万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

北朝鮮の核・ミサイルによる脅迫効果の無効化を

2017年11月29日 16時11分33秒 | 国際政治
北朝鮮 重大報道で「『火星15型』の発射実験に成功」
 古来、戦争の勝敗は、優位兵器の保有によって左右されてきました。たとえ兵数や武器数で優ってはいても、相手方が自国よりも圧倒的に優位な武器を保有している場合には、あえなく敗北を喫する運命が待ち構えていたのです。

 優位な武器の保有は、有事に際しては勝因となると共に、平時あっても、相手国を脅迫・威嚇する手段として用いることができますし、敵国に軍事行動を思い止まらせる抑止力としても作用します。かくして、各国とも、僅かでも他国よりも性能の優れた武器を持とうとするインセンティブを有するのです。ところが、際限なく兵器開発競争が続けた結果、核兵器という、敵国どころか人類を絶滅しかねない兵器が開発されてしまいました。ここに至って、国際社会はようやく兵器開発競争に歯止めをかけるべく、一部に核保有国を残しながらも、国際条約を以って核兵器の開発・保有を制限するに至ったのです。NPT条約に加盟した諸国は、人類の生存と平和を願う善意から同条約に署名し、国際法秩序の下における共通の行動規範としたと言えるでしょう。

 さて、北朝鮮の核・ミサイル開発問題については、古来の優位兵器保有願望から説明することができます。しかしながら、北朝鮮の主たる核・ミサイル開発の目的は、有事における実践的な使用よりも、平時における利用、しかも、他国に対する脅迫や威嚇であると推測されます。何故ならば、第一に、実際に有事となり、米軍と真正面から戦えば敗北は必至であり、金正恩体制も消滅する可能性が高いからです(韓国側に逃走した北朝鮮兵士の健康状態を見れば、激しい地上戦に耐え得るとは思えない…)。“破れかぶれ”での核使用もあり得ますが、暴力団がそうあるように、脅迫手段こそ相手に要求を呑ませる重要な“商売道具”なのです。

 第二の理由は、NPT体制、あるいは、核兵器禁止条約によって他国の核保有が禁じられている状態は、核保有の脅迫効果が発揮される最適環境であるからです。人類の生存と平和を願う善意が、北朝鮮に脅迫に適した環境を与えるという皮肉な結果となっているのです。これも、平和な社会を脅かす暴力団の問題と類似しており、銃刀法によって一般の人々が対抗する武器を保有できないから状況こそ、暴力がその威力を振るうのと同じです。ICBMやSLBMを完成させれば、北朝鮮は、全人類を人質にとることもできるのです。

 北朝鮮の発想と思考が、悪の本質である利己的他害性を行動原則とする暴力団と等しいと考えれば、その行動を容易に理解することができるのですが、問題は、言わずもがな、この核兵器による脅迫を目論む暴力主義国家をどのように対応するのか、ということです。脅迫が北朝鮮の第一の目的であれば、まずは、脅迫効果を無効にすることが肝要となります。脅迫とは、脅迫を実行する舞台が必要となりますので、この場合、北朝鮮の核やミサイル保有を前提とした交渉による解決は、北朝鮮の“思う壺”となります。また、合意や話し合い解決が過去二度にわたって失敗―94年の米朝枠組み合意と六か国協議―した以上、たとえ核・ミサイル放棄を前提とした交渉であっても、騙される可能性が極めて高いと言わざるを得ません。しかも、犯罪行為に“飴”を与える行為となり、深刻なモラルハザードが生じます。

 となりますと、脅迫を常とする暴力国家への対処手段としては、積極的手段と消極的手段の二つに絞られてきます。積極的手段とは、武力による強制的な核・ミサイル排除であり、この手法を選択すると、それが米国民の安全を守るという“アメリカ・ファースト”の結果であれ、米軍が“世界の警察官”の役割に復帰したことを意味します。そして、アメリカが最も低リスクで軍事行動を実施できる期間は、北朝鮮がICBMを完成させるまでとなりますので、残された時間はごくわずかしかありません。

 もう一方の消極的手段とは、ミサイル防衛システムの強化を図りつつ、これまで以上に経済制裁を徹底することで、同国が核・ミサイルの放棄に応じるまで、あるいは、体制が崩壊するまで手を緩めることなく、北朝鮮を締め上げる手法です。もっとも、この手法には、制裁実施中に北朝鮮が核・ミサイル技術を完成させるリスクがあります。この場合には、北朝鮮側から宣言による脅迫、あるいは、核・ミサイル保有を前提とした交渉の開始が提案されるでしょうが、脅迫効果を無効とする所期の目的に従い、アメリカ側には、同政策を選択するに当たっては、決して脅迫には応じず、交渉提案も拒絶するとする固い覚悟が必要とされます。仮に、この手法でも北朝鮮が核・ミサイルの放棄が実現しない場合には、現行のNPT体制を解消し、全諸国の核保有を前提とした新たな国際的な核管理体制を構築する必要が生じることとなりましょう(あるいは、際限なき武器開発競争の再開か…)。

 武力行使と経済制裁とを比較しますと、後者には“制裁の抜け道”や協力国が背後に控えている可能性もありますので、リスクがゼロではないにせよ、前者の方が手段としては確実です。本日早朝に過去最長の射程距離とされるICBM―「火星15号」―の実験が実施され、北朝鮮問題が時間との戦いとなった今、トランプ米大統領、並びに、国際社会は、重大な決断を迫られていると思うのです。

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