世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。
日中関係「新段階へ押し上げる」=TPP新協定、早期発効に努力―安倍首相
中国では、先月の18日に首都北京で開催された中国共産党第19回代表大会を機に、習近平国家主席が権力基盤を固めたとする見方が有力です。その自信の現れか、アメリカのトランプ大統領の訪中に際しては、あたかも“皇帝”のような振る舞いで同大統領を手厚く歓待したと報じられております。
特に耳目を集めたのは、紫禁城(故宮)を舞台とした豪華絢爛な接待です。一般の国民には公開されていな特別の部屋において催された夕食会は、かつての紫禁城の主であった皇帝主催の宴会を髣髴させるほど、贅を尽くした宴であったことは想像に難くありません。アメリカに対しては自国の威信を示すと共に、国民に対しては自らの権威を高める絶好の機会と見なしたのでしょう。習主席を主人公とする“中国の夢”への舞台の幕が開いたかのように。
しかしながら、この過剰な演出は、習主席の自己矛盾を炙り出すこととなったように思えます。何故ならば、今日の中華人民共和国とは、同国の憲法の前文にも謳われているように、過去の中華帝国(封建帝政)との決別と否定の上に成立しているからです。しかも、紫禁城は、漢人にとっては異民族となる女真族が建国した清国の皇帝の居城です。首都北京も、女真族の金朝が燕京として首都とし、その後、元朝のフビライ・カーンが大都を造営しており、異民族支配の色彩が強い都市とも言えます。今日の中国の積極的な海洋進出は、明朝時代の永楽帝による鄭和の遠征を模しているのかもしれませんが(朱姓はユダヤ系とも…)、このような習主席の復古趣味は、“中国の夢”とは、それが異民族支配であれ、絶対権力者である皇帝が君臨する帝政への回帰ではないか、とする疑いを国民に抱かせることでしょう。
加えて、故宮での豪華絢爛な饗宴は、近年、習政権が進めてきた“贅沢は敵”の綱紀粛正政策にも反しています。一般国民や他の共産党員には質素倹約を強要する一方で、自らは、皇帝さながらに贅を極めるようでは、示しがつかないこととなります。中国国内では、習主席の権力掌握と並行するかのように情報統制が強化されており、それは、逆から見ますと、国民の不満が高まっている証ともなります。
今日の中国は、共産主義が約束した“平等”とは、結局は、プロレタリアート独裁を名目とした、独裁者、あるいは、共産党員という一部の特権階級の出現に過ぎなかったことを、自ら証明しているようなものです。平等が不平等となり、過去の否定が未来の理想となる現実は、中国のみならず、目的地と到着地が逆になり、右に行ったつもりが左に至るといった、今日の政治の世界で散見される“二重思考”、“逆転思考”あるいは、“循環戦略”ともいうべき詐術的政治手法への警戒感を、厭が応でも高めているように思えるのです。
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韓国軍 亡命の北朝鮮兵士は徒歩で軍事境界線越え
朝鮮半島における有事が現実味を帯びる中、厚生労働省は、北朝鮮からの難民の日本国内への流入を想定し、収容施設内の感染症対策の検討に入ったそうです。大量難民の発生は、朝鮮半島有事に伴うリスクとして指摘されてきましたが、そもそも、こうした事態は、韓国政府が北朝鮮難民を“自国民”として扱えば起き得ないのではないかと思うのです。
厚生労働省が推定している北朝鮮難民数は数万人なそうですが、これらの人々は、小型船舶で日本海に漕ぎ出し、何処かの日本国北部の海岸、あるいは、島嶼に漂着するものと推測されます。その大半は、漁船を比較的自由に使用し得る北朝鮮の漁業民であるかもしれません。しかしながら、特に冬場ともなりますと日本海の波は高くなり、時化る日も多く、日本海を船で渡るには命にかかわるほどのリスクが伴います。有事であれ、一般の北朝鮮国民に取りましては、渡航による日本海横断という逃避ルートは必ずしも安全ではないのです(有事に際しても戦闘に巻き込まれて命を落とすよりも死亡する可能性が高いかもしれない…)。
こうした事情を踏まえても、数万人規模の北朝鮮難民の流入には疑問符が付くのですが、当事国である韓国は、北朝鮮難民の発生をどのように考えているのでしょうか。韓国は、公式には自国を朝鮮半島における唯一の正当な政府と見なしていますし、将来的には南北統一を目指す立場にあります(韓国憲法第4条)。この立場からすれば、有事に際して北朝鮮難民に対して保護を与える第一義的な責務は、韓国政府にあるはずです。
ここで思い出されるのは、ドイツの東西再統一のケースです。汎ヨーロッパ・ピクニックに始まる東ドイツ国民の国境越えは、東西を隔てていたベルリンの壁の崩壊へと繋がり、遂に東ドイツの瓦解をも招きましたが、朝鮮半島有事に際しても、韓国政府が38度線を開放すれば、北朝鮮の体制は動揺をきたすはずです。そして、押し寄せる北朝鮮国民を韓国政府が速やかなに受け入れ、自国民として保護すれば、北朝鮮難民問題をも未然に防ぐことができるのです。先日も、北朝鮮兵士が38度線を越えて亡命していますが、韓国政府は、来る有事に備え、38度線周辺における北朝鮮国民の輸送ルートの確保や収容施設の建設等の対策を急ぐべきではないでしょうか。また、事前に北朝鮮国民に向け、38度線を開放する用意がある旨の情報を流せば、その効果は倍増するはずです。有事に際しての北朝鮮国民による大量の38度線越えは、戦時下にある北朝鮮を内部から混乱させ、金正恩体制の崩壊をも早めるかもしれないのですから。
今般、予測されている米軍による対北武力行使は、首都ソウルへの砲撃など、一時的には北朝鮮が攻勢に出るものの、米軍勝利の内に短期間で決着が付くと予測されています。また、昨今の中韓関係の改善によって、たとえ朝鮮戦争時の如くに中国の軍事介入があったとしても、人民解放軍が韓国領内にまで進軍する可能性も低下しています。有事に際して韓国が崩壊するシナリオ、即ち、韓国難民の大量発生のリスクが低下した現状にあればこそ(首都の暫定的な移転はあるかもしれない…)、韓国政府は、北朝鮮国民を十分に保護できる状況にあります。もっとも、“偽装難民”には十分に注意し、チェック体制を完備する必要はありましょう。
朝鮮半島の問題は、朝鮮半島において解決するのが望ましく、韓国政府は、日本国を含む周辺諸国にリスクや負担を転嫁することなく、自らの責任の下で、予測される北朝鮮難民問題に対して万全の対応を講じておくべきなのではないでしょうか。
