万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

日米による核兵器同時開発のケースを考える

2024年04月12日 10時09分15秒 | 国際政治
 第二次世界大戦末期、連合国側のみならず、枢軸国側でも核兵器の開発が急がれていました。現実には核兵器開発競争はアメリカが先んじることとなったのですが、可能性としては、日本国のみの開発成功、並びに、日米両国による同時開発のケースもあり得ないわけではありませんでした。昨日の記事では、前者について考えてみたのですが、本日は、後者の日米同時開発のケースについて論じたいと思います。

 原爆投下に関する違法阻却事由としては、アメリカにおきましては、核の抑止力による人類救済論が一般的です。悪しき行為でありながらも、そこに神の采配とも称されるべき正義を見出そうとする見解です。‘神は、悪からも善を引き出す’と申しますので、人類救済論は、原爆を投下した側となるアメリカ国民を強く惹きつけるのも理解に難くはありません。結果論からすれば、冷戦期にあって米ソ両超大国を盟主とする東西陣営間の世界戦争、すなわち、第三次世界大戦が起きなかったのは、相互確証破壊論が述べる相互抑止力が働いたからともされています。

 もっとも、第二次世界大戦後にあって超大国間の相互抑止力が働くようになるのは、ライバル関係となったソ連邦が原子爆弾の開発に成功した時点となります。それはアメリカから遅れること4年後、ソ連邦が核実験に初めて成功した1949年の夏のことです。このことは、米ソ間の核の相互抑止力による‘冷たい平和’は、戦後4年を経て実現したのであり、アメリカが原子爆弾を使用した時点では、対ソ牽制の意図はあったとしても、相互性に基づく世界大戦抑止の構想は存在していなかったことを意味します。核の均衡論による違法性阻却の主張は、この点において説得力に乏しいのです。

 しかしながら、この核による相互抑止の議論は、核の抑止力の問題を考えるに際して極めて重要なポイントとなります。先日は、日本国のみが核兵器保有国となるケースについて取り上げたのですが、実のところ、核の開発競争における開発の時間差は、最初に核開発に成功した国が出現した途端に、目的が変わってしまうことを示しています。それは、核を持つ国と持たざる国との間の非対称性、あるいは、核の不均衡が、軍事力において国家間の間に解消され得ない格差をもたらすからです。核兵器国に対して非核兵器国は決して戦争に勝つことはできず、核保有国のみが‘無敵’となるのですから。つまり、核兵器国に対して自らを護り、対等な関係となるには、核の均衡を要するのです。

 アメリカによる広島・長崎への原爆投下を受けてソ連邦が核兵器の開発を急いだのも、おそらく、攻撃兵器としてアメリカへの実戦使用を目的としたのではなかったはずです。アメリカ一国のみが核兵器を保有する状態が続けば、圧倒的に有利となった同国による核による威嚇や攻撃等により、戦時中に版図を広げた‘赤い帝国’が瓦解し、共産主義体制が崩壊することを恐れたからなのでしょう。あるいは、最終戦争としての第三次世界大戦を想定していた世界権力が、世界大での二頭体制の構築を欲したからかも知れません。何れにしましても、ソ連邦は、自ら核兵器を手にすることで、‘生き残り’、すなわち体制温存に成功したと言えましょう。因みに、当時のアメリカは、ソ連邦による原子爆弾開発を未然に阻止するために、対ソ原爆使用に踏み切ることはありませんでした。

 冷戦期に見られるように、たとえ敵対関係にある、あるいは、異質な体制の国家であったとしても、核の均衡が共存をもたらすならば、第二次世界大戦末期にあっても、同様の展開となった可能性があります。日米両国がともに核兵器を保有する状態に至った時点で戦争は‘凍り付き’、ほどなく終結に向かったものと推測されるのです。

 そして、核開発における後発組の目的が、核攻撃からの防衛である点に注目しますと、今日のNPT体制には、大いに疑問があります。核兵器の攻撃兵器としての非人道性ばかりを強調し、核兵器の廃絶を‘絶対善’と見なすことで、核保有国からの最大の防御手段を各国に自発的に放棄させているからです。しかも、核によって絶対的な優位性が保障されている核保有国は、必ずしも他国の独立性や主権を尊重し、国際法を誠実に遵守する国であるとは限らず、中国やロシアのみならず、イスラエルや北朝鮮までもが核を保有しているのが現実なのです。このように考えますと、核の抑止力をもって違法阻却事由を主張するならば、核保有国による横暴から身を守るための防衛、あるいは、抑止目的を条件として、世界の全諸国に対して核保有を認めるべきなのではないかと思うのです。

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