
この本堂の舞台から見える香炉は、伊勢の国の松坂の商人・小津なんとか衛門さんが寄進したものでした。そりゃ、松坂の人たちにとって、まっすぐ街道を行けば、このお寺にたどりつくわけですから、そりゃ信心したくなりますね。私は貧乏人だから寄進はしないけど、長谷寺さんもこんな目立つところに松坂の商人さんを出してくれて、うれしいやら、恥ずかしいやら、困ってしまう感じです。
観音さんにお参りしようと決めて、長谷寺にまっすぐに向かいました。祭礼もないのですし、冬ですからお客さんはまばらで、近鉄の急行は止まらず、途中で準急に乗り換えてやっと長谷寺駅に到着しました。

駅前は閑散としていました。5月の連休に昔来たときには、雨にもかかわらずすごいお客さんでしたが、今日は十人ほどが降りただけでした。坂を下ると、小さな公園があって、遊具たちが手持ちぶさたで集まっていました。こんな小さな公園に、こんなにたくさん遊具動物を並べて、だれに遊ばせようというのでしょう。長谷寺に遊びに来た子ども連れ目当てに作られたものでしょうか。
1 冬の日や 遊具動物 坂のみち
国道165号の信号を渡り、初瀬川の橋を越えたら、いよいよ長谷寺への参道です。ものすごく込んでる印象があったのですが、今はシーズンオフなのか、観光客が1人、2人です。お寺から帰ってくる人たちもほとんどいません。通るクルマは地元の軽トラばかりで、どうしたんだろうという感じです。

この川と国道は、いつも近鉄で大阪へ行くときに見ているものですが、今こうしてそこを歩いてみると、あんなにクルマは絶え間なく行き過ぎるのに、どうしてお寺へ行こうとする人がいないのか、何だか不思議な感じです。みんな長谷寺への信仰を忘れたんでしょうか。まさかねぇ。でも、歩く人がすくないです。

しばらく歩いてみたら、商店街からふたたび川を渡って、神社に向かう赤い橋が見えました。以前はそんなの無視してお寺一辺倒でしたが、今日は特にこれという予定はないので、行き当たりばったりで行ってみることにしました。

橋を渡ると、木々の向こうに国道を走るクルマが見えます。延喜式にも載っている古社ということですが、社殿は見えなくて、とにかくここを上ってみたら、何か見つかるかもしれないので、だれもいない参道を「よいしょ、よいしょ」と自分にかけ声をかけて上りました。
こま犬さんを見つけました。そんな千何百年のこま犬さんではないかもしれませんが、新しいものでもなさそうで、しっかりお社を守っておられます。
長谷寺は、天武天皇から聖武天皇の時代にかけて、少しずつ作られていきました。平安時代には1つの信仰スポットとなり、都の貴族女子には人気がありました。そのお寺と時代を同じくして、こちらは伊勢神宮への通り道であるので、斎王(皇室のお嬢さんが天皇の代理として伊勢神宮に出仕なさっていた)さんも、伊勢に赴任するときにはここにお参りしたり、伊勢神宮そのものも、大和から伊勢へお移りになるとき、どうしても一足飛びにはいかないので、あちらこちら休憩所が必要だったようで、その最初の休憩ポイントとしてこのお社ができたような感じでした。
その由緒ある神社にお参りして、何だか正当な初瀬参りをしている気分になってきました。こうなると、あちらこちらで頭を下げて、みんなの平安をお祈りしたくなりました。
2 冬の川 社の森へつづく道
3 冬の日や 観音さまの 街静か
4 長谷寺や 草餅半分腹に入れ