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南シナ海問題仲介に意欲=米越首脳、北朝鮮問題など協議
トランプ米大統領は、アジア歴訪第4番目の訪問国であるベトナムにおいて、南シナ海問題に関する極めて微妙な発言をいたしております。その発言とは、「仲介や仲裁が必要なら、いつでも知らせてほしい」というものです。
南シナ海問題については、国連海洋法条約第15部に基づくフィリピンの提訴により常設仲裁裁判所において裁判が行われ、2016年7月12日に、中国の主張する「九段線」等を完全に否定する判決が下されております。トランプ大統領の上記発言の真意は不明ですが、仮に、トランプ大統領の云う“仲介や仲裁”が、同判決を白紙にして新たにアメリカが仲裁の役割を担うという意味であるならば、国際社会は重大なる危機を迎えます。言わずもがな、それは、国際法秩序の事実上の崩壊をもたらすからです。
“敗訴”となった中国は、仲裁裁判の判決を“紙屑”扱いしておりますが、アメリカまでもが同判決の効力を否定するとなりますと、米中揃って国際法秩序を蔑にしたことになります。云わば、中国が提案した“新たな大国関係”にアメリカが同意したようなものであり、先に批判的であったロシアを加えますと、軍事大国3国が法の支配の否定において揃い踏みとなるのです。法というものが、強きも弱気も等しく権利を保障する存在であることを想起しますと、大国による法の無視ほど中小国にとりまして危険な状況はありません。国家間の軍事力に著しい差がある場合には、“話し合い”という平和的手段も、軍事力を背景とした脅しの場となるか、得てして政治力学に従うのが常です(強国が弱小国の正当な権利を奪う事態に…)。この危険に満ちた状況が、今まさに出現しようとしているかもしれないのです。
南シナ海問題も、アメリカが誠実な仲介や仲裁役を務めたとしても、米中協力の下では、中国の主張を配慮せざるを得なくなることでしょう。上記の国際仲裁で否定された「九段線」が完全、あるいは、部分的に復活し、法的、並びに、歴史的根拠が皆無であるにも拘わらず、中国は、南シナ海で一定の権益を確保することでしょう(仮に、尖閣諸島問題でも同様の方法が提案されるとすれば、日本国は、中国に対して同島の凡そ半分を割譲させられる可能性がある…)。中国は、公海まで侵奪しているのですから、この行為がアメリカの仲介や仲介において許容されれば、その被害は、東南アジア諸国のみならず、国際社会全体に及びます。また、トランプ大統領の発言は、“仲介や仲裁の必要”がなければ、アメリカは介入しないと言うメッセージと解される可能性もあり、南シナ海問題からアメリカを排除したい中国は、陰でほくそ笑んでいることでしょう。
本来であれば、アメリカを始めとした国連安保理常任理事国が判決の執行を引き受けてもよいぐらいなのですが、同大統領の発言が以上の意味であるならば、事態は至って深刻なのですが、別の解釈も成り立たないわけではありません。何故ならば、常設仲裁裁判所での判決は、直接には領有権問題には踏み込んでいないからです。つまり、同判決は、国連海洋法条約上の権利上の争いについては判断を示したものの、南シナ海における各国の領有権争いは未解決であり、この解決のために、先の仲裁判決を判例としつつ、アメリカ大統領が仲介や仲裁を引き受けるとする文脈であれば、同大統領の発言は、上記の危機的状況を招くことはないのです。トランプ大統領の本意が後者であることを願うばかりなのです。
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中国の習主席、韓国に北朝鮮との対話再開促す=新華社
トランプ米大統領がアジア歴訪の第三番目の訪問国である中国を離れ、APECへの参加のために次なる訪問国であるベトナムへと向かったまさにその日、同様に同地を訪れていた中国の習近平国家主席は、韓国の文大統領と会談し、北朝鮮との対話を再開するよう要請したと報じられております。果たして、この中国の行動は、何を意味するのでしょうか。
第1の憶測は、アメリカではなく、中国の単独行動です。トランプ大統領の訪中に際し、アメリカ側の対北武力行使の決意が固いことを察知した中国が、先手を打って北朝鮮の非核化に動いたとする見方です。この見解では、アメリカの軍事的圧力は、北朝鮮ではなくその背後の中国に対して強力に働いたこととなります。この際、敢えて韓国に対してメッセンジャー役を“命じた”のは、中国が表舞台で直接に働きかければ、自国が北朝鮮の核・ミサイル開発の黒幕であったことが露呈するからなのでしょう。中国は韓国に対し、禁輸措置等の用意があるとする趣旨の北朝鮮宛てのメッセージを託すはずです。あるいは、韓国の同盟国であるアメリカを出し抜くために、北朝鮮問題の混乱に乗じて韓国を含む朝鮮半島全域を自国の勢力圏に取り込んだことを内外に示すためのアピールであった可能性もあります。
第2の憶測は、中国の単独行動ではなく、アメリカの同意の下における中国主導の問題解決である可能性です。報道に因りますと、トランプ大統領は、ベトナムへと向かう途上の大統領専用機の機内おいて記者団に対し、習主席を“賢い”として絶賛したとされています。先の米中首脳による共同会見では、非核化の手法に関して両者の立場の違いが鮮明となりましたが、北朝鮮問題に関する協議には相当の時間が割かれたものと推測されます。この時、両者の間で、非公式ではあれ、かの“キッシンジャー構想(中国構想か?)”を基本路線とした合意が成立し、中国による北朝鮮の非核化(石油禁輸等の経済制裁の徹底か?)と巨額の商談(貿易不均衡問題の解決)等と引き換えに、アメリカが中国に対して朝鮮半島からの米軍撤退を約したのかもしれません。このケースでは、北朝鮮危機を背後から操った中国、あるいは、その背後の勢力の巧妙な演出によって、キューバ危機と同様に共産主義が勢力を拡大する結果をもたらします(あるいは、壮大なる茶番なのか…)。もっとも、米韓同盟を負担、かつ、背信リスクと認識しているアメリカが、この提案を“渡りに船”とし、これに乗った可能性も否定はできません。
もう一つの米中合意の憶測は、中国が、アメリカ主導の対北武力行使を認め、かつ、人民解放軍の不介入を約したというものです。この見方に従えば、米軍の対北武力行使に先立って、アメリカが国際世論を納得させるために対話路線の限界を中国に演じてもらう、あるいは、中国側が自らの外交努力を国際社会にアピールするために、パフォーマンスとして北朝鮮にメッセンジャーを派遣したことになります。もっとも、この合意が“キッシンジャー構想”の武力解決バージョンであれば、朝鮮半島全域の“戦後処理”の問題が残されます。
