新協定、20項目凍結=6カ国締結で発効―名称は「包括・先進的TPP」
トランプ米大統領が正式に脱退を表明したことで暗礁に乗り上げたTPP。ベトナムのダナンで開催されている今般のAPECでは、カナダのトルドー首相が難色を示したことで予定されていた首脳会合は中止となりましたが、新協定の名称は「包括・先進的TPP」に決まったそうです。
TPPについては、当初に合っては、台頭著しい中国に対抗するためのアメリカを中心とした地域的広域経済圏の形成としての意義が強調されておりました。レベルの高い地域経済圏を形成することで、通商分野における貿易ルール造りの主導権を握り、外部圧力として中国を牽制すると共に、関税撤廃や関税率の大幅な引き下げにより参加国が共存共栄を図ろうというものです。しかしながら、この理想は、今やかつての輝きを失っているように思えます。
産業の空洞化現象は、世界に先駆けて地域経済圏を形成したEUにおいて、既に域内問題として人々の頭を悩ませてきました。また、NAFTAでの苦い経験もトランプ政権を以ってアメリカがTPPから離脱する最大の要因となりましたが、産業の空洞化に加え、同枠組で問題視されたのは、域外国企業の経営戦略です。アメリカ市場への無関税輸出を目的とした域外国企業の進出がメキシコに集中したため、製品価格や労働コストで劣位となる米企業を苦しめ、アメリカ人の雇用を脅かすこととなったのです。こうした実例に基づく実証的な根拠に加えて、理論的にも、リカード流の古典的な比較優位説は、そのメカニズムにおいて劣位産業の淘汰が生じる以上、ウィン・ウィン関係の成立要件は極めて限られていると言わざるを得ないのです。
地域経済圏は、現実と理論の両面から“揺らぎ”の中にありますが、以上の諸点から予測されるTPP11のリスクとは、“自由で開かれた市場”を謳う限り、当然に、域外国、特に中国や韓国といった近隣諸国の企業が最大の受益国となる可能性が高いことです。その徴候は、既に、APECにおける中国の習近平国家主席の演説に見られ、自らを自由貿易主義の旗手と位置付け、多角的な地域経済圏の形成に向けた並々ならぬ意欲を示しています。一時は不参加を表明したものの、TPP11への参加と主導権把握を狙っているとの憶測も報じられており、中国がTPP11の成立をチャンスと見なしている様子が窺えます。
さらに、従来韓国企業が積極的に進出してきたベトナムでも、近年中国企業の進出が目立ってきており、TPP11の成立を見越した動きとも推測されます。TPP11を巧みに利用すれば、中韓の企業は、自らの国内市場においては関税障壁や一方的規制によって手厚く守られる一方で、製造拠点をTPP11域内の諸国に移転させることで、TPP11の加盟国市場に対して輸出攻勢をかけることができるのです。経済分野における対中国包囲網どころか、その結果は全くの逆となるかもしれません。
TPPへの参加については、劣位部門となる農業部門ではマイナス影響を蒙るものの、日本企業にとりまして輸出・投資チャンスの拡大によるプラス効果が期待できるとも説明されてきました。しかしながら、TPP11が発足した場合、日本企業は、国内市場においても他の加盟国から無関税で流入してくる中韓企業との熾烈な競争を強いられることとなります。場合によっては、競争力、特に、価格競争力に劣る日本企業の殆ど全てが“淘汰産業”となる可能性もないわけではありません(しかも、取り纏め役として既に譲歩を強いられている…)。
報道に因りますと、年明けには署名式に漕ぎ着けたいそうですが、TPP11は中韓企業の“トロイの木馬”となるかもしれず、地域的な経済関係にあり方については、拙速な判断は禁物のように思えるのです。
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トランプ米大統領が正式に脱退を表明したことで暗礁に乗り上げたTPP。ベトナムのダナンで開催されている今般のAPECでは、カナダのトルドー首相が難色を示したことで予定されていた首脳会合は中止となりましたが、新協定の名称は「包括・先進的TPP」に決まったそうです。
TPPについては、当初に合っては、台頭著しい中国に対抗するためのアメリカを中心とした地域的広域経済圏の形成としての意義が強調されておりました。レベルの高い地域経済圏を形成することで、通商分野における貿易ルール造りの主導権を握り、外部圧力として中国を牽制すると共に、関税撤廃や関税率の大幅な引き下げにより参加国が共存共栄を図ろうというものです。しかしながら、この理想は、今やかつての輝きを失っているように思えます。
産業の空洞化現象は、世界に先駆けて地域経済圏を形成したEUにおいて、既に域内問題として人々の頭を悩ませてきました。また、NAFTAでの苦い経験もトランプ政権を以ってアメリカがTPPから離脱する最大の要因となりましたが、産業の空洞化に加え、同枠組で問題視されたのは、域外国企業の経営戦略です。アメリカ市場への無関税輸出を目的とした域外国企業の進出がメキシコに集中したため、製品価格や労働コストで劣位となる米企業を苦しめ、アメリカ人の雇用を脅かすこととなったのです。こうした実例に基づく実証的な根拠に加えて、理論的にも、リカード流の古典的な比較優位説は、そのメカニズムにおいて劣位産業の淘汰が生じる以上、ウィン・ウィン関係の成立要件は極めて限られていると言わざるを得ないのです。
地域経済圏は、現実と理論の両面から“揺らぎ”の中にありますが、以上の諸点から予測されるTPP11のリスクとは、“自由で開かれた市場”を謳う限り、当然に、域外国、特に中国や韓国といった近隣諸国の企業が最大の受益国となる可能性が高いことです。その徴候は、既に、APECにおける中国の習近平国家主席の演説に見られ、自らを自由貿易主義の旗手と位置付け、多角的な地域経済圏の形成に向けた並々ならぬ意欲を示しています。一時は不参加を表明したものの、TPP11への参加と主導権把握を狙っているとの憶測も報じられており、中国がTPP11の成立をチャンスと見なしている様子が窺えます。
さらに、従来韓国企業が積極的に進出してきたベトナムでも、近年中国企業の進出が目立ってきており、TPP11の成立を見越した動きとも推測されます。TPP11を巧みに利用すれば、中韓の企業は、自らの国内市場においては関税障壁や一方的規制によって手厚く守られる一方で、製造拠点をTPP11域内の諸国に移転させることで、TPP11の加盟国市場に対して輸出攻勢をかけることができるのです。経済分野における対中国包囲網どころか、その結果は全くの逆となるかもしれません。
TPPへの参加については、劣位部門となる農業部門ではマイナス影響を蒙るものの、日本企業にとりまして輸出・投資チャンスの拡大によるプラス効果が期待できるとも説明されてきました。しかしながら、TPP11が発足した場合、日本企業は、国内市場においても他の加盟国から無関税で流入してくる中韓企業との熾烈な競争を強いられることとなります。場合によっては、競争力、特に、価格競争力に劣る日本企業の殆ど全てが“淘汰産業”となる可能性もないわけではありません(しかも、取り纏め役として既に譲歩を強いられている…)。
報道に因りますと、年明けには署名式に漕ぎ着けたいそうですが、TPP11は中韓企業の“トロイの木馬”となるかもしれず、地域的な経済関係にあり方については、拙速な判断は禁物のように思えるのです。
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