2024年は、異常なまでのお米価格の上昇に見舞われた年でした。夏頃には平年ですと5キロ2000円台程度であったお米の小売り価格があれよあれよという間に3000円台に上昇し、秋の収穫期が過ぎた今日でも、一向に価格が下がる気配はありません。4000円台や5000円台のお米も珍しくはないのです。米価格だけを見れば、50%から100%を越えるインフレ率ともなりましょう。お米は日本人の主食ですので、急激な米価高騰は国民生活を直撃します。ところがこの状態を、日本国政府は、全くと言ってもよいほどに放置しているのです。今般の米価高騰については、様々な理由が挙げられていますが、一体、どこに原因があるのでしょうか。
米価高騰の原因の一つとされるのは、コロナ禍収束後におけるインバウンドによる需要の増加です。需要増を受けて国内の米供給が逼迫したことから、お米価格が上昇したとする説です。しかしながら、訪日外国人数は、コロナ以前のレベルを回復した9月でも凡そ287万人に過ぎません。仮にこの説が正しければ、既に200万人を越えていた2016年から2020年までの期間にあっても、お米価格の急激な上昇が見られたはずです(統計に依れば、同期間の米価は横ばいのようです・・・)。しかも、お寿司に代表されるように和食にはお米を使う料理が多いものの、観光であれ、ビジネスであれ、来日した外国人が、日本国のお米価格を暴騰させるほど大量のお米を消費したとも思えません。インバウンド説は、どこか説得力に欠けているのです。仮に同説に従うとすれば、日本国政府は、国民の食料確保の観点から、今後、外国人の入国規制を行なわざるを得なくなりましょう。
第二に米価高騰の要因とされているのは、天候の影響です。過去の事例を見ましても、天候不良による不作が米価の高騰を引き起こしており、歴史上の大飢饉の大半も冷夏や日照不足が原因となっています。この点、天候説の方が上述したインバウンド説よりも説得力がありましょう。しかしながら、今般の不作の原因は、異常な猛暑が続いたところにあり、過去にあって幾度も飢饉を引き起こしてきた冷害ではありません。高温の影響で、「一等米」の率が減少したというのです。全国平均で「一等米」の率が17.6ポイントも下回ったとされます。確かにこの説明を受けると納得しそうにもなるのですが、実のところ、「2等米」や「3等米」であっても食用に適さない、ということではないようです。実際に、ネット上では「2等米」が販売されており、ブランド米ですと「1等米」より僅かに低価格であるに過ぎません。品薄の原因が消費者の「1等米」への拘りにあるのならば、低価格をアピールして「2等米」や「3等米」の販売を促進し、供給量を増やせば、品不足は緩和されるはずです。政府は、何故、「2等米」や「3等米」を活用しようとはしないのでしょうか。
また、従来の冷害ではなく、‘熱害’が原因であるならば、事前の対策も打てたはずです。ましてや日本国政府は、地球温暖化説に基づいてカーボンニュートラル政策を協力に推進しているのですから、エネルギー政策のみならず、農業政策にあっても温暖化への対策を講じるべき立場にあります。お米とは、熱帯地方では二毛作が行なわれているように、本来、気温が高い地域に適した作物です。これまでの品種改良は、緯度の高い地域でも栽培し得る品種の開発であったのでしょうが、温暖化予測を信じるならば、猛暑にあっても収穫量や品質が落ちない品種を準備しておくべきであったと言えましょう。あるいは、供給量を増やすならば、猛暑を逆手にとった二毛作用の品種の開発や導入も検討すべきであったのかも知れません。
加えて第4の要因とされるのが、肥料価格の上昇です。確かに、国際市場における状況の変化から、2022年をピークに著しい肥料価格の上昇が起きています(サプライチェーンの寸断リスクやEU、ブラジル、中国、インド、ロシア等の動向が影響・・・)。しかしながら、この点についても、2023年には平年レベルに低下しており、国際価格の影響は薄らいでいます。また、同様に肥料価格の高騰に見舞われた2008年にあって日本国内における米価への影響が全く見られませんので、この説明も説得力に乏しいのです。
以上に、米価高騰に関する幾つかの主要な説を見てきましたが、何れも、著しい米価の高騰を招く要因としては根拠が弱く、かつ、政府の無策が目立ちます。これらの他にも運送費等の上昇説もありますが、この説も、他の商品価格の高騰率と比較しますと、説得力を失います。そして、さらに要因を突き詰めていきますと、長期に亘る減反政策のみならず、米先物市場の開設、農協並びに農林中金の巨額赤字問題、米製品の輸出促進など、農政全般の問題が浮かび上がってくるように思えるのです(つづく)。