第3に推測されるのは、米中首脳会談やロシアの動向によって対話路線の限界を察知した中国が、韓国、あるいは、南北両国にその失敗の責任を押し付けたとする見方です。このケースでは、中国は、経済制裁であれ、対話であれ、自国の影響力では北朝鮮に核・ミサイル開発を放棄させるのが極めて難しいことを自覚しており、それ故に、ポーズだけでも対話路線の体裁を見せるために、韓国に交渉役を任せたのかもしれません。
以上に述べた諸見解は憶測の域を出ませんが、何れにしても、北朝鮮問題の解決、並びに、その後の朝鮮半島の状況によって、アジアの政治地図は一変します。日本国への影響も甚大ですので、今般のトランプ大統領アジア歴訪に関する情報収集と的確な分析こそ、急がれるのではないかと思うのです。
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新協定、20項目凍結=6カ国締結で発効―名称は「包括・先進的TPP」
トランプ米大統領が正式に脱退を表明したことで暗礁に乗り上げたTPP。ベトナムのダナンで開催されている今般のAPECでは、カナダのトルドー首相が難色を示したことで予定されていた首脳会合は中止となりましたが、新協定の名称は「包括・先進的TPP」に決まったそうです。
TPPについては、当初に合っては、台頭著しい中国に対抗するためのアメリカを中心とした地域的広域経済圏の形成としての意義が強調されておりました。レベルの高い地域経済圏を形成することで、通商分野における貿易ルール造りの主導権を握り、外部圧力として中国を牽制すると共に、関税撤廃や関税率の大幅な引き下げにより参加国が共存共栄を図ろうというものです。しかしながら、この理想は、今やかつての輝きを失っているように思えます。
産業の空洞化現象は、世界に先駆けて地域経済圏を形成したEUにおいて、既に域内問題として人々の頭を悩ませてきました。また、NAFTAでの苦い経験もトランプ政権を以ってアメリカがTPPから離脱する最大の要因となりましたが、産業の空洞化に加え、同枠組で問題視されたのは、域外国企業の経営戦略です。アメリカ市場への無関税輸出を目的とした域外国企業の進出がメキシコに集中したため、製品価格や労働コストで劣位となる米企業を苦しめ、アメリカ人の雇用を脅かすこととなったのです。こうした実例に基づく実証的な根拠に加えて、理論的にも、リカード流の古典的な比較優位説は、そのメカニズムにおいて劣位産業の淘汰が生じる以上、ウィン・ウィン関係の成立要件は極めて限られていると言わざるを得ないのです。
地域経済圏は、現実と理論の両面から“揺らぎ”の中にありますが、以上の諸点から予測されるTPP11のリスクとは、“自由で開かれた市場”を謳う限り、当然に、域外国、特に中国や韓国といった近隣諸国の企業が最大の受益国となる可能性が高いことです。その徴候は、既に、APECにおける中国の習近平国家主席の演説に見られ、自らを自由貿易主義の旗手と位置付け、多角的な地域経済圏の形成に向けた並々ならぬ意欲を示しています。一時は不参加を表明したものの、TPP11への参加と主導権把握を狙っているとの憶測も報じられており、中国がTPP11の成立をチャンスと見なしている様子が窺えます。
さらに、従来韓国企業が積極的に進出してきたベトナムでも、近年中国企業の進出が目立ってきており、TPP11の成立を見越した動きとも推測されます。TPP11を巧みに利用すれば、中韓の企業は、自らの国内市場においては関税障壁や一方的規制によって手厚く守られる一方で、製造拠点をTPP11域内の諸国に移転させることで、TPP11の加盟国市場に対して輸出攻勢をかけることができるのです。経済分野における対中国包囲網どころか、その結果は全くの逆となるかもしれません。
TPPへの参加については、劣位部門となる農業部門ではマイナス影響を蒙るものの、日本企業にとりまして輸出・投資チャンスの拡大によるプラス効果が期待できるとも説明されてきました。しかしながら、TPP11が発足した場合、日本企業は、国内市場においても他の加盟国から無関税で流入してくる中韓企業との熾烈な競争を強いられることとなります。場合によっては、競争力、特に、価格競争力に劣る日本企業の殆ど全てが“淘汰産業”となる可能性もないわけではありません(しかも、取り纏め役として既に譲歩を強いられている…)。
報道に因りますと、年明けには署名式に漕ぎ着けたいそうですが、TPP11は中韓企業の“トロイの木馬”となるかもしれず、地域的な経済関係にあり方については、拙速な判断は禁物のように思えるのです。
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米中首脳会談 北朝鮮問題で温度差が浮き彫りに
トランプ米大統領のアジア歴訪の山場でもあった米中首脳会談では、注目されていた北朝鮮問題については、両国間の立場の隔たりが浮き彫りになったようです。同大統領が対北武力行使に含みを持たせる一方で、習近平国家主席は、あくまでも経済制裁と“対話”による解決という従来の立場を崩さなかったのです。
朝鮮半島情勢は、北朝鮮が対米核攻撃可能なICBMを実戦配備するまで残された時間は1年余りとされ、トランプ大統領自身も、時間が経てば経つほどリスクが増大し、もはや時間的な猶予がないことを認めております。最悪の状況とは、中国側の主張を尊重したばかりに“時間切れ”となり、中国の云う“対話”は、北朝鮮の核・ICBM保有を前提とした交渉に変じてしまうことです。仮にこうした事態に至っても、中国は、“騙された方が悪い”と開き直ることでしょう。
もっとも、仮に、今般の首脳会談後、中国が対北経済制裁を徹底し、その結果、即、北朝鮮が核・ICBMの開発放棄を前提とした交渉に応じる可能性もありますが、ロシア側の出方次第では、この手法は通用しません。北朝鮮は、同国の核保有を容認するロシアを唯一の庇護国と見なし、非核化はむしろ遠のくことでしょう。また、中国の制裁強化の効果として短期間で北朝鮮が態度を変更したとすれば、国際社会において黒幕が中国であるとする印象は強まります(かくも容易に北朝鮮に核放棄をさせる力が中国にあるならば、何故、先にそれをしなかったのか?中国は、結局、アメリカ、並びに、国際社会を欺いたのではないか?)。
