甘い生活 since2013

俳句や短歌などを書きます! 詩が書けたらいいんですけど……。

写真や絵などを貼り付けて、二次元の旅をしています。

ガルシン「信号」のラストより

2016年07月25日 07時33分37秒 | 一詩一日 できれば毎日?
 日米通算200勝の黒田博樹選手、ことばを大事にしていた人なんだなと思いました。

 やはり、ことばを大事にしないと、何事かをなす人にはなれません。私もことばを大事にしているつもりなんだけど、何事もなさない人なので、何事もなしえていません。

 もう居直ってしまって、どうせ私はこんなだけど、それでもことばを大事にしているんだよと、ガルシンの「信号」から抜き書きします。

 セミョーンは小屋まで駆けつけぬうちに、くるりと後ろ向きになると、前より一層の速力で駆けだした。ほとんど無我夢中で、この先どうなることやら自分でも知らずに、ひた走りに走った。外されたレールのところへ戻ってみると、例の枝がうず高く散乱していた。彼は身をかがめて、その1本を引っつかむと、何のつもりかは自分も知らずに、そのまま先へ駆けだした。

 もう列車の近づく気配がしていた。はるかに汽笛の音が聞こえ、レールが微かに規則正しい震動を伝えはじめていた。もうそれ以上は走る力がなかった。彼は怖ろしい場所から百間(200メートルほど)あまりの所で立ち止まった。

 その時ふと、一条の光明がさっと頭に閃(ひらめ)いたのである。彼は帽子をぬぐと、その中から木綿のハンカチを取りだした。それから長靴の銅に手を入れて、小刀を取りだした。そして十字を切った。……『主よ、恵みたまえ!』と。

 その小刀を彼は矢庭(やにわ 突然)に、自分の左の二の腕へつっ刺した。血はさっと噴き出て、熱い流れをなしてほとばしった。彼はその血潮にハンカチを浸して、しわを伸ばして拡げると、枝の先に結わえ付けて、わが血に染めた赤旗をかかげた。

 彼はつっ立ったまま、その旗をしきりに打ち振る。汽車はもう見えていた。旗は機関手の眼には入らぬと見え、ぐんぐん汽車は近づいて来る。




 ああ、それなのにセミョーンは貧血か、意識がもうろうとして倒れてしまう。ああ、レールが外されているから、汽車は脱線し、大事故が発生する。でも、セミョーンの意識は遠ざかる。

 そもそもレールはどうして外されているのか? 犯人はだれか?

 犯人は、セミョーンの仕事仲間で、セミョーンと同じ信号夫だった。

 事故は起きる。絶体絶命というとき、犯人であり、セミョーンの友人のヴァシーリイは旗を取り上げ、大きく振ると、汽車は気づいて停車する。ヴァシーリイは逮捕されて、それで終わりという、あまりにも古典的な展開でした。

 でも、私は大好きで、ずっとずっとガルシンさんを支持し、訳者の神西清(じんざいきよし)さんも支持してきました。そして、60近くのオッチャンになってしまった。

 というわけで、私も、自らの血で作り上げた赤旗を振り上げ(痛い思いをもっとしないとダメかもしれない。痛いのイヤと逃げてるからなあ……)、毎日に向かっていきたいと思います。 


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