万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

国際社会における新たな安全保障体制とは?

2022年05月03日 16時07分39秒 | 国際政治
 今日の国際社会では、ロシア以上に順法精神の希薄な中国という一党独裁国家も幅を利かせています。しかも、これらの諸国は核兵器を合法的に保有する国連安保理の常任理事国でもありますので、今日、他の中小の諸国は、’特権国家’からの脅威に晒されているのです。国家の多様性は、その国際法上の法的地位の違いによっても確認できましょう。それでは、こうした国家の多様性に対応し得る未来の国際社会の安全保障体制とは、どのようなものなのでしょうか。

グローバリストの描く人類の未来像は、カール・マルクスが’予言’したような国家が消滅した国境なき世界なのでしょう。しかしながら、国家の消滅が人類に安全と安定並びに安寧を約束するわけではなく、むしろ、メビウスの輪のごとく’天国’行きの道は途中で裏返り、’地獄’に行き着くかもしれません。多くの諸国が他国との間に対立要因を抱えている現状にあって、未来における世界の一体化を解決策として提示することは無意味であり、ナンセンスですらあるのかもしれないのです。一つの物を争っている両人に対して、「これは、将来、皆のものになるのだよ」といって喧嘩を納めようとすれば、それは、まるで狡賢い狐が登場するイソップ物語のような寓話となりましょう(結末では、両人が争っている物は、この狡賢い狐の持ち物となってしまうかもしれない…)。

世界の統一、即ち、国家の多様性の消去を以って国際社会における安全保障の確立を目指す方向性は、あまりにも現実を無視していると言わざるを得ません。今日にあって必要とされているのは、国民国家体系の基礎となる国家の多様性を前提とした新たな安全保障体制の再構築なのであって、そのためには、価値観や時代感覚の違いにも配慮すべきと言えましょう。力の支配を当然とする国もあれば、法の支配を尊重する国もあるのですから。

例えば、力の支配を旨とする諸国の存在を前提とすれば、全ての諸国に核武装を許す新たな核による相互抑止体制は、暴力主義国家による侵害行為を事前に予防する国際体制という意味において是認されることとなりましょう(なお、相互抑止力が働くには、核による先制攻撃を受けた際に反撃する能力の保持も必要…)。NPTや核兵器禁止条約は、既存の核保有国の安全を護ってはいても、他の非核保有国を脅威に晒しているとしか言いようがないのです。

しかも、全世界の諸国における核武装は、主権平等を担保するという意味においても、国際社会の基盤ともなりましょう。力が支配する世界にあっても、核保有は、国家間の対等性を力の均衡によってもたらすのみならず、法の支配にあっても、主権平等の原則を保障する作用をも備えているからです。

このように考えますと、全諸国による核武装体制は、いわば、新たな国際秩序の第1層、即ち、基盤部分として理解されましょう。何故ならば、現行の国連のみならず、本ブログで述べてきたような他の交渉や司法解決等のシステムがたとえ機能不全に陥ったとしても、各国とも、核の相互抑止力により最低限の安全が保障されるのですから(つづく)。

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