何れにしても、アメリカは、重大な決断を迫られることとなりますが、中国の容認なき武力行使を決意した場合、最大の問題点となるのは、第三次世界大戦に発展しかねない中国の軍事介入です。仮に、米軍単独による軍事制裁に伴うこのリスクを最低限に押さえるためには、アメリカは、中国の介入を極力抑えるべく、国際社会の支持を得るに越したことはありません。その一つの手段が、武力行使に先立ってアメリカの自国の正義と国際法上の合法性を明確にし、併せて、多くの諸国や人々が同意し得る戦後構想を公表することです。因みに、第二次世界大戦にあっては、大西洋憲章や大東亜共同宣言が公表されており、戦争の大義が掲げられると共に、陣営や国民を纏める求心力ともなりました(大東亜共同宣言にも、アジアにおける反植民地主義において人類史的な大義があったが、今日の北朝鮮に正義は皆無…)。
この構想が万人が納得し得るものである限り、中国に対する心理的圧力として作用し、北朝鮮擁護のための軍事介入を躊躇わざるを得ない状況に置かれることでしょう。もっとも、各国のマスメディアには、チャイナ・マネー、並びに、リベラルの影響が浸透しており、米軍による単独武力行使には批判的でしょうが、第三次世界大戦を招きかねない中国の軍事介入には、“平和主義”の建前から反対せざるを得ないはずです。
国際社会の安全が確かとなり、国際法秩序が維持され、かつ、狂気に囚われた独裁者が支配するカルト国家による軍事的脅威から解放されるならば、多くの諸国、並びに、人々は、アメリカの単独軍事行動に正義を認めることでしょう。正義の問題提起は、近年、マスメディアが創り出した風潮によって疎んじられる傾向にありましたが、正義の如何は、想像以上に重大な影響を及ぼします。アメリカは、暴力に対抗するための正義の力の必要性を説くことで、北朝鮮問題の解決に臨むべきではないかと思うのです。
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北の非核化で米中合意、商談成立も…首脳会見
アメリカのトランプ大統領は、アジア歴訪の第三番目の訪問国となる中国を訪れ、中国の習近平国家主席との首脳会談に臨んでいます。報道に因りますと、懸案となっていた貿易不均衡問題では、米中間において28兆円規模の商談が纏まる見込みなそうです。
その一方で、米中首脳会談においては、政治分野における北朝鮮問題について両者間で何らかの協議が持たれるものと憶測されています。一年前の選挙戦では単独主義を掲げてきたトランプ大統領も、対北武力行使に関して中国の了解を得るために訪中を日程に入れたとの観測もあり、アジア歴訪の主要目的とも目されております。
実際に、同大統領のアドヴァイザーともされるキッシンジャー元国務長官は、今年8月のウォールストリート・ジャーナルにおいて米中合意にもとづく米軍の武力行使による北朝鮮の非核化構想を掲げており、この路線を実践している可能性も否定できません。「キッシンジャー構想」と称される北朝鮮問題解決案とは、米中は北朝鮮の非核化について了解し、完全なる北朝鮮の核放棄を実現すると共に、同問題の解決後には、旧北朝鮮地域に対して米韓軍は配備しない、あるいは、韓国を含む朝鮮半島全域から米軍を撤退させるとする案です。
キッシンジャー元国務長官は米政界の親中派の重鎮として知られ、70年代以降の米中関係においてキーパーソンとしての役割を果たしてきただけに、同構想が想定する米中ディーリングの結果、即ち、今後のアジアの政治地図は、中国にとって有利な情勢となると予測されます。同氏は、非核化の具体的な方法については触れてはいませんが、経済制裁の強化が本命なのでしょう。今般の首脳会談でも、中国側がさらなる対北経済制裁に踏み込む姿勢を見せているようです。
しかしながら、経済制裁が行き詰まるとすれば、米軍、あるいは、人民解放軍の単独、あるいは、米中両軍による北朝鮮地域の軍事占領もあり得る展開となります(解決後の米軍配備について触れているので、武力行使も想定内と推察される)。この結果、アメリカは、北朝鮮の非核化によるICBM等による核攻撃を受ける可能性を排除することはできますが、非核化に伴う軍事コストについては、米中共同であれば分担、単独であれば全面的に背負わされます。この結果、少なくない人的、並びに、物的犠牲が払われることでしょう。同盟国である日本国も例外ではなく、北朝鮮危機の解決には安堵しても、米軍の武力行使に対する北朝鮮の報復攻撃を受けるリスクや難民問題の発生というリスクを引き受けざるを得ないのです。
一方の中国は、北朝鮮非核化の受益者となると共に、ロシアとの利害調整は要しますが、朝鮮半島全域を自国の勢力範囲に含める道筋も見えてきます。北朝鮮問題に関して国際社会からの批判に耐えられなくなった中国は、“黒幕”として表舞台に引きずり出されるよりも、軍事力による北朝鮮問題のあっけない“消滅”を望んでいるのかもしれません。一方、韓国に関しては、長らく冊封体制の下で属国であった歴史から中国に靡く傾向にあり、その伝統的な事大主義は、東アジア地域や同盟関係を常に不安定にしてきました(既に韓国は中国に屈している…)。この点を踏まえますと、朝鮮半島全域の中国陣営入りは、韓国に翻弄されてきた日米にとりましても必ずしもマイナスではなく、“痛し痒し”となりましょう。加えて、同構想では、国際法秩序の現下の危機である南シナ海問題への言及がないところにも不安があります。
「キッシンジャー構想」は、米中で全ての問題を“話し合い”で仕切るという中国が提唱する“新たな大国関係”の基本構図とも一致しています。しかも、北朝鮮の非核化に際して両国による共同軍事行動が選択された場合、中国が秘かに望んでいるとされる“米中同盟”の姿さえおぼろげながら浮かんできます。誰にも悟られないように目的達成に向けて誘導してゆく巧妙な手法は、近代外交史の専門家であったキッシンジャー元国務長官の真骨頂かもしれません(もっとも、中国、もしくは、中国に利権を有する勢力の”目的”なのでは…)。
首脳会談の全容は明らかにはされてはいないものの、米中間の商談成立の情報は、米中間の歩み寄りを示唆しており、あるいは、「キッシンジャー構想」を基本路線とした何らかの合意に達したのかもしれません。朝鮮半島が将来的には中国勢力圏に組み込まれるにせよ、北朝鮮問題の解決後にこそ、国際法秩序、即ち、人類の運命を左右する正念場が訪れるのではないかと思うのです。
