万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

ウクライナ復興問題への素朴な疑問

2022年07月08日 10時18分49秒 | 国際政治
ウクライナ側の試算によれば、同国の復興には、凡そ100兆円を超える資金を要するそうです。破壊されたインフラ施設や中世の面影を残す街並みまで元の通りに戻すには、100兆円があってもまだ足りないかもしれません。そこで、海外からも復興資金を調達するために、スイスにあって国際会議が開催される運びとなったのでしょう。しかしながら、ここで一つ、素朴な疑問があります。

ウクライナ復興に関する素朴な疑問とは、仮に、ロシア軍が東部地域を制圧し、親ロシアの二つの独立国家―「ドネツク人民共和国」および「ルガンスク人民共和国」―を維持するとすれば、同地域の復興はロシア側の責任、即ち、巨額の復興資金もロシア側の負担になるのではないか、というものです。

スイスの国際会議では、戦後復興の主たる担い手はウクライナとみなしております。その前提には、同国がロシア軍による占領地を奪回し、完全に自らの施政下に置く状態の実現があります。東部地域を回復して初めて、ウクライナは、自らの復興事業を、その資金源の大半が海外からの融資や投資等であれ、自らの政策権限並びに予算を以って進めることができるのです。

それでは、実際に、大半の国からは国家承認を得られなくとも、同地域において二つの親ロ国家が存続し、ロシアがその事実上の後ろ盾となった場合、調達された復興資金の行方はどうなるのでしょうか。昨日のブログでも述べたように、既に、欧州評議会銀行がウクライナ復興債を発行していますし、日本国のJICAをはじめ、復興債発行の動きが世界規模で広がっています。投資家の関心も集めており、世界最大の機関投資家であるGPIF(日本年金機構)も保有の方向に動くかもしれません(その一方で、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、2200億円ほどのロシア関連の債権を保有していたものの、対ロ制裁に従って評価をゼロに…)。EUレベルでも、ウクライナの復興を支援するための共同債の発行を検討しているとも報じられており、同案が実現すれば、ウクライナへの復興資金の提供がEU加盟に先立つこととなりましょう。

急ぎ全世界から復興資金を調達しても、東部がロシアの勢力範囲に組み入れられた状態では、これらの資金は宙に浮いてしまいます。双方の攻撃によって凄まじい破壊が行われ、戦場となったのは、主として東部地域なのですから。報道によりますと、現在の戦況はロシア優勢ということですので、ウクライナによる東部地域の奪還は困難な状況にあり、復興事業開始の目途は全く立っていないのです。

もっとも、ロシア軍は首都キーウ(キエフ)まで侵攻していますので、戦闘が始まった2月25日からロシア軍が撤退する4月3日までの凡そ一か月間の間、ウクライナ側に被害が発生しています。この間、全世界を震撼させたブチャにおける民間人虐殺事件が起きたとされておりますので、まずは、調達資金をキーフ(キエフ)周辺地域における被害の復興に充てるのかもしれません。もっとも、キエフ周辺の復興に資金を要するとしても、おそらく概算されている100兆円には届かないことでしょう。

以上に、ウクライナ復刻資金に関する素朴な疑問を投げかけてみましたが、ウクライナ復興資金の調達事業には、やはり慎重であるべきなのかもしれません。同国の債務危機を考慮しますと、調達資金は債務返済に充てられるかもしれませんし、戦闘状態が長引けば、事実上の’軍資金’の提供となりかねないからです(底なし沼に…)。ウクライナ危機にはまだまだ不透明感が漂っていますし、その背後には闇が潜んでいる気配もします。仮に復興資金を提供するならば、厳正な外部モニタリングの仕組みを要求する必要がありますし、日本国政府も、より中立的で客観的な視点からの分析に努めるべきではないかと思うのです。

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