先月末から、県立美術館で杉浦非水という人の個展というのか、その生涯をふり返る展示が始まっていました。
評判は上々でした。ネットでチラッと見たんだったかな。そんなにいいんだったら、見に行ってみようと思いました。久しぶりに美術館に行くんです! 奥さんと二人で行くなんて、二年ぶりくらいになるのかなあ。
上野・浅草間の地下鉄ができた時、それは銀座線という古い地下鉄でしたね。80年代の初め、サビサビの浅草に行く時、かなり古い地下鉄に乗った記憶があります。ひと駅だか二駅、それこそ上野・浅草間だったか、乗りました。
よく分からなくて、ただ古いという印象しか残りませんでした。当時も今も、奥さんとフラフラ歩いてたんですけど、当時は電車よりも奥さんと歩くということだけで満足してたというか、それしか頭になかったような気がします。
浅草も、あんなに憧れてた土地だったのに、こんなに私とのとっかかりが見つけられない、さびしい街という印象でした。花やしきという無料の遊園地はやさしかったけれど、それでも、若い私たちには、ものさびしい気持ちが広がりました。
浅草って、みんなの憧れの場所だったはずだし、いろんなドラマがあったはずだし、それを地方にいた私たちは見たはずですが、80年代初めの浅草は、あっさりしていて、一見さんがノコノコ歩くところではないようでした。田舎者は拒否されてる感じがしました。
1927(S2)年、欧州帰りの非水さんは、渾身のポスターを作り上げました。みんなの夢や希望が集うような、ワクワクしながら地下鉄なる乗り物に乗るという、高ぶる気持ちを表現していました。
向こうに見えるトロッコみたいな電車に乗れば、夢見る浅草の地にたどり着けたんですね。
大人たちは楽しそうです。女性もみんなおしゃれをして、モボモガの世界です。エノケンさんが活躍した時代に重なるんでしょうか。
その大人たちに連れられて、子どもも楽しそうです。
でも、一番手前の男の子は、トリを大事そうに持っています。まさか、生きたトリではないですね。おもちゃのトリなんだろうか。
色からすると、たぶんおもちゃ。でも、昔の男の子は、そんなおもちゃを抱えてハイカラな乗り物に乗ったんですね。
自慢のおもちゃだったのかなあ。
美術館の入り口のところには、なんとポスターから抜け出てきた男の子が光の中に立っていました。やはり、トリのおもちゃは握って離さなかった。大事なんだろうな。
対するゾウさん、これはどんなキャラなんでしょう。
これも、展示を見ていくと、商業デザインでお仕事をした非水さんが、いろんなコマーシャル・ポスターを受け持っていて、カルピスという会社の水で割るあの飲み物のポスターを何枚も描いていて、モチーフはずっとマンモスやゾウという、その系統のゾウさんのようでした。
依頼主さんから、大きくて立派な動物をうちの会社のキャラにしてください、とでも依頼されたのか、非水さんが勝手にイメージをふくらませたのか、大きく立派でやさしい大人になりますように、そんな祈りだったのか。
ゾウさんは、カルビス社のイメージキャラになっていました。
スケッチ、植物の細密画、本の装丁、レタリング、いろんな方面で工夫してデザインというものを送り込もうとしていた。
大正の初めから、昭和にかけてデザインの世界で、外国にもあったきらめきみたいなのを、日本に取り込んだアーチストがいたんですね。
貧乏なので、図録は買いませんでした。私は、何をしに美術館に行っているんだか、わからなくなりますが、どうも、昔の街の中の風景というのを、今に生かしたいみたいな、そんなたくらみがあるようです。
どれくらい取り込めたかなぁ。