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米大統領、元慰安婦を抱擁=歴史問題クローズアップ―韓国
アメリカのトランプ大統領は、アジア歴訪の最初の訪問国である日本国を発ち、次なる訪問国である韓国に到着しました。北朝鮮問題の緊迫化を考慮すれば、大統領訪韓を機に日米韓の結束が謳われるはずなのですが、当地の様子は、一般の常識的予測とは随分と違っているようです。
まずもって驚かされたのは、晩餐会(公式夕食会)における韓国人元慰安婦の招待、並びに、“独島エビ”のメニューです。大統領主催の晩餐会とは外交上の行事ですので、元慰安婦の招待は昨年末の日韓慰安婦合意に反する行為ですし、“独島エビ”は、明らかに日韓間の国際紛争である竹島問題を米韓関係に持ち込んでおります。“反日晩餐会”といってもよい程の過剰な反日演出なのですが、この意図するところは、何処にあるのでしょうか。
韓国側には、少なくともトランプ大統領を賓客として温かく迎え、心置きなく楽しんでもらうつもりは毛頭ないようです。慰安婦問題も竹島問題もアメリカは当事者ではありませんので、晩餐会の席において日韓の対立関係を仄めかす言動があったとすれば、そこには、明らかなるホスト国である韓国側からの政治メッセージが込められていると解するしかありません。それは、両問題については、“アメリカには韓国側の立場を支持してほしい”、あるいは、“韓国と対立している日本国とは距離を置いてほしい”、というメッセージとなります。日韓ともに同盟国とするアメリカは、二者択一を迫るようなこの種のメッセージには当惑するしかなく、せっかくの晩餐会の豪華なメニューの品々も喉を通らなかったかもしれません。
何かと日本国に対してライバル心を燃やしている韓国の世論からしますと、韓国側の政治的メッセージは前者であり、晩餐会における反日アピールは、韓国政府が“国民受け”を狙ったものとも推測されます。しかしながら、日韓関係の悪化は今に始まったことではなく、過去における歴代米大統領の訪韓に際にはこうした露骨な反日演出はありませんので、他の要因が強く働いたものと推測されます。そしてそれこそが、第三番目の訪問先となる中国の意向なのではないかと思うのです。
トランプ大統領のアジア歴訪に先立って、韓国は、THAAD運用の対北限定や日米間の軍事同盟化の否定など、中国に対して決定的な譲歩を見せています。THAAD配備をめぐって冷却していた中韓関係は大幅に改善される見通しとなりましたが、このことは、韓国が軍国主義国家中国の軍門に下ったことを意味します。すなわち、米韓関係の手前、韓国側は、朴前政権と同様に“バランス外交”の名目を以って親中政策を採っていますが、対中包囲網の一翼を担う国として、日米ともに韓国に期待することはもはや不可能となったのです。
直近の中韓関係の劇的な改善を考慮しますと、今般の韓国側のトランプ大統領に対する“反日晩餐会”の演出は、今般の訪中を機にトランプ大統領に“新たなる大国関係”への合意を迫ると同時に、対中包囲網となり得る日米、日韓、米韓の二国関係から日米韓の多角関係まで、全ての関係をずたずたに寸断したい中国にとっての“接客”の第一歩なのでしょう。トランプ大統領は、権謀術数が渦巻き、客人と雖も一瞬の油断も許されない中国という国の玄関口に、既に足を踏み入れているのかもしれないのです。
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今月5日、国際調査報道ジャーナリス連盟によって公表された「パラダイス文書」には、英国のエリザベス女王もその名を連ねており、第二の「パナマ文書」の衝撃が世界を走ることとなりました。租税回避地におけるオフショア投資に関する同文書には、著名な王族、政治家、企業家、芸能人などの名が確認されているそうです。
「パラダイス文書」をめぐる謎の一つは、現在報道されている情報を見る限り、中国の共産党幹部の名前が見当たらないことです。今や世界第二位の経済大国と化し、かつ、その活動もグローバル化した今日の中国の“実力”からしますと、どこか不自然なのです。習政権が推進してきた反腐敗運動の成果と見る向きもあるかもしれませんが、同文書には、現下に限らず、過去に遡った情報も含まれております。
もっとも、政治家ではないものの、中国人女優の名が挙がっていたのに加えて、日本国の鳩山元首相の関連の件において、中国系企業の名が登場しています。同企業とは、香港で上場している「凱富能源集団」という資源関連の企業であり、中国国有の石油企業と共同で油田やガス田の開発事業等に携わっているそうです。鳩山元首相の“東シナ海を友愛の海にしよう”とする呼びかけも、東シナ海が石油や天然ガス等の資源の宝庫なだけに、この発言の裏には、自らへの利益誘導が疑われるのですが、資源・エネルギー開発の分野には多額の資金を要することに加えて、政治的利権、即ち、汚職の温床ともなりがちです。利権と結びついた汚職が半ば政治文化と化してきた中国の企業が、「パラダイス文書」において同社一社に留まるとは思えないのです。
「パナマ文書」の公表に際しては、習近平国家主席をはじめ、共産党幹部やその親族の名があったことから、中国国内では、同文書関連の情報は徹底的に統制されました。反腐敗運動を展開していた最中でもあり、腐敗撲滅の旗振り役であったトップ自身が腐敗していたのでは、共産党一党独裁体制をも揺るがしかねない権威の失墜ともなります。そこで、共産党幹部は、「パナマ文書」は、国民には知られてはならない情報として封印しようとしたのでしょう。
今般公表されたのは、「パラダイス文書」の極一部に過ぎず、中国共産党幹部やその親族の有無を確認するには、後日、全情報が公表されるのを待たねばなりません。しかしながら、チャイナ・マネーの影響が強いとされるマスメディアが、敢えて中国に関心が向くことを避けようとしている様子から推測しますと、最も「パラダイス文書」の全情報公開を恐れて、マスコミに圧力をかけ、戦々恐々としているのは、習近平国家主席を含む、中国共産党幹部なのではないかと思うのです。
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「反トランプ」に留意を=自民・石破氏
報じられるところによりますと、石破元自民党幹事長は、来日中のトランプ米大統領に対する安倍首相の破格の厚遇について、米国内におけるトランプ政権の低支持率を取り上げ、“留意すべき”とする見解を示したそうです。“必ずしも国民の全幅の信任を得ていない”として…。
