万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

陸上自衛隊ヘリコプターとノルド・ストリーム事件

2023年04月11日 11時39分09秒 | 国際政治
 ノルド・ストリーム事件とは、ウクライナ紛争の最中にあって、ロシアとドイツを結ぶ天然ガスの海底パイプライン「ノルド・ストリーム」が、2022年9月26日に何者かによって破壊された事件です。事件発生当初はロシアの破壊工作と見なされ、特に日本国内の主要大手メディアは、同事件をロシアの犯行と凡そ断定する形で報じました。

 大手マスメディアがロシア犯行説を宣伝する一方で、ロシアとドイツは直接に戦っているわけでもなく、また、敢えて自国の天然資源輸出用の国際インフラを破壊する動機がロシアには薄いことから、ロシア犯行説に対する疑問も燻ることとなります。先ずもって当事国であるロシア自身が自国犯行説を否認し、目下、国連に対して事件の徹底究明を求めます。因みに、ロシアにおいてアメリカと共に‘真犯人’として疑われたのがイギリスであったのが、興味深いところです。

 また、事件発生直後には、ドイツのデア・シュピーゲル紙やアメリカのニューヨーク・タイムズ紙なども、バイデン大統領が欧州各国の政府にパイプライン破壊の可能性が高いとの警告を行なっていたとする記事を掲載し、アメリカの関与を示唆するメディアもありました。天然ガスの供給をロシアに依存するドイツとその供給国であるロシアとの関係を断絶させることができれば、ウクライナの最大支援国であるアメリカにとりましては、好都合であったからです。

 もっとも、しばらくの間は、こうした懐疑論は‘陰謀論’として退けられてきたのですが、翌23年の2月8日に至り、米調査報道記者であり、かつ、ピューリッツァー賞受賞記者でもあるシーモア・ハーシュ氏が、アメリカ犯行説をブログ記事を投稿された頃から、若干、風向きが変わってきました。同記事では、匿名の消息筋からの情報として、バイデン大統領からの指令を受けた米軍とノルウェー軍の協力の下で実行したとする、かなり具体性を備えた説が唱えられています。偽旗作戦であった可能性が強まり、もはや陰謀論として無視できなくなってきたのです。

 アメリカ政府は、同日、即座にハーシュ氏の説を‘全くの虚偽で完全なるフィクション’として否定しましたが、その一方で、同否定会見において、ウクライナが関与している証拠はないとも述べたとされています。同発言から、既にウクライナ真犯人説も流布されていたことが分かります。その後、3月に入りますと、ニューヨーク・タイムズ誌が、米情報当局者による説として‘真犯人’は、‘親ウクライナ勢力’である、という見方を報じるのです。

 3月7日にドイツのツァイト紙が報じるところに依れば、ドイツの捜査当局は、パイプラインを破壊した小型船を特定したそうです。同小型船は、ポーランドの会社が貸した物であり、その所有者は国籍不明の二人のウクライナ人であったとしています。国籍は不明ですので、同‘ウクライナ人’が、ウクライナ国籍のウクライナ人なのか、ロシア国籍のウクライナ人なのか、国籍の違いによって立場が変わります。もっとも、親ウクライナ勢力と表現されていますので、おそらく前者なのでしょう(なお、ロシア国内の反プーチン勢力による犯行説も存在していた・・・)。

 以上に述べてきましたように、ノルド・ストリーム事件につきましては、数多くの‘被疑者’がおります。ロシア、アメリカ、ウクライナ、イギリス、その他の親ウクライナ組織やロシア国内の反プーチン勢力などなど・・・。そして、これらのさらに深部には、ウクライナ紛争をエスカレートさせたい世界権力が潜んでいる可能性もありましょう。否、‘真犯人’には決して行き着かないように、メディアを介して敢えて様々な説を‘散布’して煙幕を張っているのかもしれません。

 軍事的緊張が高まる時期や戦時にあっては、盧溝橋事件を始め、しばしば、対立関係にあるどちらの側が実行したのか不明な事件が発生するものです。第一次世界大戦を引き起こした‘サラエボの一発の銃声’も、犯人とされたガヴリロ・プリンツィプ、並びに、民族主義組織「黒手組」 の背後関係まで調べ上げなければ、熱狂的な大セルビア主義者の犯行とは断定はできないのかもしれません。そして、今日、日本国は、陸上自衛隊ヘリコプターの墜落という事件性が強く疑われる事態に直面しているのです(つづく)。

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