中国に対する国際社会の視線は厳しさを増すこととなったのです。同ウイルスの起源は分厚い’紅いカーテン’によって覆われている一方で、中国のワクチン政策もまた、謎に包まれています。

 

第一の謎は、ワクチンの開発時期です。中国で開発されたとされるのは、不活化ワクチンです。不活化ワクチンの開発には、動物実験や治験に先立つウイルスの弱毒化から卵による増殖までの期間でさえおよそ5か月は必要とされます。ところが奇妙なことに、中国当局が、シノバック・バイオテック、並びに、シノファームの2社が開発中のワクチンに対して治験、即ち、人への臨床実験の開始を承認したのは2020年4月14日ことです。既に、僅か4か月足らずで治験段階に至った中国のワクチンは、同ウイルスが感染症の発祥報告に先立って’既知のウイルス’であったか(武漢ウイルス研究所起源説の補強に…)、あるいは、当局がワクチンの安全性を完全に無視したか、のどちらかであることを示唆しているのです。仮に後者であったとしても、ワクチン開発の速さに起因するリスクからしますと、1年足らずで実用化されたファイザー社、モデルナ社、アストラゼネカ社の遺伝子ワクチンの比ではありません。

 

第2の謎は、中国におけるワクチン接種率の低さです。新型コロナウイルス感染症が中国国内で爆発的に拡大した際には、中国は、武漢を初め北京でさえ都市封鎖を実施し、徹底的な封じ込めを実施しました。共産党一党独対体制に基づく強権発動が中国における早期のコロナ禍収束に功を奏したともされ、中国自身も、’中国モデル’の優位性を誇示したのです。誰もが、中国国民の大半は既にワクチンの接種を終えていると思いがちですが、現状にあってワクチン接種については、中国政府は、国民に対してワクチン接種を強制していません。この結果、14億の人口からして接種総数こそ世界第二位なものの、接種率は3・65%に過ぎないのです。しかも、国民の多くはワクチンの副反応を懸念しており、国際世論調査においても、接種を希望するとした回答は最低レベルです。今に至り、中国政府は、接種率を上げ、首都北京にあって凡そ8割の接種を目指す方針を示していますが、感染拡大時の迅速な対応とは対照的なのです。中国製ワクチンの効果が薄いとする見方もありますが(効果に関する報告は安定せず、50%とする見方もある…)、ワクチン・リスクを熟知している(既に死亡例の報告が…)、あるいは、何らかの隠された意図があるのかもしれません。

 

 そして、第3の謎は、国内に対しては抑制的であったにも拘わらず、中国政府は、諸外国に対しては積極的に中国製ワクチンを提供している点です。ワクチンメーカーのお膝元であるアメリカやEUが自国民優先を打ち出しているのに対して、中国は、むしろ、外国優先の姿勢が目立っているのです。’マスク外交’ならぬ’ワクチン外交’を展開し、ワクチンの調達に悩む他国に’恩’を売ろうとしている可能性もありしょうが、自国民ではなく諸外国の国民を用いて自国製ワクチンの’治験’を行ってきたとする見方もあり得ます。あるいは、北京オリンピックの開催を視野に入れた措置であるのかもしれません。

 

果たして、中国のワクチン政策における一貫性を欠いた動きは、一体、何を意味するのでしょうか。中国政府は、接種対象拡大方針への転換と同時にワクチン・パスポートの導入も検討しているそうですが、効果やリスクが懸念される中国製ワクチンの大量接種によって、日本国、並びに、全世界に中国人観光客やビジネスパーソン等が大挙して押し寄せてくる事態だけは、何としても防がなければならないと思うのです。


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