同氏の発言の行間を補いながらより、詳しく書き直してみますと、「ロシア疑惑なども影響しているためか、昨今の世論調査によるとトランプ政権の支持率は低く、トランプ大統領は、アメリカ国民多数の支持を得ているわけではない。日本国政府は、トランプ政権よりもアメリカの世論に応える外交政策を遂行すべきであり、訪日中のトランプ大統領に対しても、特別な待遇でもてなす必要はないのではないか」ということになります。言い換えますと、“トランプ大統領冷遇の薦め”となります。
しかしながら、氏の見解には、疑問があります。そもそも、アメリカのマスメディアによる世論調査は、大統領選挙に際して露呈したように信頼性や正確性に欠けております。また、全ての政策に対する国民の評価を支持・不支持の選択だけでは調査できないという、世論調査の手法上の限界もあります。こうした点を踏まえましても、支持率の高低のみを根拠とした主張には警戒すべきなのですが、外国からの賓客に対して当該国内の支持率のみを以って待遇を変えてもよいのか、という儀礼、あるいは、道徳的な問題も提起されましょう。仮に、待遇支持率決定論に従えば、全体主義国家では指導者に対する不支持はあり得ず、支持率は公式には凡そ100%となるので、各国とも、独裁者に対して最大級の待遇を以って饗応せねばならなくなります。
一方、日本国内の一般国民を見ますと、核・ミサイル開発問題を解決するために対北朝鮮政策に対する武力行使は致し方なしとする意見は決して少数派ではなく、就任以来、隘路に嵌っていた北朝鮮問題解決のために、大胆に政策を転換させたトランプ政権に対する期待感がないわけではありません。先の衆議院選挙における自民党の勝因の一つも、同党が掲げた対北強硬政策にありました。見方を変えれば、日本国政府は国内世論には応えたのですから、批判には当たらないこととなります。否、アメリカの一般国民に対して、日本国側が日米同盟を安全保障の要として重要視し、現政権の対北政策等を支持していることを示すためにも、米大統領に対する手厚いもてなしがアメリカ国内で報じられることは無益ではないはずです。
以上より、石破元幹事長の支持率に比例した“冷遇の薦め”には首肯しかねるのですが、同氏の本音は別のところにあるのかもしれません。何故ならば、この発言に続けて、対中、並びに、対韓関係の強化を提言しているからです。発言の全体を読みますと、氏は、トランプ政権が進めてきた対北戦略的忍耐政策の放棄や対北武力行使等に反対しているのであり、“冷遇の薦め”の真の理由は支持率低迷ではなく、トランプ共和党政権の政策方針そのものにあるのではないかと推測されるのです。
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トランプ米大統領、初来日=6日に安倍首相と会談―北朝鮮にらみ結束確認へ
本日、アメリカのトランプ大統領夫妻は、大統領専用機であるエアフォースワンから米軍横田基地に降り立ち、アジア歴訪の最初の訪問国である日本国に到着しました。アジア諸国への訪問は大統領就任以来初めてであり、東アジア・サミットの出席を予定しているために内外の関心集めていますが、今般のアジア歴訪は、それ以上の意味があるように思えます。何故ならば、今後のアジア全体の凡その勢力図が、トランプ大統領の歴訪によって決定づけられる可能性が高いからです。
先日、中国と韓国は、THAADの配備問題で悪化してきた両国関係の改善を発表しております。配備に反対する中国から執拗な経済制裁を受けてきた韓国側が音を上げた形での合意となりましたが、それは、取りも直さず韓国が半ば中国の軍門に下ったことを意味します。懸案であったTHAAD問題については、韓国側が中国側の懸念に留意するとし、THAADの運用は対北朝鮮に限定する意向を示しています。この合意は、米韓同盟は対中関係では機能しないことを意味しており、韓国は、対中包囲網から脱落したものと考えざるを得ないのです。昨今、安全保障分野において日米印豪が防衛協力関係を強化しているのも、昨今の中韓の動きと無縁ではないのでしょう。トランプ大統領は、訪韓に際して文在寅大統領に米韓同盟の将来についてその見解を質すかもしれません。
そして、何より注目されるのが、トランプ大統領の中国訪問です。中国側はオバマ前大統領の訪中時とは打って変わって“熱烈大歓迎”で迎え、国賓を越える待遇でもてなすとも報じられており、米中首脳会談に臨む習近平国家主席の並々ならぬ意気込みが感じられます。おそらく、中国側は、今般の米中首脳会談こそ、“新たな大国関係”、即ち、米中両国による“世界二分割構想”への合意を迫る絶好の舞台と見なしており、それ故に、最大級の待遇を以ってトランプ大統領を迎える必要があるのでしょう。もしかしますと、北朝鮮問題をも取引の材料の一つとするかもしれません。
トランプ大統領が中国側の要請をそのまま受け入れるとは思えませんが、アメリカ側にとっても、米中首脳会談は、中国の真意を最終的に確認する重要な機会となるはずです。北朝鮮問題に対して中国側の協力を得られず、南シナ海問題においても何らの進展もなく、貿易不均衡の是正も望み薄となれば、アメリカは中国に対して完全に見切りを付け、中国封じ込め政策へと明確に舵を切るかもしれません(これは同時に、中国は、最早アメリカを“利用”できないことを意味する…)。アジア歴訪は、トランプ政権の対アジア政策の輪郭を明確にする可能性もあるのです。
以上に述べてきましたように、トランプ大統領のアジア歴訪の後、アジアの政治勢力地図が大幅に塗り替えられる可能性があります。中国が韓国を含む朝鮮半島を自らの勢力圏に含める一方で、それを外側から包囲するかのように日米印豪が連携を組むという新たな構図の出現も予感されるのです。あるいは、アメリカが北朝鮮問題の軍事制裁による解決を選択し、体制崩壊にまで持ち込むとしますと、朝鮮半島全域がアメリカの勢力範囲に入ります。中国が積極的に切り崩しを図っている東南アジアの足並みは乱れるでしょうが、米比相互防衛条約の下でアメリカの同盟国でもあるフィリピンは、同大統領の訪問を機に、韓国と同様に旗幟を鮮明にするよう迫られるかもしれません。一方、南シナ海問題でめぐり中国と鋭く対立しているベトナムは、今般の訪問を機に、親米路線をより明確にする可能性もあります。
何れにしましても、米ソ間の冷戦を背景として成立していたアジアの構図が劇的に変化するとしますと、トランプ大統領のアジア歴訪は、それを象徴する出来事として歴史に刻まれることとなるのではないでしょうか。
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教育無償化政策については、凡そ殆どの政党が、‘右向け右(左向け左か?)’の如く同じ方向を向いているようです。この方向性は国連の方針とも連動しているようですが、ここで思い出されるのは、民主党政権時代の2010年に起きた、“子ども手当”の支給対象をめぐる議論です。
同制度導入に際して問題となったのは、支給対象の原則を属人主義とするのか、属地主義とするのか、という議論です。この時、民主党政権では、従来の児童手当制度を踏襲したとはいえ、日本国内における養育者の居住を基準とする属地主義を選択しています。このため、出身国に子供が居住している外国人の親にも支給される一方で、日本に子供が居住しながら親が外国にいるケースには支給されないとう、不公平な事例も発生したのです。現在では、特別措置法の成立によって、外国に居住する子供への支給は廃止されましたが、子供だけが国内に残る後者のケースは未だに支給対象外のままです(名称こそは児童手当に戻されたものの、今日でも、制度そのものは継続している…)。
それでは、教育が無償化される場合、政策対象の範囲は、どのように定められるのでしょうか。幼児教育については、児童手当に倣って属地主義の原則が採用される可能性は高く、外国人を含む日本国内に居住する養育者が対象となるものと推測されます。一方、高等教育に関しては、仮に、学生が成人年齢に達している大学にまで無償化が及ぶとしますと、属地主義の原則を採用すれば、扶養者ではなく本人の居住地が基準となるかもしれません(留学生の場合、日本国内の外国人留学生は支給対象に含まれる一方で、海外の大学に留学した日本人留学生は対象外となる…)。あるいは、属地主義は、自然人ではなく、法人、即ち、学校の所在地が基準となる可能性もあります(朝鮮大学校も無償化?)。
しかしながら、今日の日本国を取り巻く状況の急速な変化を考慮しますと、属地主義の原則については、再考を要するように思えます。経済特区の設置や規制緩和に伴い、近年、急速に在日外国人の数が増え続けており、既に200万人を突破しています。入国管理法の要件緩和により、永住資格を有する外国人も増加傾向にあり、日本国が教育無償化を実施した場合、この傾向に拍車をかける可能性もないわけではありません。特に中国では“一人っ子政策”が廃止されたため、教育費がゼロとなる日本国での子育ては魅力となるはずです。
児童手当における国籍条項の撤廃については、日本国が1981年に加入した「難民の地位に関する条約」がしばしば根拠とされていますが、当条約の対象はあくまでも難民であり、移民一般ではありません。フランスなど、手厚い子育て支援の実施により人口が増加に転じた国もありますが、移民家庭の出産率の高さに因るところ大きく、結果的には国内の人口比の変化にも影響を与えています。教育無償化とはそれ自体が慎重、かつ、多面的な議論を要する政策ですが、無償化の対象に関する問題についても、諸外国に及ぼす影響を含め、国民的な議論を尽くすべきと思うのです。
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本日のダイアモンド・オンラインの記事に、「偶然や不確実性が戦争突入を加速させる!
新旧大国の関係と米中両国の今後を考える」と題して、ハーバード大学のグレアム・アリソン教授の著書、『米中戦争前夜』が紹介されておりました。同記事は要約ですので正確に本書の全内容を把握しているわけではないのですが、一読する限り、首を傾げざるを得ないのです。
アリソン教授は、キューバ危機を新たなモデル分析した『決定の本質』の著者として知られると共に、特にカーター政権の外交政策に強い影響を与えた実務家としての顔をも合わせ持っています。オバマ政権に至るまで、共和・民主を問わず歴代政権の国防長官の顧問を務めていますが、基本的には、対話路線を重視する民主党寄りの立場にあるようです。
そのアリソン教授が上記の近著において主張しているのは、米中武力衝突を念頭に置いた偶発的戦争の回避論です。とりわけ、“ツキディデスの罠”、即ち、既存の覇権国の、新興国に対する過度な警戒感とライバル意識が戦争の要因となる戦争心理に注目し、これを現代の米中関係に当て嵌めようとしているのです(ツキディデスとは、紀元前5世紀頃の古代ギリシャの歴史家であり、アテネ陣営対スパルタ陣営の構図で戦われたペロポネソス戦争の歴史を著している)。同著では、過去500年の歴史から16のケースを分析しており、同主張に説得力を与えようとしています。
しかしながら、同著は、現代という時代の国際社会にあっては、国際法秩序が存在していることを忘れているように思えます。米中が全面戦争に至るシナリオとして、(1)海上での偶発的な衝突、(2)台湾の独立、(3)第三者の挑発、(4)北朝鮮の崩壊、(5)経済戦争から軍事戦争への5つを挙げていますが、これらの何れにも、戦争勃発の要因としての中国による国際法違反行為(国際犯罪)が含まれてはいません。南シナ海における仲裁裁判の判決を無視した軍事基地化も、“海上での偶発的な衝突”に矮小化されているのです。
国内の治安維持と同様に、暴力を伴う犯罪に対しては、警察には、現行犯に対して物理的強制力の行使を控えるという選択肢はありません。況してや、犯罪とは偶発的出来事ではなく、得てして、周到な計画の下で実行されるのです。国際社会においても、中国が、“中国の夢”を実現するための長期戦略を練り、過去の歴代中華帝国に倣うかのように、その計画の実行段階として侵略行動に出た場合には、“戦わない”という選択肢はあり得ないのです。誰かが“警察”の役割を果たさなければならないのは言うまでもありません。
国際法秩序の維持の役割を置き去りにした本書の主張は、オバマ前米大統領の“世界の警察官放棄宣言”とも通底しています。中国のみならず米国もが、それが一部ではあれ、法の支配の確立に向けた国際社会の努力を忘れ、ツキディデスや孫子の生きた時代の感覚で現在の国際紛争を論じようとしているとしますと、フェアな法秩序を構築してきた人類の倫理的発展の歴史こそ無視しているように思えるのです。
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中国の習主席、北朝鮮との「関係発展望む」 金委員長の祝辞に返礼
ジョージ・オーウェルの『1984年』は、理想郷であるユートピアとは正反対の邪悪に満ちた世界を描くディストピアの代表作です。奇しくも中華人民共和国建国の年と同じ1949年に公表された同作品は、独裁者スターリンが君臨したソ連邦をモデルとしたとされています。
現在の中国の政治状況を見ますと、習近平国家主席は、同作品に登場する“ビッグ・ブラザー”に思えてきます。“ビッグ・ブラザー”とは、同小説の舞台であるオセアニア国の独裁者です。国民の前には自らの姿を現さないものの、常に国民を監視する存在であり、その顔写真のポスターは街の至る所に張られています。“ビッグ・ブラザーはあなたを見ている”というキャプション付きで…。
“ビッグ・ブラザー”のような豊かな黒い髭こそないものの、国民に対する自己顕示の強さは、習主席にも窺えます。先日開催された中国共産党全国代表大会において習氏の総書記再選出を伝える新聞の一面は、同氏の巨大な顔写真が掲載されたそうです(習近平ソングやバッジもある…)。同氏には、“習大大”という愛称があり、“大大”とは中国語では“おじさん”という意味のようですが、“大”は英語では“ビッグ”です。また、習主席への権力集中が強まるにつれ、情報統制の手法も『1984年』の世界に近づいており(オセアニア国ではテレスクリーンという装置が使用されている…)、国内でのスマホやSNS等の普及に伴い、内外の情報通信企業各社の協力の下で国民の言動をデータとして逐次監視できるシステムを整えつつあります。
そして、何よりも、今日の中国と『1984年』との共通点は、その“二重思考”にあります。オセアニア国もまた一党独裁体制なのですが、この政党のスローガンとは、“戦争は平和なり 自由は隷従なり 無知は力なり”の三つです。“二重思考”とは、理性に照らせば矛盾する正反対のものを同時に信じ込む思考方法であり、オセアニア国の国民は、政府の指導によってこの思考の訓練が課せられているのです。つまり、理性や論理性を強制力で捻じ曲げる訓練であり、国民に対する思考力の破壊行為と言っても過言ではありません。こうした詐術的な思考方法には、誰もが嫌悪感や反発を抱くものですが(難解で高度な思考方法を装いながら、その実態は、単なる嘘吐きの方便に過ぎない…)、共産主義国を見ますと、まさにこの忌まわしい“二重思考”が観察されています。中国も例外ではなく、平和を主張しながらその一方で軍拡を進める言動や、進歩的国家を目指しながら中華帝国へと回帰する矛盾は、“二重思考”以外のなにものでもないのです。
同作品は、冷戦期のアメリカにあって、ソ連邦の全体主義の欺瞞と恐怖を余すことなく描き出した反共の教材の役割をも果たしましたが、今日にあって、『1984年』は、中国、並びに、それを背後から支える国際勢力(新自由主義勢力?…)の危険性を伝えているように思えます。『1984年』の世界では、‘思考警察’が国民の‘思考犯罪’を取り締まっており、党の思想に反する考えを抱く者に対しては、強制収容所送りといった刑罰が科されます。習近平思想の登場とその学習の強要は、国家が本格的に国民の内面=思考の自由にまで踏み込むディストピアが、まずは現代中国において現実化する前触れなのかもしれません。
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報道に因りますと、トランプ米大統領のアジア歴訪を前にして、中国の崔天凱駐米大使は、ワシントンD.C.の中国大使館で開いた記者会見において、日米印豪の協力の下で進められている新たな「インド洋・太平洋戦略」に対して強く牽制したそうです。「中国の封じ込めを意図しているのであれば、どの国の利益にもならない」と…。
しかしながら、中国が、先般の中国共産党第十九回全国代表大会において習国家主席をトップとする軍事独裁体制を凡そ固め、同主席が“中国の夢”の実現を国家的目標として唱える以上、周辺諸国による中国封じ込め戦略は、当然の帰結としか言いようがありません。古今東西を見渡せば、膨張主義を掲げる軍事大国の出現に対しては、脅威に晒される周辺諸国が同国を“共通の敵”と見なして結束し、全方位から抑え込みにかかる戦略をとるのが常です。その典型的事例はナポレオン戦争であり、フランス帝国に対して6次にわたる対仏大同盟が結成され、最後には、同盟諸国が諸国民戦争においてナポレオンが築いた汎ヨーロッパ帝国を瓦解に追い込みました。中国が、自らの覇権主義政策と周辺諸国のリアクションとしての封じ込め政策との因果関係を理解していないとしますと、習近平思想こそ、合理的思考を自ら“封じ込め”ているのかもしれません。
崔大使は、中国封じ込めは“どの国にも利益にならない”と述べていますが、現実はその逆であり、中国という領土、あるいは、世界支配の野心を抱く国を封じ込めることは、“どの国の利益にもなる”のです。言葉のみではなく現実においても、中国は、仲裁判決を頭から無視して南シナ海の軍事拠点化を急ぐと共に、最新鋭兵器の開発を武器にして、全世界を視野に入れた軍事戦略を構想しているのですから。
中国、否、習近平国家主席は帝国主義の野心を隠さなくなり、今や、“封じ込め戦略”の要となるアメリカに対して米中間の新たな大国関係を再度持ち出し、同盟国の切り捨てを要求しています。アジア歴訪で予定されているトランプ大統領の訪中に際しては、中国側は、同大統領を国賓として手厚くもてなし、“世界1位と2位の経済大国の米中が協力関係を強化させる「歴史的な機会」になる”と述べているそうです。婉曲な表現ながらも、アメリカに対して、太平洋の東海域を含むアジア地域からの撤退と引き換えに、米中二大国による世界支配体制へと誘っているとも解されます。
人類史は、“封じ込め戦略”の成功例を示すと共に、失敗例をも残しています。“封じ込め戦略”の主たる失敗要因は、覇権国による同盟諸国側の包囲網の分断と弱体化にあります。そして、分断に成功すると、世界支配を最終目的とする覇権主義国は、一時的な妥協として口約束を与えたとしても、最終局面に至ればいとも簡単に反故にするのです。上述した中国によるアメリカの“取り込み”もこの同盟分断策の一環と推測されますが、中国優位体制が確立した途端、アメリカとの二大国共同支配構想も消えることでしょう。このような歴史の教訓に学ぶならば、共産主義国家中国という強圧的な全体主義国家による世界支配を阻止するためには、今こそ、同盟諸国は結束を強め(対中大同盟か)、“中国封じ込め戦略”を強化すべきではないかと思うのです。
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